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魔術の代償  作者: 代償魔法使い
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「よそ者は村に入れる事はできない」


 男は旅の途中で立ち寄った村で門前払いを受けていた。

 どうにか頼み込んで食料を売ってもらう事は出来たが、大きな村ではないが故か値段は通常の物と比べても高額だった。


 その日の晩はいつも通りのわびしい食事だったがしばらく食料の心配は必要がなく、また村のすぐそばだった事もあってかゆっくりと体を休める事が出来たのだろう。

 翌朝消し炭になってしまった焚火跡に土をかけながら男は今後の予定について考えていた。

 そんな時だった。


 村の中から悲鳴と怒号、爆発音と崩落音が響き渡った。


「何があった」


 あわてて村から逃げ出してきた者たちに声をかける。


「モンスターだ!

奴ら地下に道を作っていやがった!

畜生! 今年の収穫がいっぺんにパーだ!

おいあんた手伝ってくれよ!

村にはまだ人が残っているんだ! 」


「そりゃ構わないが……昨日は村に入るなと言われたんだがいいのか」


「そんなこと言っている場合じゃないだろ!

頼む謝礼は支払う! 」


「まあいいさ、謝礼は水だけくませてくれればいいさ」


 そう言って男は腰につけた皮袋から屑鉄のかけらを取り出して、村に乗り込んだ。

 村の中は酷いありさまで崩落した家屋、それに押しつぶされて死んだのか血が川を作っていた。

 その一方で肥大化した獣のような存在、モンスターに食い散らかされている女性らしき物体を視界に収めた男は手に持った鉄くずを代償に魔法を顕現させる。

 代償魔法、原初の魔法とされており魔力の他に代償をささげる事で低コストでありながら高速で魔法を行使できる。

 反面代償が無ければほぼ無力であり、また代償に捧げた物の純度や性能に比例して効力が増減する。

 さらに通常の魔法と比べると効力が薄く、攻撃に使うのであればナイフで切りつけた方がまし程度の威力しか出せないこともある。


「いけ」


 だからといって決して弱いわけではない。

 男は屑鉄を代償にナイフの刃だけを顕現させ、モンスターに向けて射出した。

 その速度は男壁を突き破り、破裂音を響かせてモンスターの体を貫いた。

 過ぎたる威力は無用の破壊をもたらす、突き抜けた刃は後方にあった建物……だった瓦礫の壁に突き刺さって砕けた。


 当然体内を刃物が通り抜けたモンスターは無事では済まない。

 運良く、いや悪く急所を外してしまったが致命傷だったのだろう。

 血反吐と先ほどまで口にしていた死体を吐き出してのた打ち回り、そして苦しみぬいて死んだ。

 だが投擲時の破裂音とモンスターの断末魔が周囲にいた残りのモンスターも引き寄せる事となった。

 その数はおよそ30、広範囲攻撃を得意とする炎や風の魔法使いであれば殲滅も容易かっただろう。

 しかし男の魔法は金属を使った魔法を主体としていたためそれは不可能だった。

 結果として一匹ずつつぶしていくことが最善策だった。


「どこにこれだけいたんだかな」


 ぼやきながらも男は屑鉄を握りしめた。

 それは柄も鍔もない一振りの剣となり顕現した。


「まずは一匹」


 呟きながらの一閃は犬のようなモンスターの喉笛を切り裂き、そして剣が砕けると同時に地面に倒れ伏した。

 間髪入れずに刃を作り出して射出し、二匹目三匹目と殺していく。

 とびかかるモンスターは避けて一太刀、受けて一閃とスタイルを切り替えて柔軟に対応する。

 そうして最後の一匹になった瞬間の事だった。

 背後から飛来した矢を屑鉄のかけらで作り出した盾で防いだ。


「狙いがそれた……という感じではないな。

どういうつもりだ」


「お前が! お前がこの村に来なければ! 」


「……この類か」


 男はこの手の対応になれていた。

 魔法使いとは、特に代償魔法使いは市民から嫌われる傾向にある。

 その理由として魔法使いには根強い選民思想があることにくわえて、嫉妬や妬み、嫉み、自身にはない強大な力への恐れなどがある。

 さらに代償魔法の一部、肉体や人命を代償とすることで強大な力を振るう事が出来る物が魔法の中では禁忌とされる部類であるため、通常の代償魔法でさえ忌避される傾向が強かった。


「次同じことをしてみろ、俺はこの村を見捨てる」


 周囲にいたモンスターの多くは男が始末した。

 それでも村にはモンスターが残っていたし、周囲の森や草原から血肉の臭いに釣られたモンスターが集まっていた。

 それを戦闘の心得の無い村人だけで退ける事は不可能だ。


「くっ……」


「それに俺は関係ない、偶然村に立ち寄ったらモンスターに襲われただけだ。

ここまでで代償を随分消費したんだがな」


 そう言って腰から下げた、今は空になってしまった皮袋をさかさまに振って見せる。

 実際は手荷物の中にいくらか鉱石が入っていたがそのことは黙っている。


「そういうわけだ、資材を少し使わせてもらおう」


 男が手にしたのは農具だった。

 鉄製のクワ、その金属部分に触れて魔法を行使する。

 残ったのは木製でできた部分のみ、鍬はただの棒へと姿を変えた。

 その代りに男の手には先ほどまでの、屑鉄製の武器とは違う艶めかしい剣が握られていた。


「あと何匹だ」


 近くにいたモンスターを切り捨てて周囲を見渡す。

 先ほどは最後の一匹だったように見えたもののこの短時間で数十匹のモンスターが集まっていた。

 手に持った剣は砕ける様子はないがこれだけの数を切り捨てられるようなものではなかった。


「ちっ……」


 逡巡の後舌打ちをして剣と農具数本を代償にさらに魔法を行使する。

 それは人の力では振り回せない、剣と呼ぶ事が出来ないほどに巨大な物体だった。


「伏せていろ! 」


 声を張り上げて近くにいた村人たちに注意を呼びかける。

 その言葉に従って地面に伏せたのを見計らって剣を振った。

 それは筋力では振れない重量だったが魔法として横なぎにすることは可能だった。

 

 魔法の原則として物体に方向性を与えるという物がある。

 例えば指向のない炎に進行方向、熱の向き、その他にもさまざまな方向性を与える事で火球として射出するという魔法がある。

 その応用には炎を剣の形に固めて浮遊させ、接近する敵を切り裂くという魔法があり男が行ったのはさらにその応用に当たる。

 炎で行う魔法を鉄で行った、それだけのことだが実態の有無というのは魔法の難易度に大きくかかわる。


 実体がなければ方向性を定めるのはさほど難しくないからだ。

 鉄の塊に風が当たろうと大したことはない、だが炎に風を送れば揺らぎ消える事もある。

 その違いが魔法という現象の場合如実に表れる。


「次はだれだ」


 鋭い視線をモンスターに向けて剣を空中に待機させながら男は誰にでもなく問いかける。

 その言葉が通じたわけではないだろうが、モンスターたちは踵を返して走り去っていった。

 生存本能が食欲に勝ったのだろう。


「……ふぅ」


 ようやく終わったとため息をついて剣を盾に変える。

 その瞬間盾に数発の衝撃を受けた。


「この村から出ていけ! 」


 今しがた助けた村人たちだった。

 彼らの放った矢は盾に阻まれたものの、明らかに男の急所を射抜かんとしていた。

 その視線から憎悪、嫌悪、焦燥、恐怖、哀愁を感じ取った男は何を言うでもなく荷物を手に取り村から出た。

 その間盾を構えたままだったが村から少し離れたところで魔法を解いた。


 そして、その後にはひび割れや刃こぼれの目立つ鍬や鍬が残っていた。

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