プロローグ
「寒いな……」
葉を赤や黄色に染めた木々の生い茂る森で、男は肌をさすった。
冬も目前にした今マントを羽織っていても寒さを防ぎきることはできない。
今夜の寝床を早々に見つけなければ男は凍死してしまうだろう。
最悪の場合どこかに腰かけて徹夜という手段も視野に入れ始めた頃、男の視界には断崖絶壁が見えた。
岸壁に沿って歩く事1時間、洞窟を見つける事が出来た。
中は10mほど進むと行き止まりになっており、他の動物がすんでいる形跡もない。
まだ日は高い位置にあるが男は本日の寝床を確保する事が出来た。
それからは枯れ枝や葉を集め、ついでに秋の実りをいくつか拝借して夕飯の準備を進めた。
焚火は外、それも木の陰になり煙が目立たない位置を心がけた。
残った燃えカスと少量の土は洞窟に持ち込み、消火を確認してから木の葉を乗せて寝床を作った。
「……ふぅ」
木のみを使ったスープを飲んで、身体の芯からじわりじわりと熱が広がっていくのを感じながら男は準備を進める。
洞窟の入り口に布を張り付け、枯れ木を入り口付近にばらまいた。
布は夜風を遮断し、枯れ木は鳴子の代わりとしてだ。
それらを終えて日が暮れ始めると同時に男は眠りについた。
翌朝、久方ぶりの休息を経て男はもう一日この洞窟を拠点に行動することを決めた。
昨夜は寝床の準備などに追われて六に探索も出来なかったが、よく見るとこの洞窟には鉱石のようなものがいくつか転がっていた。
そのほとんどは金にならないような屑鉄だったり、爪の先程の宝石でしかなかったが男にとってはその程度で充分だった。
幸い洞窟は落盤や崩落の危険性は少なく、手で掘った程度ならば崩れる事はなさそうだった。
「運のめぐり合わせに感謝しよう」
男はそう呟いて朝食を口にした。
昨晩の残りのスープだった。
それからは壁を掘り返して鉱石を集め、必要であれば石を砕いて鉱石を取出し、服のあちらこちらに取り付けられたポケットやカバンの中に放り込んでいった。
それ以外の時間は食料や薪を集め、近くの泉から水を汲んで旅の準備を整え、そして簡易的な物を口にしてぐっすりと休息をとって、よく朝日が昇る前に出発した。
目的地はなく、ただ漠然とした旅だったが男は満足していた。