アザレアにて
「兄様!教室は“シナモン家”について習ったんですよ!兄様の御実家ですよね?」
「あぁ……もう、あの家についてはお喋りしないと約束したでしょう?」
「でも!先生が失踪してしまったシナモン家の双子の弟は良く出来た人間で、容姿端麗、才色兼備、それでいて、文武両道素晴らしい人間だ!って褒めてたんですよ!それを聞いた時アザレアは嬉しかったんですよ!兄様は嫌われて無かったんですよ?」
今は、少年らしい笑みを浮かべているがもう、あと何年かすると、少年らしい笑みは見れなくなってしまう。
だから、出来るだけトラウマを無くしたいと思う……
だって、先輩が造り愛した人物だ。
幸せに、なって欲しい。
先輩の愛した人物が、
心の底から笑う様を隣で見たい。
これは、私のエゴだ。でも、彼が笑ってくれるならエゴでも良いかと思ってしまう。
だって、彼は先輩が造り愛した人物だ。
見目麗しいもの。
サラサラの亜麻色の髪は三つ編みにされ、右側に流されている。
兄様に殺されかけた時は肩辺りだったから、随分伸びたものだ。
優しく弧を描く肉桂色の瞳は切れ長で……瞳の色が違う事を何度悔やんだ事か……
高い鼻や紅を引いたように薄い桜色の唇。
近づくと躑躅の花の香りがする。
私は兄様が大好きだ。今なら、ヒロインより、兄様が好きと言える
だからこそ嫌われたくない。
「ははっ……そこまで出来た人間じゃないよ。でも、僕はこの家に来れて良かったと思うよ?」
「にっ……兄様!大好きです!何時かきっと嫌いになる時が来ても要らないなんて言わないで下さい!」
「言わないよ。ところで……アザレアは戦乙女に選ばれたんだったてね。そこでプレゼントですよ。 」
彼のてのひらには、キラキラ光る鍵のチャームの着いたブレスレットが乗せられていた。
確か、ヒロインがラストで渡される魔具だったと思う……
『僕と永遠を誓ってくれませんか?』
そう、彼が述べ彼の手を取りハッピーエンド。
手首には、キラキラ光る鍵のチャームが着いたブレスレットが光る笑顔の花嫁のイラストを先輩の友人が書いて暮れたのを覚えている。凄く綺麗なイラストで貰ったのだ。
「えっ……でも、これは……兄様!大事な物は一生を誓う大事な人に渡して下さい!」
「アザレア……君はもう、12でしょう?去年王子様との婚約が決まったばかりだ。もう、アザレアを僕の隣に置く理由も無い。もう守って貰わなくとも自分自身を守れるでしょう。だから、お守りです。」
「そんな……アザレアは何時までも兄様のお側に居ります。例え王子様に嫁ごうとも、アザレアの一番は兄様です。」
なのに!どうして分かってくれないのだ。
私の一番は兄様だ。それ以外有り得ない。
もし、兄様以上が居るとすれば先輩だけど、もう二度と会えないだろうから、兄様が一番だ。どうして分かってくれないの?
あぁ……初めて私を殺した後輩の気持ちが分かったわ。
嫉妬で狂いそうね……後輩は何時もこんな気持ちだったのだろうか?なんだか申し訳ない。
「アザレア……幸せになってくださいね。」
「兄様!アザレアは兄様のお側に居る事が幸せです。嫁いで純白では無くなったアザレアはいりませんか?」
なら、婚約破棄します!どうせ、高校卒業時、18になったら婚約破棄されますし、死にます。それなら、早めに婚約破棄して兄様の傍に使えようと思う。側が無理なら侍女でもいい。とにかく兄様の役に立ちたい。
「そんなことないですよ。アザレアは綺麗です。兄にアザレアの可愛らしいお嫁さん姿を見せてくれないのですか?」
「ぐぅ……それが、兄様の幸せなら、アザレアは何処にでも嫁ぎますわ。」
「何処にでもは困りますね。アザレアを幸せにしてくれる人に嫁いで下さいね。」
先輩が愛した病んでる人はアザレアの幸せを望む素敵な人になってました。
無理矢理にでもアザレアを嫁に望んでくれたら良いのにと思った私は悪くないです。
病んでしまえ!病んでしまえって思うのにやっぱり可愛いから……
傷付けたくないアザレアだけど、傷ついて欲しいとも思う。
エクルと共依存になってしまえば良いのだと思ってしまうはエゴですが、ノワール兄妹には幸せになって欲しい。




