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ホーンテッド・プリンセス!  作者: 夜斗
エピローグ
31/34

《エピローグ/A》

 小鳥のさえずりが、何処かで一日の始まりをこっそり祝福しているかのように聞こえてくる。

 中途半端に掛かっていたカーテンを開くと、東の空から真白の光が差し込んでくる。


「……」


 本日、雲一つ見えぬ晴天なり。

 部屋の窓を全て開け放って新鮮な空気と入れ替えると、御幸は洗面所に向かって顔を洗い身支度を済ませていく。

 制服に着替えて、必要な教材やノートを鞄に詰め込んで、鏡を見て身なりを整える。

 その顔は、いつになく柔らかい、けれど僅かにぎこちなさを覚える少年のもの。


 コンコンコン。


 回数は三回。

 親しい家族や兄弟に対する、所謂プライベートノックというものだ。


「どうぞ」

「ちょ、朝食のご用意がで、でで、出来ました……」

「……今行くよ」


 支度を終えた鞄を片手に御幸は部屋のドアを開く。

 ドアの向こうには、きちんとメイド服を着こなしたマリエルがちょこんと、まるで主を待つ小さな忠犬のように立っていた。

 御幸の姿を見るなり、彼女は一度びくりと肩を跳ねさせ、その後あたふたしながらぺこりと頭を下げる。


「お、おは、おはようございます……で、です」

「……あぁ、おはよう」

「ふぇ? ……は、はい。おはよう、ございます……」


 挨拶が返ってきたことがそんなに驚きだったのか、彼女の黒い瞳が大きく見開かれていく。

 無理もない、と思う。

 当初、御幸は彼女に対し嫌々としか挨拶を返さなかったし、御幸自身は彼女をめんどくさいヤツだと認識していた。マリエルはマリエルで、御幸と出会って間もない頃は警戒し過ぎて上手く話しかけられなかったし、それが原因で御幸に迷惑を掛けてしまったコトもある。

 だが今は、お互いに少々意識が変わっていた。


「……あ、あの。ご主人様、お怪我とか、あの、大丈夫……でした、か?」

「ん、大丈夫。ほとんどかすり傷だったから。……その、そっちこそ、大丈夫だった?」

「わ、私ですか? え、えーっと……はい。何とも、なかったです」


 ぶっちゃけて言うと、マリエルは御幸救出のためにと天窓から転がるように――というか完全に転がって――侵入したものの着地に失敗して、それからフランヴェルに起こされるまではずっと気絶していたのだ。覚えているのは万華鏡のようにくるくる回っていた視界と、目を覚ました時に見た“本気”状態のフランヴェルの顔だけ。


「そっか……なら、いいんだけど」

「は、はい」


 何となく弾まない朝の会話もそこそこに、二人は揃って白桜邸の廊下を歩いていく。目指すは西棟一階の食堂。何度か通り慣れた道を見回していると、ふとマリエルの上目遣いな視線に御幸は気付く。


「……どうかした?」

「ひぇ? あ、えと、あの……私、ご主人様に、色々とお礼を言い忘れてて、あの……あのあの」

「お礼? ……別に、そんなのいいけど」

「で、でも! ……だ、ダメです! こういうの、ちゃんと、言わないとダメなんです!」

「お……おう」


 ふすー! とかなり強気に鼻息を鳴らして力説したかと思うと、直後に顔を真っ赤に染めて目尻に大粒の涙が浮かび上がっていく。


「あ……あ゛あ゛ばばわわわわ!? す、ずびばぜんずびばぜ、うぇ、あ、あの、のの……」

「ど、何処に謝る理由があるんだ? というか、いくらなんでもそこまで畏まられると僕も困るというか、何と言うか……」

「す、ず、びまぜんすみま」

「もういいのに……ほら」


マリエルの、涙と濁声と鼻水だらっだらの顔に見かねた御幸はポケットからハンカチを取り出して差し出す。マリエルは何度も頭を下げながら御幸から受け取ったハンカチで思い切り顔を拭いて、それから真っ赤な目のまま、一度ぐすっと鼻をすすってから御幸にお辞儀をした。


「あの、あの、色々と、ありがとうございました。ジャージとか、あの、その……わ、私、ここ、これからも、ご主人様の為に、せ、誠心誠意お役目をまま、全うする、しょ、所存で!」

「その……一つだけ、いいか?」

「は、はい! 何なりと!」

「……ご主人様、ってのはやめてくれないか? 何か、慣れてないせいかこう……」


 呼ばれ慣れていないせいもあって、大した身分でもないのに“ご主人様”と呼ばれ続けると、何とも言えないむず痒さが生じて落ち着かない。あくまで、御幸は彼女の雇い主の息子というだけで、別に御幸自身が彼女たちの“ご主人様”というわけではない。……ような気がする、という御幸の感想だ。


「名前でいいから。フランヴェルは最初から名前で呼んでるし、クラリッサさんも……まぁ、アレも一応名前で呼んでるってコトになるか。だから、マリエルも同じように名前でいいから」

「で、でも……」

「……ま、無理にとは言わないよ」


 御幸の言葉に、マリエルは困惑したような顔色でしばしその場で固まってしまう。

 別に、それぐらい我慢しようと思えば御幸だって我慢できる。

 所詮ほんのちょっとくすぐったい程度だし。


「わ、わかりました! み、御幸……さま! これから、よろしくお願いします!」

「……ん」


 ほんの少しずつ縮まっていく距離感。

 マリエルは頬を紅く染めながら、御幸はそれ以上何も言わず、歩調を少し落としてから歩みを再開した。

あとはエピローグが3つとあとがき1つ。

もーちょっとお付き合いくださいませ。


次回更新も明日です。

では、待て次回。

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