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ホーンテッド・プリンセス!  作者: 夜斗
第2章 約束と軋轢と愚か者の匂い。
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《第2章/第3話》 約束と軋轢と愚か者の匂い。

 因果応報、という言葉がある。

 元は仏教の教えのことで、人は良い行いをすれば必ず良い報いがあり、悪い行いをすれば必ず悪い報いがありますよという教訓。因果応報の“因”とは因縁という意味で原因を示し、“果”は果報の意味で結果や報いを示す。昨今では悪い結果ばかりに使われている印象だが。


「……」


 放課後の図書室。

 げっそりとした仏頂面でカウンターに座る御幸のプレッシャーといったら凄まじい。その実、彼にとってはただただ疲れているだけなのだが、その疲れから来ている倦怠感のようなものが全て御幸の表情筋を不機嫌に歪め、正面からそんな顔で迎えられれば先輩だろうと教師だろうと思わずギョッとしてしまう。

 とはいえ、そもそもの原因は御幸に在る。

 転入初日の圧倒的なまでの拒絶オーラを発揮したかと思えば、その直後に体育の授業で目を見張るような活躍――得点したわけではないから微々たるものと御幸は見ていた――をしてしまった。その結果がもたらしたものと言えば、例の熱血集団による部活の勧誘行為だった。


「なぁ白桜、よけりゃ俺たちと一緒にサッカーやろうぜ!」

「実はオーストラリアじゃ名のあるクラブに入ってたとかなんだろ? どうなんだ?」

「お前が一緒なら甲子園も夢じゃないぜ!」


 サッカー部が甲子園に何しに行くのかはさておくとして、御幸はそんな暑苦しい勧誘をほとんど眼力と拒絶オーラでブロッキングして、そして疲労困憊してこんな顔をしているというわけである。今までに経験のない疲労感に、未だ御幸の身体が反応出来ずにいる。飲み物を飲もうがお菓子を食べようが癒えない。そもそも食べる気すら起こらないのだが。


「……白桜君、大丈夫? 顔色真っ青だけど」

「……」


 本の整理を終えて戻ってきた名奈が心配そうに御幸の顔を覗き込んでくるが、軽く目を伏せて御幸は無視を決め込む。そうして黙っていれば、と言いたいのだが、名奈は御幸のことを心配してかあれやこれやと提案してくる。

 濡れタオルとかどうかな、とか。

 しばらく私がカウンターにいるから休憩して来たら、とか。

 何か飲み物買ってこようかと言われた時だけは「問題ないから」と短く答えてどうにか事なきを得る。

 結局御幸は下校時刻まできっちりと業務をこなし、チャイムが鳴り終えると同時に図書室の施錠を済ませ鍵を楠先生に手渡してから昇降口へ向かう。すると、何故か玄関には人だかりが出来ていて、一様に視線が空へと伸びている。御幸の眉根が歪む。


「……雨か」


 降水確率四十パーセントという曖昧な確率の割にしっかりと大粒の雫を落とす空を、それぞれが忌々しげに、あるいは気だるげに見上げている。傘持ってきてよかった~と安堵する声も混じれば、濡れて帰るしかないかと落ち込む声、中には部活が休みになるぞと浮かれている者もいる。多少なりと距離が近いとはいえ濡れて帰るのは御幸とて非常に不本意。

 傘代わりにと通学鞄を持ち上げようとしたその時だった。

 不意に、生徒たちのざわつく()が変わった。生徒の何人かが正面玄関の方へと指を差し呟き始める。


 何だあの黒いの? 車か?

 おい、あれってほら、金持ちが乗る……アレじゃね?

 あ、誰か出てきて……!?


 玄関を占拠している全生徒の視線が一点へと収束し、やがて何故か一斉にどよめきが上がる。人の壁に阻まれている御幸として何が起こっているのか分からないし、しかも言いようのない薄ら寒さを覚え始めたので強引にかき分けて外へ出ようとした――瞬間、


「御幸、迎えに来てやったぞ♡」


 何処かで聞き覚えのある声が、しかもちょっと可愛い子ぶってる感全開で自分の名前を呼び、その場にいた生徒全員が、ババッ! と凄い速さと驚異的なまでのシンクロっぷりで振り返る。視線の集中砲火を浴びた御幸は顔を引き攣らせ硬直していた。


「…………なん、で?」


 気品を感じさせるシックな模様が描かれた傘を持つクラリッサを従え現れたのは、白桜邸のご令嬢ことフランヴェルだった。最初に出会った時と同じ紅色のドレスを身に纏い、正門からここへ至るまでの道程を、まるで自分が遊び慣れた庭園かのようにゆったりと歩いている。金色のドリルを揺らし、コツ、コツ、と控えめな歩調で歩く様はまさしく深窓の令嬢。完全に他所様向けの笑みを浮かべたなら、周囲の男子が、ごくり、と生唾を飲み込む、圧倒的なまでの美少女っぷり。


「ふふ、もちろん雨が降ってきたからじ……おほん。雨が降ってきたからお迎えに、ですわ。御幸?」

「うふぉおおおおおおお!? 何だあのお嬢様!? 超可愛い!?」

「隣の執事さんも、クールで凄くカッコイイ……!」

「オイ! 御幸って誰だよ?」

「転入生? あのコ?」

「何だなんだ騒々しい! 何かあったの……か……?」


 生徒の騒ぎを聞きつけてやってきた生徒指導担当の教頭先生(だったような気がする)がフランヴェルとクラリッサの姿を見つけた途端、その場違いな恰好に驚いて眼鏡が斜めにずれる。昇降口が騒がしくて駆け付けたらお嬢様と執事がいた。普通の人なら誰でもビックリするシチュエーションかと思われる。ドレスの裾をつまみ、フランヴェルはそれらしく会釈を返す。


「え、っと……どちらさま、です?」

「お騒がせして申し訳ありませんわ。私、大切な殿方をお迎えに馳せ参じた次第なのですけど……」


 若干間違ってる感のある言葉と同時、紅色の視線が御幸の頬にプスップスッと突っついてくる。普段の古臭い言葉遣いを無理やり押し殺し、見た目に相応のご令嬢っぽい言葉と薄らと頬を染める仕草にその場に居合わせていた男子のハートがぶち抜かれる。


「た、大切な殿方って誰だ!? 誰なんだオイ!?」

「すげぇよすげぇ! お嬢様だ! ホンモノのお嬢様だ!? ホンモノのドリルだ!? 俺初めて見たよ!」

「お、俺と付き合って~!」

「ざけんなテメェ俺が先だ!」

「んだやんのかゴルァッ!?」


 暴動一歩手前の騒動にフランヴェルはくすくすと優雅に笑みをこぼし、クラリッサは瞳を閉じつつ不動、そして御幸は唖然としている。ごく自然に、御幸は人だかりの中へとゆっくりと後退ろうと試みるも――、


「さぁ、帰りましょう? 御幸?」


 名前と、視線と、そして白魚のように滑らかな右手が御幸へと差し伸べられる。生徒、そして教育指導の教頭先生の視線も含め御幸へと集中し、逃げ場を失った御幸は完全に包囲されてしまった。怒気を孕んだかのような眼差し、羨望、嫉妬、嫌な感情ばかり浮かんだ瞳に見つめられると人は呼吸困難に陥るらしい。胸の中にゴミでも詰め込まれたかのように息苦しくて堪らない。


「あれが、御幸ってヤツか……」

「ふざけんな……爆発しやがれ……」

「……月夜ばかりと思うなよ」


 御幸の危険が危ない。


「……で、その……彼とはどういった御関係で?」


 周囲の殺気で辺りが静まり返った辺りで、教頭先生が要らん一言をフランヴェルに告げる。瞬間、御幸の脳裏に矢の如くとある言葉がフラッシュバックする。御幸とフランヴェルとが出会ったあの日、さして気にも留めていなかったあのキーワードだが、事情も何も知らない人間が耳にしたならばそれは――、


「ふふ、御幸は私にとって一番大切な人……フィアンセですわ」


 御幸にとっての、死刑宣告に他ならなかった。

本日、蒼天のイシュガルドアーリーアクセスデイ!

新ジョブも楽しみですが、俺は新しい弓が欲しくてたまりませぬ……!


あ、はい。

第2章の第3話です。

というか、そろそろ何か活動報告書かねば……;


次回更新は6月26日の22時頃です。

では、待て次回。

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