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ホーンテッド・プリンセス!  作者: 夜斗
第1章 白桜邸と不愉快な他人たち。
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《第1章/第5話》 白桜邸と不愉快な他人たち。

 集まり、というのは所謂図書室の当番を決める会議のようなものだった。

 図書委員の仕事は、主に昼休みに図書室に訪れる生徒へ本を貸し出しと司書の先生の補助。放課後はそれらに加え、返却された本を元あった場所に戻したり、本の整理整頓や図書室の清掃などなど。文化祭などでも仕事はあるとのことだったが、一年生はほとんど雑用だという事で割愛。後は、昼休みと放課後の当番を決めるだけなのだが。


「……毎年そうだけど、昼休みの当番は人気なのよねぇ」


 何の理由かは不明だが昼休みの担当を希望する生徒が圧倒的に多く、溢れた他の図書委員は雑用係や文化祭補助等の項目に名前を書いてしまって、完全に出遅れてしまった名奈と御幸は放課後唯一の当番となってしまった。司書の楠先生が微かに眉根を寄せている。


「ちょっと不公平じゃなあい? 丸々一週間お願いしちゃうってのも……」

「いえ、別に構いません」

「へ? あ、はい。私も別に……大丈夫、です」


 決まってしまったものは仕方ないと名奈は諦め、そして御幸は腕を組み不貞寝の構え。それから簡単な連絡を済ませさあ解散……と、なるのは名奈と御幸たち以外の話。


「ごめんなさいねぇ……早速で悪いんだけど、今日からお願いしてもいい?」

「はい、わかりました」


 というわけで、名奈と御幸は放課後の仕事の説明を早速楠先生直々に教わることに。春物のカーディガンを羽織った優しげなおばさん、といった風貌の人で、昼休みは友達と話をしに来る人もいるから賑わうけど放課後はめっきり、たまに勉強しに来る人がいるぐらいだから大したことないわよ、と雑談混じりに説明を受けた。名奈は忘れないようにとメモを取りながら聞いていた。貸し出しの手順、本の探し方、元の場所に戻すときのコツ、その他諸々を説明を聞き終わると楠先生は申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「じゃあ、今日は職員会議に出るからもう行くけど……あとは、お願いね」

「わかりました。鍵は、職員室でいいんですよね」


 名奈が先生から鍵を預かる頃には、既に御幸はカウンターに頬杖をつきながら何処か適当な方向に視線を泳がせていた。早速頑張ろうと意気込んだ名奈は、まず本の場所を覚えようと図書館内をゆっくり歩いて回ることにした。


「…………」


 適当に棚を確認しながら、名奈は時折御幸の方を見る。頬杖をついてボーっとしてる様は完全にサボっているようにしか見えないのだが、それでも時々ファイルを開いたり閉じたりとそれらしく動いたりはしている。本が好きだから図書委員に名乗りを上げた、という風には一切見えない。横顔は至って真面目なのだが、徹頭徹尾人を寄せつけまいとオーラのようなものを発散している。名奈は特にどうとも思わなかった。というより、むしろ逆だった。


「……えっと」


 本棚の確認が終わり手持ち無沙汰になった名奈はカウンターに戻り御幸の隣の椅子に腰を掛ける。何か話さなきゃ、何か言わなきゃと考えを巡らせるも上手く思い付かず、図書室特有の本の匂いとぴしっとした静寂に呑まれてしまってどうにもならず。こういう時、そっちから話してくれれば楽なんだけど……という密かな願いが届く訳も無く、名奈の小さな言葉からきっちり十分が経過したところで。


「すみません、本の返却を」

「あ、はい! えと、えっと……」


 早速本の返却に訪れた二年生が現れて名奈は慌ててメモを取り出す。パソコンを動かして、それから該当する生徒のクラス番号を入力して、本の背表紙についているバーコードを読み込んで、返却ボックスに一時的に保存して……、


「どうも」

「……あ、あれあれ?」


 確認を終えてメモを閉じた頃にはすでに返却の処理が終わっていて本が一冊返却ボックスの中に収まっていた。この状況下で何事か、と考えるのは失礼だろう。名奈以外に今この場に図書委員はいないのだから、つまり隣に居る御幸が全てやったということになる。


「す、凄い……ですね。白桜君、もうやり方覚えちゃったんですか?」

「……」


 単純に尊敬の意を込めて名奈が言うと、御幸は無言でファイルを指差す。もう中身を読んで把握した、ということだろうか。どちらにせよ凄いことだと名奈は感心して、同時にこれをきっかけにこちらから話をしてみようと意を決した。


「あ……そうだ、まだちゃんと自己紹介してなかったですね。私、森尾名奈って言います。よろしく」

「……」


 無言、というのは何となく予想していたので名奈は気に留めずそのまま思い付いた言葉をそのままぽつりぽつりと口にしていく。


「あの、白桜君はどうして図書委員を選んだんですか? 本が好き……とか? 前の学校でも図書委員をやっていたとか?」

「……」

「……?」


 御幸の左目が静かに流れ名奈の方に向く。人畜無害そうな顔はまっすぐ御幸の方を見つめていて、御幸は無意識のうちに「……面倒な人」と当初の意識を改めた。黙っていれば向こうも呆れて相手をしないだろうと思っていた御幸だったが、不意に言いようのない居心地の悪さを覚え再度視線を名奈の方に向ける。


「…………?」


 まだ見てる。

 御幸が一切の言葉を返す気がないのにも拘わらず、名奈はまるで主の帰りを待つ忠犬かのようにじぃっと御幸の方を見て言葉が返ってくるのを待っている。居心地の悪さはその視線の所為だ。突き刺さるような、という比喩ではなく本当に視線が御幸に突き刺さっているのだ。無視を決め込んだとしてもこの居心地の悪さはあの屋敷と同等。小さく息を吐き、御幸は仕方なく非常にぶっきらぼうに最低限だけ答えることにした。


「別に本は好きじゃない。……帰るのを遅くしたいだけ、です」

「あの、死桜屋敷……うぅん、すっごく綺麗なお屋敷なのに……どうして?」

「……」


 また同じニュアンスの視線が御幸の背中に突き刺さり御幸の顔が引き攣っていく。一度答えれば十分だろうともう一度キツめに視線を送ってみたものの、その他大勢と同様に怯えるということはなくむしろ興味ありげにこちらを見つめっぱなし。嫌な汗が背中を這った、ような気がする。本能的に苦手な人間だと身体の神経が警鐘を発しているのかもしれない。


「あ、私は小学校の時は美化委員で、中学の時は図書委員だったんです。本は読むの好きだけど、いつも読むの遅いって言われちゃいますね……」


 で、それで?

 と言いたいのも堪えて沈黙に徹していると、何故か彼女は臆することなく自分語りを続けていく。


「……えっと、あそうそう。私の家は喫茶店やってるんですよ。お屋敷のすぐ近所にあるんですけど、見たことありませんか?」

「……」


 御幸の脳裏を過ぎったのは一度休憩にと寄ったあの喫茶店。実は、誰にも言っていないのだが御幸は喫茶店で淹れてもらうコーヒーが密かに気に入っている。缶コーヒーやコンビニのモノに比べれば値段は張るが、店やその日によって味が変わるので基本的に飽きが来ない。今回に限り、そんな密かな趣向がどうも仇になったらしい。話を聞いた今の今になってあの店の名前を思い出す。フォレスト・テイル、()の尻()。変なネコっぽいようなタヌキっぽい何かが看板には張り付いていたような気がする。


「よかったらお店に来てください。お父さんの淹れるコーヒー、評判なんですよ」

「……」


 まぁ、不味くは無かったよ。

 なんて言ったら食い付かれること必至なので御幸は再び押し黙る。それから恐ろしいことに、御幸と名奈との、やり取りと呼ぶにはあまりに拙過ぎるやり取りが下校時刻まで延々と続いたのである。

 家族構成、最初に一人といったのは何故?

 この学校に転入にした理由は?

 入学式には間に合わなかったのか?

 御幸が無言に徹しているのにも拘らず、名奈は名奈で勝手に語り続けるので、不必要な情報ばかりが御幸の耳に流れ込んでくる。名奈の両親だとか生まれだとか、この学校の偏差値だとか、さっき話しかけたのは親友の……だとか。あれやこれやと、壊れた蛇口みたいに話がドバドバと溢れ出てそろそろ胃が痛くなってきかけたところで下校時刻を告げるチャイムとアナウンスが流れた。


「……あれ、楠先生?」

「あー、二人ともお疲れさま。ちょっと早く終われたから自分で鍵取りに来たの。初日から大変だったけど、明日からまたお願いね」

「はい、分かりました」


 名奈から図書室の鍵を受け取ると、楠先生は自販機の方向を指差し朗らかなウインクを一つ。


「初回くらいサービス、一本奢るわ」

「え、いいんですか?」

「僕は結構です」


 早々に帰り支度を済ませ、御幸は楠先生に軽く挨拶をしてから昇降口の方へと向かっていく。そんな背中を見て楠先生はまぁまぁとちょっと驚いた素振りを見せる。


「……たしか、あのお屋敷に越してきたっていう子ね。気難しそうな性格してるのねぇ」

「んー、そうでしょうか……?」


 傍目から見ると気難しい(、、、、)という風に見えるのかもしれない。

 けれど、やはり名奈からはちょっと違って見えていた。

今期アニメはプラスティック・メモリーズがお気に入りな夜斗です。

珍しく二次書きたいなぁとかも思ってたり。

余裕が出てきたら資料集めたりメモ書きとかして、ハーメルンの方でやろうかな……?


次回更新は5月22日の22時頃。

では、待て次回。

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