第2話
またメールが届いた、もう何通目かしら。楽しみなのは分からないでもないけど正直私を巻き込まないで欲しい。
朝食を済ませ日課の掃除&洗濯している時に美緒からのメール。内容は『本日10時からサービス開始するIDOに時間になったらすぐにログインすること』だった。適当に返事をして家事を続けているとまたメールが届く。内容を見たら『10時まで後90分』というもので、思わずため息を漏らした。10分後またメールが届き、内容は『10時まで後80分』というものである。なので次からのメールはもう予想が出来てしまったので呆れながら放置することにした。
家事を終えてのんびり読書を楽しんでいると携帯の着信音が鳴り響く。相手は美緒だったのでさっきまでのようにメールじゃなく電話なんて何かあったのかな?思いつつ手に取る。
「もしもし、どうしたの?」
「どうしたの?じゃないよ! なんで返信してくれないの!?」
「返信? あぁ、ていうか『後何分』みたいなメールに何を返せっていうのよ」
「そこはほら、長い付き合いなんだから機転を利かせてさ」
「あのねぇ、長い付き合いっていうならそれこそあんなメールが送られてきたら私がどうするかくらい分かるでしょ」
「ううぅ」
「それで、用事はそれだけ?」
「ううん、雪流のことだから家事の後は読書に熱中して時間に気付いてないと思って。後5分だから」
美緒に言われまさに読書を楽しんでいた私としてはさすが幼馴染ねと思いつつ時計を見ると、たしかに10時まで後5分だった。
「もうこんな時間なのね」
「やっぱり、それじゃ時間になったらIDOで会いましょ」
それだけ言うと美緒は電話を切った。気分的にはそのまま読書を続けていたいという思いだが、強引にとはいえ約束した事を無下にすると美緒は子供のように怒るからなぁ。そういえば以前それで私は怒っていますみたいなアピールする為に顔を合わせるたびに頬を膨らませてプイっと顔を背けていたっけ。美緒の気持ちが落ち着くまで話さない方がいいかなと考え便乗して努めて私からは話さないようにしていたら、2日もしない内に美緒の方から泣きながら謝ってきたのよね。そんな昔の光景を思い出して思わずクスッと笑みを漏らしながらおもむろにVRヘッドギア装着する。ベッドに横になりディスプレイに表示されている時計が10時なったのを確認してIDOを起動させると、眠るように意識が沈んでいった。
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意識が目覚め目の前には何もない真っ暗な空間が広がっている。
『ようこそ【Infinite Dream Online】へ、こちらではゲーム内での貴方の分身となるキャラクター作成を行います』
突如聞こえてきた声に少しビックリすると同時に目の前に半透明な板が出現した。
『脳波測定の結果より貴方は正式サービスからの参加ということが解りましたので、β版のキャラクターデータ読み込みの項目を省かせて頂きます』
『ゲーム内でのキャラクターの名前を決めて下さい』
半透明な板の下半分にキーボードが表示される。【YUKINA】と打ち込むが、そういえばオンラインゲームで実名はあんまり使わないって美緒言ってたっけ。せっかく別の自分になるんだから少しだけでも名前変更しようかな。【YUNA】に打ち込み直して決定する。
『チュートリアルとなりますが、実行なさいますか?』
キーボードの表示が消え【はい】と【いいえ】の文字が表示され-この時は名前しか決めてないけどキャラクターの外見はどうするのかなぁと思っていたが、後々ゲーム内で美緒から聞いた話では身体の外見は初期設定でスキャンした全身画像と打ち込んだ数値データを基にして作成される為見た目は完全に本人そのものになるらしい・・・・実名でも良かったのかも-【はい】を選択する。
モニター画面を交えながらのチュートリアルはものの数分で終わりを迎えた。最新のゲームらしいから色々と覚える事があってチュートリアルも長いんだろうなぁと気を張っていたのに肩透かしを食らった感じである。
『以上でキャラクター作成とチュートリアルを終了します。それでは【Infinite Dream Online】をお楽しみ下さい』
声が聞こえなくなると同時に目の前の真っ暗な空間が開けていき、気が付くとどこかの室内に私は立っている。周囲は人で溢れかえり、待ってましたといわんばかりに続々と外へ駆け出していくのが目に映った。さて、ここにいつまでいても意味ないし皆と同じように外に出るとしますか。
室内から出た先は中央に大きい噴水が設置された大広場であり、多くの人達が行き交い屋台や露店が点在している。
「おじさん、1つ下さい」
「あいよ、中身はどれにするかい?」
「チョコバナナで」
慣れた手つきですぐに出来上がったクレープを受け取り、近くの噴水の縁に腰掛ける。行き交う人達を見ながらクレープを一口食べると味は普通だがこれまた軽く驚かされた。目の前に見える人達つまり視覚、その喧騒を聞く聴覚、屋台に出品されている食べ物の匂い嗅覚、頬を撫でる風や噴水の水の冷たさの触覚、クレープを食べた時の味覚、一般に五感と呼ばれるものの再現具合がかなり高く現実と遜色ない感じで最新だけあって凄いなぁ。とはいえ専門家じゃないから詳しい説明はできないしその辺りの話は別にいっか。
「にゃ~ん」
残りのクレープを食べようとすると、いつの間にか隣に子猫が私を見上げて座っていた。
「食べたいの?」
クリームを指先で掬い近づけると子猫はペロペロと舐めだし、全部舐め終えるとぴょんと膝の上に飛び乗り「ふにゃ~ん」と鳴いて丸くなって寝てしまった・・・・・可愛すぎる。
「何してんの?」
子猫から視線を外し前を向くと美緒が呆れた顔をして立っていた。
「見ての通り子猫と遊んでるとこ」
「はぁ~、そんな事やってないで早く準備して行こ。お昼からはβ版の仲間と遊ぶから今日雪流と遊べるの午前の短い時間だけなんだよ。アビリティはもう解放した?」
アビリティとはその名の通り才能や能力という意味で使われ習得しただけでは使用する事ができず、アビリティポイント(通称AP)を使用し解放して初めて使用出来るようになる。ゲーム内で何かをする時にそれに対応したアビリティを解放しておかないとダメというわけで、例えば剣を使う時には【剣】のアビリティを解放しておかないとダメージ補正が入らないといった感じ。APは初期10でアビリティのLvが10上がった時に1ポイント手に入ったり特定の条件を達成した時でも手に入る。アビリティLvと同等のAPを使用してLvを上げることもできる。
「ううん、まだ」
「もう、早くしなよう時間ないんだし」
「はいはい・・・・・・・・・・それにしてもなんでアビリティって【剣】とか【槍】とか大まかな括りなんだろうね、もっと細かく分かれていそうなのに」
「それは最初のβ版で要望があって次のβ版で仕様が少し変更されたからだよ。最初は【短剣】【片手長剣】といった感じで分かれていたんだけど、例えば始めに【短剣】を覚えたけどやっぱり【片手長剣】に変えるといった時にAPを消費して追加で覚えなおすというのが最初は多々あったの。唯でさえAPは手に入りづらいのにそんな感じで無駄に使いたくないってことで最初は【剣】と一纏めにしておいて後々上位アビリティとして【短剣】【片手長剣】という風に派生するようになったというわけ」
「ふ~ん、そういえば美緒は何の武器にしたの?」
「私は槍だよ、これでもβ版では有名だったんだから」
「同じじゃつまんないし私は剣にしますか、後はこれとこれと・・・・・・はい完了っと」
「どんな感じにしたの?」
「秘密♪」
「ちぇっ、まぁいいや。それじゃ早速外に行こう」
「あ、ちょっと待って、この子猫「シャモン見つけたー!」を」
丸まっていた子猫がぴょんと起きて近寄ってくる女の子を見ている。
「シャモン心配したんだよ」
「にゃ~ん」
「お嬢ちゃんの子猫かな?」
「うん、シャモンって名前なの。一緒に散歩してたら急にいなくなっちゃってずっと探してたの。お姉ちゃんが見つけてくれたんだね、ありがとう」
「はい、もう目を離しちゃダメだよ」
「うん」
子猫を受け取ると女の子は嬉しそうに去っていった。
「子猫の心配も終わったし、それじゃ行こうか」
「先ずはフレンド登録しよう、そうすれば遠くにいてもチャットが出来るしIDOにログインしてるかどうかもすぐ分かるし。後ゲーム内では知り合いでも他の人がこんがらがないようにキャラクター名で呼び合おう」
コマンド操作をして届いたフレンド申請を許可する。
「分かったわ。それじゃリオ、これからよろしくね」
「こちらこそ、よろしくユナ」
こうして私の初のゲームが始まったのです。
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別作品の『手違いで召喚されたけど暇だからハーレムでも創るかな(仮)』の方も読んでもらえると嬉しいです。