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僕と彼女の墓参り  作者: イノタックス
2章 遺伝子検査
9/20

9話 検査の結果

翌日、7月の第三金曜日。夏休みまであと1日。

小林姉弟の両親は、7時ごろに仕事に向かった。

今は、玄関で宗人を送り出すところ。


「僕の教科書とか、忘れないで持ってきてね?」

「心配するな。じゃ、行ってくる。帰ったら検査の結果、見せてくれよ?」

「うん、分かった。行ってらっしゃい」


ドアが閉まったのを確認して、僕が使っている部屋に向かう。

今日も大学に行くので、その支度をしなければ。



午前10時、部屋で宗人から借りた漫画を読んでいると、廊下から由梨絵さんの声。


「真太郎、そろそろ行くよ~」

「あ、はい!」


服はすでに着替えてあるので、携帯と財布の入ったカバンを持って、廊下に出る。


「・・・ねえ、真太郎」

「なんですか?」

「もう少し派手な服にしたら?」

「・・・え、変ですか?」


今日の僕の服装は、青色のTシャツに紺色のジーパン、靴下は黒色。

僕的には、涼しそうでいいと思うのだが・・・。


「コーディネートも教えてあげないとね・・・」

「あの・・・変なんですか?」

「さ、大学に行きましょう」

「ゆ、由梨絵さん?」


そんなに変だったのだろうか。まあ、センスがあるほうではないということは分かっていたが・・・。

悪目立ちしないために、少しは服の勉強もしなければ。



大学へと向かう途中。


「あの、由梨絵さん」

「なに?」


ほんの少し、気になったことを訊いてみる。


「由梨絵さんの携帯に付いてるストラップって、何のキャラクターなんですか?」

「ああ、これ?」


ポケットから携帯を取り出し、僕に渡してくる。


「前に放送してたアニメに出てきた、猫のキャラクターよ」

「何てアニメですか?」

「えっと・・・忘れちゃった♪」

「そ、そうですか・・・」


この人の考えは、本当に読めない。

それにしても。


「可愛いですね、これ」

「え?・・・あ、うん、そうね、可愛いわね」

「・・・?どうかしたんですか?」


由梨絵さんの表情が、どこか暗くなったような気がする。


「・・・真太郎って、何の色が好き?」

「え?・・・あ、青色、です」

「本当は?」

「・・・・・・」


いや、確かに本当のこと──だった。『男の時は』好きだった。

今の僕が好きな色は──。


「・・・ピンク、です」

「・・・そう」


色の好みまで、変わってしまったのだろうか。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


黙ってしまった。そこまで変なことを言ったつもりはないのだが・・・。

結局、大学に着くまで、この沈黙が破られることはなかったのだった。


◆◆◆


午前11時、生物学科研究室前。


「いらっしゃい、二人とも」

「今日はよろしくお願いします、佳奈美さん」

「・・・あ、うん。よろしくね、由利ちゃん」


・・・やはり、昨日と同じくらい様子がおかしい気がする。



「で、佳奈美、結果は出たの?」

「ええ。・・・と、その前に由利ちゃんに質問してもいい?」

「はい」


僕に質問?どんなことを訊かれるのだろう。


「由利ちゃんって、お兄さんか弟さんがいる?」

「へ?・・・いえ、兄弟も姉妹もいないですけど」

「・・・そう、分かったわ」


どこか残念そうな表情。一体何なのだろうか?


「佳奈美、質問ってそれだけ?」

「うん。で、結果なんだけど・・・」


そう言って、1枚の紙を差し出される。

・・・見てみたが、内容がまったく理解できない。


「あの、これはどういったことを表しているんですか?」

「えっとね、これは由利ちゃんの検査結果。特に異常は見つからなかったわ」

「そうですか、よかった・・・」


異常、というのが何を指しているのかは分からないが、まあ、見つからなかったというのはいいことなのだろう。


「で、もう一人のほうだけど・・・由利ちゃん、もう一つだけ質問してもいい?」

「はい、もちろん」


一拍置いて。


「由利ちゃん、あなた一体、何を調べに来たのかしら?」


◆◆◆


なんでこう、俺にばかり困難が迷い込んでくるのだろうか。

──なんて言ったら、真太郎に失礼だな。

今はあいつの方が大変なんだ。──いや、それでもだ。

この状況は、無いんじゃないか?


「小林君、正直に言いなさい」

「・・・俺は正直なことだけを話していますよ?」


・・・学校が終わり、放課後。

俺、小林宗人は、クラスの担任の教師に呼び出されていた。


「昨日は君の言うことを信じて、石灘君の家には電話はしなかったけど・・・今日はするからね?」

「いや、ですから、今日も真太郎の親は旅行に行っていまして・・・」


昨日は、真太郎の親が旅行に出かけているから、という理由で電話させないことに成功したが、今日は通用しそうにない。


「だとしても、家に石灘君はいるだろう?」

「いや、真太郎は体調が悪いから、電話に出られないと思うのですが・・・」


・・・自分でも、苦しい言い訳だと思う。


「あのね、自分たちの子供が体調が悪くて寝ているのに、2日も連続で旅行に行く親なんていないんだよ?」

「よ、世の中の親全てがそういうわけではないと思いますが・・・」

「・・・小林君」


・・・物凄い眼光で、睨んでくる。


「何を隠しているのかは分からないけど、今日は石灘君の家に電話するからね」

「そ、そこをなんとか・・・」


そんなことになったら、真太郎の親に一連の出来事がばれてしまうじゃないか。こうなれば、担任にも伝えるしかないか?

・・・やめておこう、元に戻る方法があるかもしれないし、話さないほうがいいだろう。


「そういうわけだから、小林君はもう帰って大丈夫だよ」

「は、はい・・・失礼します」


仕方ない、覚悟を決めるか。


◆◆◆


「え、それはどういう・・・」

「佳奈美、何を訊いてるの?」


『僕が何を調べに来たか』──?


「あなたが知ろうとしていることが何なのか、教えてほしいのよ」

「・・・え?」


僕は──今の身体と男の時の身体に、何かしらの共通点があればいいな、とは思っているけど・・・。


「すみません、言えないです」

「・・・そう」


上手い言い訳が思いつかなかったので、そう言ってその場をやり過ごすことにした。


「ねえ佳奈美、そろそろもう一人のほうの結果を教えてもらえないかしら?」

「・・・ええ、そうするわ」


もう1枚の紙を、僕らの目の前に置く。


「もう一人のほうも、遺伝子に異常は見つからなかったわ」

「そうですか・・・」

「で、由利ちゃんともう一人のほうの検査結果を、見比べてみたんだけど・・・」


・・・・・・。


「ど、どうなったの、佳奈美?」

「・・・由利ちゃんのお兄さん、或いは弟さんの可能性が高いわ」


・・・え?



「ちょっと佳奈美、どういうことなの?ちゃんと説明して・・・」

「今言った通りのことよ。由利ちゃんともう一人の間柄が、姉と弟、もしくは妹と兄──の可能性が高いのよ」

「そ、そうですか・・・」


男の時の僕の身体と、今の身体は、兄弟姉妹の可能性が高い──?

僕に姉妹はいない。──つまり、手掛かりがなくなったということか?


「あの、この紙はもらっていってもいいですか?」

「ええ、もちろん」

「えっと、お金は・・・」


安くなると言っても、4桁はかかるはずだ。


「お金はいらないわ。正規の手順で調べたわけじゃないから、今回の検査は無料ってことにしといてあげる」

「いや、そういうわけには・・・」

「私がいいと言ったんだから、それでいいでしょ?」


・・・苛立っているのか、口調が少し荒くなっている。


「あの、由梨絵さん・・・」

「佳奈美がいいって言ってるんだから、それでいいじゃない。さ、私たちは帰りましょう。佳奈美、ありがとね。今度何か奢るわ」

「気にしないで。・・・ねえ、由利ちゃん」

「は、はい」


僕の目を、じっと見つめてくる。


「事情は知らないけど、──頑張ってね」

「・・・はい。検査、ありがとうございました」


佳奈美さんにエールをもらい、僕らは駐車場へ向かったのだった。


◆◆◆


「・・・・・・はあ」


結局、訊けなかった。

最後、口調が荒くなっちゃってたの、気付かれたわよね・・・少し困らせちゃってたみたいだし、気を付けなくちゃ。


「・・・石橋由利ちゃん、か」


先輩と、そっくりな子。

性格はあまり似ていなかった。先輩は元気いっぱいって感じだけど、由利ちゃんはすごく大人しい感じだった。


──伝えるべき、なのかな。


由利ちゃんが何を隠していたのか、それさえ分かれば伝えてもよかったんだけど・・・話してはくれなかったな。


「・・・ま、他人の空似かもしれないし、ね」


というか、そっちの可能性の方が高い。

でも、先輩が意識を失っていることと、私の前に石橋由利という存在が現れたことに、関係があったとしたら──。


「・・・今日もお見舞い、行っておくか」


行けるときに、お見舞いに行こう。


『♪~♪~♪~』


・・・着メロ。電話のようだ。

知らない電話番号だが・・・。


「はい、網走です」

『もしもし、佳奈美ちゃん!?』

「その声は・・・先輩のお母さん?」


昨日も病院で会った、先輩のお母さん。

──声が震えている?


「・・・何かあったんですか?」

『由美が、由美が・・・』


かなり、混乱しているようだ。


「落ち着いてください、何があったんですか?」

『・・・お医者様から、言われたのよ』


・・・嫌な予感。


「・・・今は病院ですか?」

『ええ、旦那と一緒に・・・』

「私も病院に向かいます。15分くらいで着くと思うので、待っていてください」

『え、ええ、待ってるわ』


・・・電話を切り、支度をする。

大学へは車で通っているので、移動方法の心配はいらないと思うが・・・。


「・・・先輩」


頑張って、ください。


◆◆◆


俺、小林宗人は、今までの人生の中で最大の危機に瀕していた。・・・一昨日もこんなことがあったような気がするが。

──だが、この間よりも状況が悪い。


「宗人君、どういうことなの?」

「宗人君、うちの真太郎はどこにいるんだ?」


・・・真太郎のお母さんだけでなく、お父さん──石灘隆さんまで、俺の家に来てしまったのだ。

すでに『真太郎が学校を休んでいる』という事情を知ってしまっている。


「もう少し待ってもらえば、真太郎と姉ちゃんが帰ってくるので・・・」

「・・・本当だろうな?」


思いっきり睨んでくる。・・・やっぱり、真太郎のお父さんは苦手だ。


「帰ってきてから説明しないと、信じてもらえないと思うので・・・」

「宗人君、本当なのね?」

「はい、本当です。姉ちゃんからの連絡だと、あと少しで来ると思うので・・・すみませんが、それまで待っていてください」

「・・・仕方ないな、分かったよ」


今の俺が説明したところで、証拠がないから説明のしようがないからな。

『真太郎の記憶』が一番の証拠になるだろうから、帰ってくるまで待つしかない。


早く帰ってきてくれ、真太郎!

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