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僕と彼女の墓参り  作者: イノタックス
2章 遺伝子検査
6/20

6話 深夜のドタバタ、初めての大学

「・・・まだ夜か」


昨日は色々ありすぎて疲れたので、午後9時には横になり、すぐに眠りについた。

暗いし、物音がまったく聞こえないので、今はおそらく真夜中だ。一昨日に合計12時間も寝たことが影響したのか、結構早めに起きてしまったようだ。

再び布団に横になるが、あまり眠くない。どうしたものか・・・。


「・・・起きよう」


僕は布団に横になっているときや炬燵に入っているとき、何かしようと思うだけでは動けない人なので、声に出してその行動を意識させ、身体を起こすようにしている。宗人からは『お前はロボットか何かか』とツッコまれたことがある。違うわ。

上半身を起こし、立ち上がる。


「おっとっ、と・・・危ない危ない」


突然立ったせいか、ふらふらっと身体が傾いて、転びそうになってしまった。

1分ほど立っていると、よくなってきた。


(・・・今は何時だ?)


枕元の携帯を手探りで見つけ、開く。僕はしょっちゅう携帯を落とすので、ガラケーにしている。

今は午前3時30分を少し過ぎたところらしい。

夏だから、あと少しで外は明るくなるだろう。・・・今はまだ暗いな。


(・・・電気を点けるか)


携帯の明るい画面を一度見てしまったので、まだ目が暗さに慣れていない。壁伝いに歩いて電気のスイッチまで辿り着く。

暗い方の電気のスイッチをオンに──


「・・・・・・」


──した瞬間、自分の目を疑った。


「布団に・・・染み?」



いやいや、まさか・・・そんなはずがないだろう。昨日の今日でアレとか、まさかそんな。

でも、『最初はいつ来るか分からない』って由梨絵さんが言ってたし・・・。

ってちょっと待て、そもそもアレだと決まったわけじゃないだろう。まだ部屋が少し暗いから、まるで『血』のように見えてしまっているだけだ。


・・・一旦冷静になろう。


布団の上の染みを血だと考えるな。アレじゃないとしたら、おねしょとかだろうか?・・・ああ、そっちはそっちで物凄く嫌だなあ。

待てよ、さっき立った時にくらっとしたのって、もしかして・・・貧血か?だとしたらアレに確定なのだが・・・駄目だ、認めてしまっては。認めたらまずいことになる予感がする。


「・・・・・・」


どうしよう、明るい方の電気を点けられるだけの勇気がない。もしも血だったらアレに確定、認めるしかなくなるわけだ。

・・・あ、汗ということもあるじゃないか!

そりゃあそうだよな。夏場の夜だ、汗くらいかくだろう。なんだ、そんな簡単なことだったのか。

現状を見ずに勝手に納得し、明るい方の電気を点ける。


「・・・・・・ですよねー」


認めたくない現実。

赤い染みが、布団の上についていた。


◆◆◆


「パジャマは新しいのに着替えて・・・うーん、今日来ていく服に着替えちゃう?」

「あ、は、はい・・・」


現在、午前4時30分。

結局、僕一人ではどうにもならなかったので、由梨絵さんに助けを求めることとなった。

今は布団のシーツを洗濯しているところ。


「ご、ごめんなさい・・・」

「気にすることはないわ、これは仕方ないことじゃない」


いや、仕方ないことではあるけど・・・僕にもっとちゃんとした知識があれば、こんなことにはならなかったわけだし。・・・やっぱり申し訳ない。


「ホントに気にしなくていいのよ?ついていたのはシーツだけで、布団は汚れていなかったんだから」

「でも、由梨絵さんの服を汚してしまって・・・」

「別に・・・洗えば済む話じゃない。というか、それは私が真太郎にあげた服なんだから、真太郎が私に謝ることなんてないのよ」

「・・・・・・ぐすっ」


申し訳なさや恥ずかしさ、情けなさ・・・色々な感情が一気に押し寄せてきた。


「え、ちょ、なんで泣いてるの!?」

「ご、ごめ、なさ、い」

「ああ、もう、ホントにあなたって子は・・・」

「うぐっ、ひうっ」


泣き止みたいのに、涙が止まらない。ああ、また由梨絵さんを困らせてしまってるな・・・本当に、僕って奴は・・・。


「・・・こら、真太郎!」

「ひゃい!?」


怒鳴られた。由梨絵さんに初めて怒鳴られた。やっぱり怒って──


「怒ってるわよ!あなた一人で抱え込もうとしているところに!」


僕一人で──抱え込もうとしているところに?


「あのね、人は一人では生きていけない、ってことくらい分かってるわよね?何か困ったことがあって、他人に手を貸してもらうことは恥ずかしいことじゃないの。今回みたいな相談しにくいことだって、私が近くにいるんだから、私に聞けばいいじゃない!一人で解決しようとして失敗するほうがよっぽど恥ずかしいの。分かった!?」

「へ?・・・はい・・・」

「もっと大きな声で!」

「は、はい!」

「よし、いい返事だ!」


・・・やっぱり、由梨絵さんはすごいなあ。


◆◆◆


・・・そんなことがあった2時間後。由梨絵さんと僕は、台所で朝ごはんの準備をしていた。

いつもは宗人のお母さんが作っているが、由梨絵さんが朝ごはん作りの担当に立候補したので、今日からしばらくは由梨絵さんが作るそうだ。

夜中の一件の恩返しがしたいと頼んだら、『朝ごはんを一緒に作るってことでどう?』と言われたので、それに決定。


「おはよ・・・って早いな、真太郎」

「あ、おはよう、宗人」


茶碗を並べていると、制服姿(上はポロシャツ)の宗人が降りてきた。


「宗人、僕が休むって連絡はどうするの?」

「うーん・・・曖昧にしておくよ」

「曖昧って、どういうこと?」


中途半端な言い方をしたら、先生だって気付くんじゃ・・・。


「昨日の夕方、プリントを届けに行ったことにして、その時に会ったことにすれば・・・」

「『調子が悪そうだったから、もしかしたら休むかも』みたいに伝えるってこと?」

「ザッツライト。案外騙せると思うぜ?」

「・・・あ、ああ、うん」


いきなり英語で言い返されたから、戸惑ってしまった。


「宗人、ボケで会話に英語を入れるのはいいけど、その単語は使い古された感があるわ。ツッコミ甲斐がないし、つまらないからやめておきなさい」

「結構厳しいね!?」


ボケだったのか、びっくりした。



朝ごはんを食べ終え、後片付けをし、大学に行く準備をする。

今日の僕の服は、上が青色のTシャツ、下は黒っぽいジーンズ。・・・ブラジャーも(苦しいが)つけている。派手な服はまだ恥ずかしい。

由梨絵さんの服は、上が白のキャミソール(初めて名前を知った)、下がベージュのショートパンツ。露出度が高すぎでは、と由梨絵さんに言ったところ、『お母さんと同じことを言わないで!』と怒られた。


準備を終え、時刻は午前9時。まだ少しだけ時間があるが・・・。


「もうそろそろ行こうか」

「え、もうですか?」

「あれ、準備がまだだった?」

「いえ、そういうことではなく・・・」


1時間も前だと、さすがに早すぎじゃないだろうか、と思ったのだが・・・。


「真太郎の家に行って、学校用のカバンを持ってきたりしたいのよ」

「ああ、なるほど」


確かに、学校に行くときに持って行っているカバンが見つかったら、学校を休んでいるのがばれてしまうだろう。そんなことに気が付かなかったとは・・・ホントに僕、この状況で色々と忘れてしまっているな。気を付けなければ。


玄関で、昨日買ってもらった黄色のパンプスを履く。


「やっぱりまだ、痛いんですが・・・」

「慣れるまで履くしかないんだから、我慢して履くこと!」

「は、はい・・・」


まあ、大学までの移動は車なんだし、あまり気にしすぎなくてもいいか。


◆◆◆


僕の家までは、車なので5分ほどで着いた。


「鍵は持ってる?」

「あ、はい」


両親がいないことを確認し、玄関の鍵を開けて中に入る。



「あ、真太郎~!」

「なんですか?」


通学用のカバンに、教科書や筆記用具などの必要になるであろう物を入れていると、1階から由梨絵さんが僕を呼んだ。

とたとたと、階段を上ってくる足音。


「大事なことを忘れてた・・・髪の毛も採取しておいてね」

「あ、そういえば必要なんでしたね。僕も忘れてました・・・」


僕の中で『大学に行くこと』がメインになってしまっていて、すっかり忘れていた。


「何本くらいあればいいんですか?」

「抜く場合は3本もあれば十分だって言ってたけど、自然と抜けた髪の毛の場合、5本から10本くらいはあったほうがいいって。毛球がどうのこうの・・・って言ってたけど、よく覚えてないや」

「覚えておいてくださいよ、もう・・・」


毛球というのがなんなのか分からないので、とりあえず10本拾っておく。



家を出て、車に乗り込む。


「忘れ物はないかしら?」

「カバンと、教科書、筆記用具、音楽プレーヤー・・・大丈夫です」

「髪の毛は?」

「もちろん持ってきました」


ビニール袋に入れ、持っている。


「よし、それじゃあ大学に向けて出発だ!」

「はい!」


◆◆◆


僕の家を出て15分ほどしたところで、気になっていたことを訊いてみる。


「あの、どんな方が調べてくださるんですか?」

「私の高校からの友達──ってのは言ったわね。どんな、か・・・」


何かを考えているのか、1分ほど沈黙が続いた後。


「面白い子、かな?」


当たり障りのない答えすぎて、逆に怖くなってきたんですが。

まあ、変な人ではないだろうし、あまり緊張しなくてもいいかな。


「普通の子よ、ほんのちょっとだけマッドサイエンティストの気がある子だから」

「ちょっとでも怖いんですが!?」


マッドサイエンティストの気がある、ってどんな人なんだ一体。

・・・想像したら怖くなってきた。僕はホラー映画は苦手──というか大っ嫌いだ。

あんなものを見たいと思う人の気持ちが分からない。由梨絵さんは大好きと言っていたが。


「まさか、由梨絵さんがホラー好きなのって・・・」

「その友達の影響だよ?」

「ああ、やっぱり・・・」


やっぱり、由梨絵さんの友達もホラーが好きなのか。・・・ホラー嫌いだからってからかわれたりしないよな?ああ、不安だ。


「あ、見えてきたよ~」


由梨絵さんの通う大学が見えてきた。


不安要素は増えるばかりだが、初めての大学、楽しまなければ。

夏休みなので、色々見て回ってもいいらしい。

ああ、楽しみだな。

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