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僕と彼女の墓参り  作者: イノタックス
1章 変わり始めた日常
5/20

5話 これからの予定

デパートを出て、小林家に帰る途中。


「・・・あ!忘れてた!」

「え、ど、どうかしたんですか?」


何かに気付いたのか、いきなり大きな声を出す由梨絵さん。一体何事だ?


「そういえば、アレも来るのかしら?」

「アレってなんですか?」


『アレ』?誰かのことか?


「え、生理のことよ?」

「なんだ、生理のことでしたか・・・っていきなり何を言っているんですか!?」


まるで知ってるのが当たり前みたいな態度で言われたので、一瞬反応が遅れた。女になっても僕の心は男のままなんだから、さすがにそういうことは話してはいけないのでは・・・。


「あのね・・・何度も言うけど、今のあなたの身体は女の子なのよ?心が男でも、来るものは来るわよ」

「いやしかし、あのですね・・・」


駄目だ、動揺して言葉が全く出てこない。『少しは言い返せるようにならないと』なんてデパートで思ったばかりなのに。僕ってホントに突然の状況に弱いな。


「まあ、すぐ来ると決まったわけじゃないからね。来たら私に言いなさい。分かった?」

「はあ・・・はい、分かりました」


来るまでに元の身体に戻れればいいのだが、いつ来るか分からないからなあ。そもそも、この身体に生理は来るのだろうか?・・・不安だ。


こうして、僕の心配事がまた一つ増えたのだった。


◆◆◆


・・・俺、小林宗人は現在、今までの人生の中で最大の危機に瀕していた。


「あら、いないのかしら・・・」


チャイムが鳴ったので2階の窓から外を見てみると、玄関の前に、俺もよく知る人物が立っていた。

・・・今は、一番来てほしくない人物だ。


(な、なんでこの時間に・・・?)


今は、午後4時を少し過ぎたところ。俺の父さんと母さんが帰ってくるのは基本的に6時過ぎだし、俺だって普段は部活をやっている時間だ。なんで今日はこんなに早く来たんだ?

どうしよう、出るべきだろうか。このまま居留守を使えば帰るだろうけど、また来る可能性もある。


「いないみたいだし、帰ろうかな?」


悩んでいてもしょうがないので、1階に行き、鍵を開け、ドアを開ける。


「あ!久しぶり、宗人君!」

「お、お久しぶりです・・・真太郎のお母さん」


真太郎のお母さん──石灘美佐子さん。

真太郎とは小さいころからの付き合いなので、真太郎のお母さんともよく話をしたことがある。

それにしても、なぜ来たのだろうか。真太郎が女になったことは知らないはずだし・・・。


「肉じゃがを作ったから、持ってきたの。今日は部活がないって真太郎が言ってたから、もしかしたら宗人君がいるんじゃないかと思って来たのよ」

「あ、そうだったんですか・・・」

「・・・?どうかしたの?」

「いえ、なんでも」


そういえばそうだった・・・今日は部活がないんだった。色々あり過ぎてすっかり忘れてしまっていた。


「じゃあ、これ、お夕飯にでも食べてね」

「はい、ありがとうございます」

「それじゃ、帰るわね。これからも真太郎と仲良くしてね~」

「はい、もちろん」


よし、鉢合わせはなんとか回避できそうだ。

あれ、駐車場に赤い車が入ってきた──って、あの車はまさか!


「あ、由梨絵ちゃんじゃない!ナイスタイミング!」


・・・バッドタイミングです、いやマジで。


◆◆◆


「お久しぶりですね、美佐子さん!」

「本当に久しぶりね、由梨絵ちゃん!」


じょ、冗談でしょ・・・なんでお母さんが小林家に?

いや、いたらおかしいわけじゃない。こば・・・宗人とは保育園のころから一緒に遊んだりしていて、親同士も仲が良いのだ。何かの用事でお互いの家を訪ねることは結構ある。


「あら、そっちの子は?」

「親戚の子です。今日一緒に買い物に行ってきたんですよ」


上手い具合に誤魔化してくれた。さすが由梨絵さん、突然の状況でもすらすらと言葉が出てくるのが、すごく羨ましい。


「へえ、そうなの。名前はなんて言うの?」

「あ、え、えっと・・・」


なんて言えばいいのだろうか。『真太郎だよ』なんて言えるわけがないので、適当な偽名を・・・何か、何か・・・。


「い、いし・・・石橋、です」

「石橋さんね、下の名前は?」


・・・まずい、誤魔化しきれそうにない。

芸能人の名前とか、漫画の登場人物の名前とか・・・ああ、全く思いつかない!


「由利ちゃんっていうんですよ、名前が似てるから、話しかけたら面白い子で・・・それで、一緒に遊ぶようになったんです」


僕が困っているのを感じ取ってくれたのか、由梨絵さんが助け船を出してくれた。


「石橋由利ちゃん・・・うん、いい名前じゃない!私は石灘美佐子、よろしくね!」

「は、はい!よろしくお願いします!」

「礼儀正しくて、いい子じゃない。・・・宗人君の彼女?」

「何を言ってるんですか!?」


家の中にいた宗人が、今まで見たことのないような表情でツッコミを入れる。

僕も『僕は男だ!』と心の中でツッコんでおく。・・・女だったら付き合いたいと思うのだろうか。

身体は女だが、そういう気持ちはやはり理解できないままだ。・・・出来たら出来たで(戻れなくなる的な意味で)色々とまずいと思う。


「じゃあ、私は帰るわね」

「あ、真太郎のお母さん、ちょっと待ってください」

「ん、どうかしたの?」


宗人が僕のお母さんを呼び止める。


「今日、真太郎が泊まりに来ることになったんです」

「あら、そうだったの?真太郎からまだ連絡が来ていないけど・・・」

「まだ学校にいると思います。終わったら連絡が行くと思いますよ」

「そう?じゃあ、今日はよろしくね、宗人君、由梨絵ちゃん。また料理を持ってくるわね。じゃあね~」


そう言って、お母さんは車に乗って帰って行った。



全く、来るなら連絡くらいするべきだと思う。いくら石灘家(うち)と小林家の仲がいいと言っても、電話くらいはするべきではないだろうか。

・・・という話を以前小林姉弟にしたところ、『真太郎は礼儀正しすぎだ』と言われたので、もう二人には言わないことにする。


小林(宗人)を名前で呼ぶことについては、『確かにややこしかったもんな』と言って快諾してくれた。やはりそう思っていたのか。


「ただいま」

「帰ったわよ~、あら、由梨絵が帰ってきてるのかしら?」


少し早目に宗人の両親が帰ってきたようだ。リビングを出て、玄関に行く。


「ただいま、二人とも。・・・おや、その子は誰だい?」

「あの、お久しぶりです」

「あら?前に会ったことがあったかしら?」


当然の反応。・・・信じてもらえるだろうか。


「雰囲気がどことなく、真太郎君に似ているね」

「「「え?」」」


思いがけない言葉に、家にいた三人が一斉に反応する。


「そうね、優しそうなところが似ているわね」

「あの、・・・僕、石灘真太郎、本人です」


「「・・・え?」」


◆◆◆


「確かにこれは、真太郎君の保険証だ・・・」

「こっちの生徒手帳も、本物ね」


宗人の時より時間が掛かると思っていたが、予想外に早く終わった。宗人の疑い深さは誰の影響なのだろうか・・・。


「うん、信じよう」

「あの、なんでそんなすぐに信じてくれたんですか?」


どうしても気になったので、聞いてみる。僕が宗人の親と同じ状況に立たされても、そう簡単には信じないと思ったから。


「真太郎君とそっくりだから、だろうか」

「・・・そんなに似ているんですか?」

「似ているなんて次元じゃない。本当にそっくりなんだよ。外見は変わってしまっているが、仕草や表情、言葉遣いなどが同じなんだよ、真太郎君と」

「仕草、ですか」


仕草、表情、言葉遣い──そんなこと、気にしたことなかったな。そんなところを見られていたのか。・・・何だろう、変な行動をしたことがないか、少しだけ不安になってきた。


「でも、いくらそっくりだといっても、外見が変わってるんですし・・・ほかにも理由があるのでは?」

「理由ならある。な、志奈?」


志奈──宗人のお母さん。


「ええ。一番の理由は、由梨絵と宗人がそう言ったから、ってことね。私たちの愛する子供が、嘘を吐くはずがないもの」


・・・宗人たち、愛されているなあ。

で、その宗人たちはというと。


(宗人)「あ、愛する!?何を言ってるんだよ母さん!」

(由梨絵さん)「お母さん、大好き~♪」


・・・ここは姉弟でも似ていないんだな。


◆◆◆


午後7時。

宗人の両親にしばらく泊まることを許可してもらい、お母さんへのメールも終えて、今は用意してもらった部屋で三人でくつろいでいた。


「なあ、明日遺伝子検査を受けてみないか?」


突然、宗人が提案してくる。

遺伝子検査・・・どういう事をするのだろう。


「真太郎の血液を採取して、それを調べる、ってことしか俺も理解できていないんだ。できれば髪の毛で調べてもらいたかったんだけど・・・検査してくれるところが近場になかったからな」

「なんで髪の毛のほうがいいの?」

「男の時のお前のことも、検査してもらえるからだよ」

「ああ、なるほど」


検査は由梨絵さんが通う大学で受けることができるとのこと。値段が五桁以上もするらしく、そこが一番の問題なのだが・・・。


「あ、私の友達ならたぶん、髪の毛でも遺伝子検査できると思うよ?」

「え、ホントですか!?」

「うん。高校の時の友達が別の科にいて、遺伝子の研究をしているから、頼めば髪の毛でもやってくれるはず。タダってわけにはいかないだろうけど、多少は安く済むと思うわ」

「よかった・・・」


できれば男の時の自分と今の自分、両方とも調べたいからな。


「じゃあ、明日は三人で大学に・・・」

「あ、悪いんだけど、俺は明日は学校に行くことにするよ」

「え、そうなの?」

「ああ。今日配られたプリントなら神林(かんばやし)が持ってきてくれたんだが、まだ教科書とか辞書とか、持ってこなきゃいけない物がたくさんあるからな。ああ、真太郎のは明後日持ってくることにするよ」


明日持ってくると、クラスメートや先生に不審に思われるから、とのこと。

・・・あれ、そういえば!


「僕の家にもプリントを届けに来たんじゃ・・・!」

「ああ、それなら心配いらないぞ。お前の分のプリントも受け取っておいたからな」

「ありがと・・・助かるよ」


宗人って、ここまで気が回る奴だったんだな。


「じゃあ、明日は私と真太郎の二人で大学に行こう!時間は・・・10時ごろに出発するってことでいいかな?」

「はい、その時間でお願いします」


明日も由梨絵さんと出かけることになった。

遺伝子検査か。一致しているのか、それとも──。

どんな結果になっても、きちんと受け止めないとな。

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