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僕と彼女の墓参り  作者: イノタックス
1章 変わり始めた日常
3/20

3話 デパートに行こう!

理由も知らされずに、由梨絵さんに連れられて小林家の風呂場まで来たわけだが。

これから何をされるのか、不安でしょうがない。


「そんなに怖がることはないわよ。ただサイズを測るだけだから」

「ああ、そうだったんですか・・・」


確かに、下着だってサイズが分からなければ買えないだろう。

・・・女物の下着なんて、一生縁の無い物だと思っていたんだけどなあ。


「じゃあ、服を脱いで♪」

「・・・何を言ってるんですか?」

「日本語!」

「いや、そういうことではなくてですね?」


ああ、はぐらかされている。一つ一つのしぐさがかわいいから、怒るに怒れないんだよな。


「服の上から測ればいいのでは?」

「それだと面白くないじゃない」

「面白さを求めていたんですか!?」


やっぱりと言うか、なんと言うか。知り合い、しかも女の人に裸を見られるのは恥ずかしいのだが、どうやって断ろうか。


「冗談よ。裸じゃないと正確なサイズが分からないから、ってのが一つ目の理由。今の真太郎の着ている服だと、大きすぎて上から測っても誤差が出ちゃうからね」

「なるほど。・・・そこまで正確にしなければいけないんですか?」

「もちろん!サイズの合っていない下着は、胸の形を崩しちゃうからね」

「女の人って大変なんですね・・・」


というか、元の身体に戻ったらこの身体ともおさらば出来るんだから、結局下着は必要ないと思うのだが。


「下着がないと変に目立つわ。デパートに行くまでは仕方ないけど、出歩くときには必要よ」

「そうですか・・・ん?」


さっき、由梨絵さんは『一つ目』と言っていなかったか?まだ理由があるのだろうか。


「あの、他にも理由があるんですか?」

「うん。真太郎は男から女になったんだから、体に異常が出ているかもしれないでしょ?それを確かめるため、ってのが二つ目の理由よ」

「・・・異常、ですか?」


いや、女子になった感覚こそないが、男子でなくなったという感覚ならある。それだけではだめなのだろうか・・・。


「これは真面目な話よ。ホントはレントゲンでも撮りに行きたいところだけど、さすがにそれは出来ないからね。私が見てあげるわ」

「いや、女になったとはいえ、心は男ですから・・・女性に裸を見られるのは恥ずかしいのですが」

「今は真太郎自身の裸じゃないんだから、そんなこと気にしないの。ほら、宗人を待たせちゃってるんだから、早く脱ぎなさい!」

「ちょ、服を掴まないでくださいっ!ああもう、脱がさないでください~!」


◆◆◆


同時刻、リビングでは。


「・・・だめだ、情報がない」


俺、小林宗人が、ネットで見落としがないか確認していた。

男が女になったという、現実ではまずありえない事が起こったのだ。他にも似たようなことが起きている可能性がある、ということで調べてみたのだが、出てくるのはアニメや漫画、小説のホームページだけ。SNSにもそのような報告は見つけられなかった。


「・・・ちょっと待てよ?」


あるサイトを目にした俺の頭に、一つの考えが浮かんだ。


「あの身体が真太郎オリジナルのものじゃなく、誰かのものだとしたら──?」


真太郎だけが変わったのではなく、誰かと身体が入れ替わったのではないか、ということだ。

男女の心が入れ替わってしまう漫画を紹介したサイトを見てそう考えたのだが、その考えでもいくつか分からない点がある。


(俺も真太郎も、姉ちゃんも、あの姿に見覚えはなかった。全く関係ない人と入れ替わるとは思えないし、この考えは外した方がいいか──?)


真太郎の親戚と入れ替わった、とかであれば検査して分かるのだが・・・念のため、遺伝子検査をさせておくか?

考えを巡らせていると、風呂場から叫び声が。


『脱がさないでください~!』


・・・姉ちゃんは一体、何をやっているんだ?


◆◆◆


「ただいま・・・」

「おかえり。・・・なんで半泣きなんだよ」

「泣いてないやい!」


あの後、由梨絵さんに服を奪われた僕は、初めて鏡で女の姿の自分を見ることとなった。

胸は着替える時に一度見たが、自分で見るのと鏡で見るのとでは、だいぶ印象が違った。刺激的というか、衝撃的というか・・・。

由梨絵さんはサイズを測りながら、『特に問題はなさそうね』と言っていたが・・・完全に女子の身体になってしまったことが、僕を少しだけ憂鬱な気分にさせた。


「よし、じゃあ三人でデパートに行こう!」

「あ・・・俺はパスで」


あれ、小林も行くつもりだと思ってた。


「俺は今日学校を休んでるから、出歩くのはやめておくよ。いつどこで教師に会うか分からないからね」

「そっか、二人はまだ学校があるんだったね」


そうだった。今の僕は先生に見つかっても特に問題はないだろうけど、小林は見つかったら色々と問題になるだろうし・・・仕方ないか。


「じゃあ、真太郎、出かける準備をしてくれる?」

「あ、はい」


家から着てきた服のままなので、由梨絵さんの用意してくれた服に着替えなければ。

Tシャツに手をかけ、上に持ち上げようとする。


「・・・っておい!?俺の目の前で着替えるなよ!」

「え?・・・ああ、そういえば今の僕は女なんだったね」

「ったく・・・ちゃんと自覚しておけよ」

「ごめんごめん」


そうだな、少しは自覚を持たなければ。

ああ、順調に女であることを受け入れてきてるな、僕。・・・虚しくなってきた。


◆◆◆


由梨絵さんが気を使ってくれたのか、用意してくれた服は可愛い系統の服ではなく、言葉は悪いが少し地味な色の服だった。今の僕にはありがたい物だが。

上は紺色のTシャツ(白色だと色々と見えてしまうため)、下は黒色のデニムジーンズという服装。


「えっと・・・似合うんじゃないかな?」

「そんな苦虫を噛み潰したような表情で言われても、嬉しくないんだけど」


地味だと思われたっぽい。僕が着る分にはいいが、女の人が着るようなコーディネートの服ではない気がする。


「どこのデパートに行くんですか?」

「駅前のところ。あそこなら種類が豊富だから、きっと気に入る物があるはずよ」

「ああ、確かに服が色々売ってましたよね。・・・別に、一番地味なのでいいんですが」

「駄目よ、せっかく女の子になったんだから、ちょっとはオシャレしないと。ね?」


『ね?』と言われても、何とも言えないんですが。・・・元の姿に戻った時に、黒歴史に認定されそうな服はやめておきたいところだ。



「じゃ、行ってくるわね」

「行ってらっしゃい。昼飯は適当に済ませるから、時間は気にしないでいいからな」

「ありがと、小林。行ってくるね!」


小林は結局家に残り、このことについてもう少し調べてみることになった。

ホント、頼りになるな。

由梨絵さんは・・・あれ、駐車場に赤色のミニバンがある。見覚えのない車だが・・・。


「この間、この車を買ったのよ。さ、乗って乗って♪」

「は、はい」


助手席に乗り込んで、出発する。


◆◆◆


「ねえ、ちょっと聞いてもいい?」

「何をです?」


家を出発して5分後、流していた曲を止め、聞いてくる。


「いや、男の子から女の子になるのって、どんな気分なのかな、って」

「気分、ですか・・・」


どうなんだろう、嫌ってわけではないんだよな。かといって嬉しいかと言われると、そうでもないし・・・楽しいわけでもない、苦しいわけでもない。・・・ああ、そっか。


「分かりません」

「・・・どういうこと?」


想像した答えと違ったのだろうか、由梨絵さんは再び聞いてくる。


「分からないんです。脳がまだ現状に追いついていないというか・・・これは現実なんだと理解はしているんですが、どこか信じ切れていないような、そんな感じです」

「・・・なるほど」


納得したのだろうか、『うんうん』とうなづいている。


「お、見えてきたね」


前方に駅が見えてきた。



この市には、この県で一番大きい駅がある。

僕らが向かっている服屋は、駅に隣接したデパートの中に入っている。

1階には食料品売り場もあるため、僕もよく学校の帰りに行っていた。


「さて、まずは下着を見に行こうか」

「あ、早速なんですね・・・」

「当たり前よ。早く行かないと可愛いのが売り切れちゃうわよ?」

「冗談やめてください、もう・・・」


可愛いのなんてつけたら、男に戻った時に思い出して泣いてしまいそうだ。

冗談はほどほどにしてもらいたいものだ、まったく。


◆◆◆


下着売り場にて。


「ねえ、これなんて可愛いと思わない!?」

「・・・いや、あの」

「いや、こっちの水色のほうがいいか?うーん、迷っちゃうな・・・」

「え、えっと・・・」


・・・さっきの言葉は、冗談ではなかったようだ。

僕はスポーツブラでいいと言ったのだが、まったく聞き入れてもらえず、淡い水色やピンク色のブラジャーとショーツのセットをひたすらに薦めてくる。


「あの、さすがにそういうのは・・・」

「あら、お客様にお似合いだと思いますよ?」


・・・店員まで混ざってきた。


「いいじゃない、買うのは私なんだから♪」

「はあ、もうそれでいいです・・・でも、その色はやめてくださいね!」

「分かったわ。じゃあ店員さん、これとこれと・・・これでお願いします!」

「では、こちらのレジにどうぞ~」


結局、水色と白色のブラジャーとショーツのセットと、スポーツブラを買ってもらった。『もらった』という表現に若干の違和感があるが、もう気にしないことにする。

ピンク色の下着は、なんとか回避することができた。

本当、女性用の下着ってデザインがいっぱいあるよな。カラフルだし、個々のニーズに対応できてるって感じがする。・・・詳しいことは分からないけどね!



レジで会計を終えた由梨絵さんが戻ってくる。


「お待たせ、つけていくでしょ?」

「え、えっと・・・」


正直、まだ迷っているのだ。男に戻った時のことを考えると、どうにも・・・。


「もしかして、まだ迷ってるの?」

「・・・へ!?」


驚いた、見透かされていたようだ。


「男に戻った時のことを考えてるのかな?」

「そ、その通りです・・・」


この人、読心術でも持っているのだろうか。


「あまり気にしすぎないことね。いつまでその姿のままか分からないんだから、色々体験してみることも必要だと思うわ」

「そうですかね・・・わ、分かりました。着てみます」

「行こう行こう!」


下着売り場の試着室に入り、カーテンを閉める。

──のを、由梨絵さんに遮られる。


「えっと、何か・・・?」

「つけ方は分からないでしょ?ブラのつけ方だけでも教えようかと」

「・・・すみません、それは家に帰ってからでいいですか?」

「え~?もう、しょうがないな、それでいいよ~」


試着室に男女が一緒に入るのは、色々とまずいだろう。


・・・・・・。


・・・あ、今の僕は女なんだった。

こんな調子で慣れることができるのだろうか・・・不安になってきた。

戻れるまでの間だけだ、頑張って慣れることにしよう。

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