表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕と彼女の墓参り  作者: イノタックス
最終章 繋がり続く物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/20

19話 僕の想い、僕の願い

8月1日、夏休み14日目。

僕と由梨絵さんは、祭りに着ていくための浴衣を買いに、駅前のデパートに来ていた。

僕は別に、普段着でもよかったのだが・・・。


「お祭りといえば、浴衣でしょ♪」


──と由梨絵さんに強く言われたので、買うことになった。

・・・それにしても。


「かなり、高いですね・・・」

「そう?・・・まあ、何度も着る物だから、多少高くてもいいんじゃない?」


・・・いや、『多少』ってレベルじゃないと思うんですが。

安い浴衣なら2千円や3千円のものもあるけど、高い物になると7万円くらいのものまである。


「ブランド物は高いからね~」

「浴衣にもブランド物ってあるんですか・・・」


今までは、祭りに行くときは普段着だったので、浴衣の値段なんて気にしたことがなかったのだ。

うーん・・・ブランド物じゃなくていいから、普通の値段の浴衣が買いたいな。


「あの、由梨絵さん」

「なに?」

「浴衣の値段って、どれくらいが平均なんですか?」

「平均、ね・・・」


5千円くらいだろうか?


「1万円くらい?」

「そんなに高いんですか・・・」

「さっきも言ったけど、何度も着る物だからね。レンタルってのも考えたんだけど・・・」

「レンタルなんてあるんですか?」


3千円くらいで借りられるのだろうか。


「5千円くらいかかるから、買ったほうが安く済むのよね」

「れ、レンタルでもそんなに高いんですね・・・」

「そうなのよ・・・さ、早く選ばないと、いいのが無くなっちゃうわよ!」

「そ、そうですね!」


明日祭りがあるからか、店の中は女性客でいっぱいだった。

よし、早く選んでしまおう。



「あら、もう買ったの?」

「はい、これを買いました」

「へえ、可愛くていいじゃない」

「そうですよね!」


僕が買ったのは、全体が白色で、朝顔が描かれている浴衣。

涼しげで可愛いので、これを選んだ。


「値段も8千円で、いいと思ったんです」

「あら、いいわね!よし、さっそく真由美の家に行って、着付けの練習よ!」

「はい!」


今日はいい買い物ができた。

明日が楽しみだな。


◆◆◆


翌日、8月2日、8月の第一土曜日。

僕と小林姉弟、それと神林は、市民プールに来ていた。


時刻は午前10時。

今は、女子更衣室で由梨絵さんが着替え終わるのを待っているところ。


「お待たせ~」

「あ、由梨絵さん・・・って!」


由梨絵さんが着ているのを見て思ったが、ビキニってほぼ下着だよね。

まだ恥ずかしくて、僕には着られないな・・・。


「ん、どうかした?」

「い、いえ・・・なんでもないです」

「そう?・・・真由美が選んだ水着、結構似合ってるじゃない」

「そうですか?」


黄色のワンピースタイプの水着。

由梨絵さんと一緒に、選んだ水着だ。


「それにしても、こんなに足が出るんですね・・・」

「まだ恥ずかしい?」

「はい・・・」


男の時は、ズボンのような水着を穿いていたので、女物の水着は少し恥ずかしい。


「慣れるしかないわね。さ、外で宗人たちが待ってるから、行きましょう♪」

「は、はい!」



「おや、女性陣が来たようだよ」

「お、やっと来たか!」

「お待たせ!宗人、神林君!」

「お、お待たせ・・・」


プールサイドのベンチで、宗人たちが座って待っていた。


「む、宗人、どうかな」

「・・・へえ」


感心しているような顔。


「可愛いじゃないか」

「へ!?」


か、可愛い!?


「その水着、可愛くて、お前に似合ってると思うぜ」

「あ、ああ・・・水着のことだよね、うん」

「どうかしたのか?」

「な、なんでもない!」


そ、そうだよね。何を勘違いしているんだ僕は、まったく。


「よっしゃ、泳ごうぜ!」

「う、うん!」


勝負は祭りの時。

今はそのことは気にしないで、思いっきり楽しもう。



1時間ほど泳ぎ、午前11時。


(な、なんでこうなった!?)


僕と宗人は、二人でベンチに座っていた。

神林が『飲み物を買ってくる』と言って売店に行き、由梨絵さんもそれについて行ってしまったのだ。


(な、何を話せば・・・)

「なあ、真由美」

「な、なに?」


ずっとプールを見つめていた宗人が、急に口を開く。


「お前はさ、女になったわけだろ?」

「え、うん、そうだけど」

「やっぱり、男を好きになったりするのか?」

「・・・へ!?」


なななな、何を訊いているんだ、宗人は!

・・・落ち着こう。


「な、なんでそんなことを訊くの?」

「いや・・・ちょっと、な」

「・・・詳しく聞かせてくれる?」

「うーん・・・」


宗人は、少し困っているようだった。


「言いたくなければ、別に・・・」

「いや、言いたくないとか、そういうことじゃなくて・・・」

「・・・?」


言い辛そうにしている。


「・・・お前は、男ではなく、女として生きていくんだろ?もう女の心になっているのか、少し気になったんだよ」

「心配してくれてるの?」

「・・・ま、そういうことだ」

「そ、そう・・・」


心配してくれているのか。・・・嬉しい。


「ねえ、僕は──」

「ただいま、二人とも!」

「飲み物を買ってきたよ、小林君、石灘さん」


・・・やっぱり、邪魔されているんじゃないだろうか。


◆◆◆


プールの売店で昼食を食べ、そのあとはしばらく泳いだ。

疲れてきたので、午後1時ごろに泳ぐのをやめ、着替えてプールを出た。

帰って祭りに行く用意をするので、一旦解散し、僕も自分の家に帰ってきた。


・・・で。


「お母さん、少し苦しいかも・・・」

「そう?じゃあ、少し緩めるわね」


今は、お母さんに浴衣を着せてもらっている。

浴衣の帯を結ぶのって、こんなに大変だったんだな。


「・・・よし!これでいいかしら?」

「うん、きつくないし、大丈夫だと思う」


普段着と比べれば少し動きづらいが、仕方ないだろう。


「ねえ、真由美」

「なに?」

「・・・似合っているわよ」

「あ、ありがとう」


お母さんの様子が、なんか変だ。


「どうかしたの、お母さん?」

「ちょっと、ね」


浴衣を着た僕を見て、寂しそうな表情になる。


「真太郎じゃなくて、真由美なんだな、って思っただけよ」

「お、お母さん・・・」


前の姿の僕──真太郎と過ごした日々を、思い出しているようだった。


「お母さん」

「な、なに?」


お母さんに、抱き着く。


「どうしたの、真由美──」

「僕はもう真太郎じゃないけど、お母さんたちの子供だってことは、変わってないよ。・・・お母さん、やっぱり前の姿じゃないと、僕を自分の子供だと思えない?」

「・・・そんなことないわ、真由美」


お母さんが、僕の頭を撫でてくれる。


「あなたは、私たちの子供よ。姿が変わっても、それは変わらない。・・・ごめんね、心配かけちゃって」

「気にしてないよ。・・・ねえ、お母さん」

「なに?」


伝えておこう。


「僕、好きな人ができたんだ」

「そうなの?」

「うん。・・・告白しようと、思ってる」

「・・・そう」


微笑んで、撫で続けてくれる。


「その人はきっと、優しくて、頼りになって、あなたのことをとても大事に思っているわ」

「・・・大事な、友達じゃなくて?」

「ええ。・・・それが親友なのか、それ以上なのかは分からないわ。だから、告白しても断られるかもしれない。でも、真由美?」


僕から離れて、僕の目を見て、話す。


「あなたは、その人が好きなんでしょう?なら、勇気を出して、好きだと伝えてみなさい。・・・断られたときは、私がまた抱きしめてあげるから」

「・・・うん!」


やっぱり、お母さんはすごい。

不安だった気持ちが、一気に吹き飛んだ。



午後4時40分、浴衣と一緒に買った下駄を履き、お母さんにもらった巾着を持って家を出る。


「いってきます、お母さん」

「いってらっしゃい。頑張ってね!」

「うん!」


◆◆◆


午後5時、集合場所の駅前には、すでに小林姉弟と神林が待っていた。


「お、来た来た」

「お待たせ、みんな。待たせちゃった?」

「いや、時間ピッタリだよ、石灘さん」


巾着の中の携帯の画面で、時間ピッタリだと分かる。


「よし、全員揃ったし、さっそく屋台を回ろう!」

「はい!」



祭りの会場は、当然だが物凄く混んでいた。


「あっ・・・」


人混みに押されて、みんなとはぐれそうになる。


「っと・・・大丈夫か?」

「あ、む、宗人・・・」


僕の右手を握ってくれた。


「あ、ありがとう・・・」

「はぐれないようにしろよ~」

「う、うん!」


やっぱり宗人は、優しいな。


そのあとはしばらく屋台を回った。

宗人が手を握っていてくれたおかげで、はぐれずに済んだ。


◆◆◆


「どこも混んでるね・・・」

「そうみたいだな。立って見るしかないか・・・」


午後6時30分。

俺、小林宗人は、神林と二人で花火の場所取りをしていた。

姉ちゃんと真由美は、屋台を見て回っている。


「そうだね。・・・ねえ、小林君」

「ん、なんだ?」


神林が、珍しく真剣な表情で、問いかけてきた。


「君は石灘さんのことを、どう思っているんだい?」

「・・・唐突だな」

「そうかい?・・・で、どうなんだい?」


どう思っている、と言われても。


「分からない。友達だとは思っているんだけど、それ以上というか・・・」

「・・・なるほどね」


神林は、呆れていた。


「・・・花火があと30分で始まる。それまでに気持ちの整理をしておくんだね」

「あ、ああ・・・分かったよ」


気持ちの整理、か。

・・・俺は、どう思っているんだろうな。


◆◆◆


午後6時57分、僕は宗人たちが取ってくれた場所で、花火が始まるのを待っていた。


「姉ちゃんと神林、戻ってこないな・・・」

「そ、そうだね」


──なぜか、宗人と二人きりで。

由梨絵さんと神林は、『この時間なら空いているから』と言って屋台を見に行ってしまった。


「・・・二人きりだね」

「ん?ああ、そうだな」


宗人は、僕のことを何とも思っていないのだろうか。



「・・・お、花火が揚がったぞ」


大きな赤色の花火が揚がる。


「わあ・・・」


黄、青、緑、ピンク。


「・・・綺麗だね」

「・・・ああ」


枝垂れ柳のような花火、キャラクターの顔の花火、滝のような花火。


「・・・凄いな」

「・・・うん、凄いね」


・・・勇気を、出して。

宗人の右手を、握る。


「・・・ん?・・・ああ」


宗人も、僕の左手を握ってくれた。


「・・・綺麗だね」

「・・・ああ、綺麗だ」


次々と打ちあがる花火を、僕らはじっと見ていた。


◆◆◆


約1時間、僕らはずっと、花火の揚がる夜空を見続けていた。

スターマインが揚がり終わり、最後に一番大きな青色と赤色の花火が揚がって、今年の花火大会は終了。


「・・・終わったね」

「・・・ああ」


僕の左手は、宗人の右手と繋がっていた。


「また来年も、来れるといいね」

「・・・ああ、そうだな」


宗人の方に、顔を向ける。

宗人も、僕を見ていた。


「来年だけじゃなくて、再来年も、その次の年も・・・ずっとずっと、来ようぜ」

「・・・宗人」


伝えよう。

少しだけ、勇気を出して。


「ねえ、宗人。・・・聞いてくれる?」

「・・・ああ」


僕は。


「僕、宗人のことが好き」

「・・・そうか」


これが僕の、想い。


「宗人と、ずっと一緒にいたい」


これが僕の、願い。

宗人は、なんて言うだろうか。

なんて、言ってくれるだろうか。


「・・・じゃあ、さ」

「・・・え?」


僕の右手を、宗人の左手が握り、僕らは向かい合う。


「付き合おうか」


・・・言って、くれた。

でも、まだ。


「・・・まだ」

「ん?」

「まだ、大事な言葉を聞いてない」

「・・・ああ、そうだったな」


宗人は微笑んで、僕の目を、じっと見つめて。


「俺も好きだよ。・・・真由美」


そう言って、僕のおでこに、キスをした。



「・・・おでこなんだね」

「唇はまだ、お互いに恥ずかしいだろ?」

「・・・まあ、否定はしない」


唇にされたら、恥ずかしさや嬉しさで倒れてしまいそうだ。


「・・・ね、宗人」

「なんだ?」

「これから、どんなことが起こるんだろうね」


どんなことが、起こるんだろう。


「どうなるんだろうな。大変なこと、たくさんあるだろうけど・・・な?」

「うん、宗人と一緒なら、どんなことでも乗り越えられるよ」


間違いない。

宗人と一緒なら、どんな壁だって越えることができる。


「ああ。・・・なあ、真由美」

「なに?」


僕を抱きしめて、耳元でささやく。


「ずっと、一緒にいような」

「・・・うん♪」



ねえ、実のお父さん、お母さん。

あなたたちの子供は今、とっても幸せだよ。

実のお父さんとお母さんと過ごした日々は、憶えていないけど。

あなたたちの子供で、本当によかったよ。


ねえ、お姉ちゃん。

僕は、この姿で生きていくよ。

お姉ちゃんの分まで、僕は幸せになるよ。

だから、天国から見守ってくれていたら、嬉しいな。


ねえ、『真太郎』。

君は、こうなるとは思っていなかっただろうね。

でもね、この姿になったおかげで、色々な人たちに出会えたんだ。

お姉ちゃん、蒲生夫婦、佳奈美さん、そして──僕の実の両親。

本当に、みんないい人たちなんだ。

だから、さ。

君も、見守ってくれていたら、嬉しいな。



「ずっとずっと、一緒だよ!」



これから、どんなことが待ち受けていても。

どんな困難に見舞われても。

それでも、僕は。


宗人と一緒に、生きていこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ