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僕と彼女の墓参り  作者: イノタックス
最終章 繋がり続く物語

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16/20

16話 今後についての話し合い

7月の第五火曜日。

お姉ちゃんが死んでから、1週間が経った。


この1週間、とにかく忙しかった。

お姉ちゃんが死んだ翌日はお通夜に出て、その翌日はお葬式。

お葬式の参列者には、由美がもう一人いる──なんて驚かれたが、皆深くは追及してこなかった。

何かを感じ取ってくれたのだろう。


お葬式の二日後の第四土曜日には、両親と一緒に、お姉ちゃんが暮らしていた蒲生家に行った。

お姉ちゃんのことを、たくさん話した。

今後に関する話もした。

お姉ちゃんの意思で、実のお父さんとお母さんのお墓に一緒に納骨することになった。

蒲生夫妻も快諾してくれた。納得しているか不安だったが、いらない心配だったようだ。


第四日曜日には、由梨絵さんと大学に行った。

佳奈美さんと色々な話をした。

夏休みの大学の様子や、宿題の多さなどを三人で話した。

お姉ちゃんが死んだことは、まだ他の学生は知らないらしい。

自分の中で整理ができたら、伝えるつもりだと言っていた。

佳奈美さんも、頑張っているようだ。


第四月曜日は初七日(しょなぬか)だったので、蒲生家に行った。

お姉ちゃんの供養をしてもらい、そのあとは精進料理を食べた。

親戚から、岩柱家のことや、僕の実の両親が亡くなった交通事故について、詳しく教えてもらった。

まだまだ、知らなければならないことが多すぎる。

お父さんのこと、お母さんのこと、──お姉ちゃんのこと。

もっともっと、知っていこう。


◆◆◆


「・・・そうか、石灘君のお姉さんは、亡くなったのか」

「ああ。今日でちょうど1週間だ。・・・なんだか、忙しかったな」


俺、小林宗人は、自宅のリビングで神林明と話をしていた。


「石灘君が忙しいのは分かるが、君もなのかい?」

「・・・俺は俺で、色々やってたんだよ」


そう、色々。


「学校の奴らにどうやって伝えよう・・・とか、そもそも学校に通うためにはどうしたらいいのか・・・とか」

「調べていたってわけかい。君も頑張っているんだね」

「当たり前だ。由美さんと約束したからな。『どんなことでも助けます』って」

「また、君はそういうことを・・・」


神林は、頭を抱えていた。


「どんなことでも、って言葉は一番言ってはいけないことじゃないか。本当に君は、石灘君が困っていたら『どんなことでも』助けられると思っているのかい?」

「思っているよ」

「・・・そうなのかい?」


不思議そうな顔で、俺を見てくる。


「思っているさ。どんなことでも助けられる、ってね。・・・それだけの自信を、俺は持っているんだよ」

「・・・そうかい」


神林は、呆れながら笑っていた。


「小林君、君はこれから、どう動くんだ?」

「それを今日、お前と相談しようとしていたんだろうが」

「正直、俺が力になれることは少ないと思うけど・・・」

「力にならないと思っていたら、呼ばないさ」


神林にも、協力してもらわないと。


「そう言ってもらえると、嬉しいね。何を手伝えばいいんだい?」

「手伝う、というか・・・お前、法学部目指してたから、法律に詳しいんじゃないかと思ってたんだが・・・どうだ?」

「普通の人よりは、詳しい方だと思うよ。・・・戸籍変更について、かい?」


さすが神林、一発で当ててきた。


「ああ、そうだ。『戸籍の性別欄の変更』──正直、かなり難しそうなんだ」

「そうだろうね。戸籍の性別欄を変更するのは、かなり多くの手順を踏まないとできないことだからね。性同一性障害の診断書があれば、そこそこスムーズにできるとは思うんだけど・・・」

「そう、そこなんだよ」


性同一性障害の診断書をもらうのは、かなり難しいだろう。

そもそも、今の真太郎はMtF(Male to Female、身体は男で心は女)ではなく、FtM(Female to male、身体は女で心は男)の状態だ。MtFと診断してもらえるわけがない。


「ねえ、小林君」

「なんだ?」

「今の石灘君の性自認って、男なのかい?」

「・・・どうだろうな」


真太郎は、女の身体にあまり違和感を持っていないと言っていた。

姉ちゃんも、真太郎の心が女の子になってきたかも、と言っていた。


・・・さて、どうなのだろうか。


「ま、性自認が男でも女でも、戸籍の性別欄の変更は難しいことだよね」

「そうだな・・・一旦この話は置いといて、学校のことを考えておこうぜ」

「ああ、そうだね」


と、玄関の方で『ただいま~』と声。父さんと母さんだ。

父さんと母さんは、今日は午後からの仕事を休んだ。

話し合うなら、人数が多い方がいいだろう・・・ということで。

俺と神林だけでも、なんとかなったと思うが。

・・・いや、なっていないか。



「なるほど、学校にどうやって伝えるか、か・・・」


父さんたちにも加わってもらい、四人でテーブルを囲み、話し合う。


「・・・学校への連絡は、俺らがどうにかできるかもしれない」

「え、本当ですか?」

「ええ。私たちは市役所に勤めていて、仕事で学校へ行くこともあるのよ。あなたたちが通う学校にも何度か行ったことがあって、知り合いの先生が何人かいるわ。向島(むこうじま)先生のことも知ってるわよ」


・・・え、そうだったのか。


「向島先生って、俺や小林君のクラスの担任の──」

「ええ、そうよ。だから、学校への連絡は任せて。なんとかして、真太郎君が学校に通える環境を作るからね」

「ありがとうございます。・・・じゃあ、小林君」

「ああ。俺らはどうやって学校の奴らに伝えるか、考えるか」


こうして、真太郎が学校に行ける環境は作れることとなった。──たぶん。


◆◆◆


「・・・はあ」


僕、石灘真太郎は現在、自分の部屋で夏休みの宿題をしている──のだが。


「意味、あるのかな・・・」


この宿題を終わらせたところで、学校に行けるわけでもない。

一体どうしたものか・・・。


『♪~♪~♪~』


・・・メール?

宗人からだ。

携帯を開き、見てみる。


『真太郎、元気か?俺の父さんと母さんが、お前を学校に通えるように手配してくれるから、安心しろよ~!』


・・・そういえば、宗人の親は両方とも市役所勤めなんだっけ。

手配することができるのか、さすが市役所職員──ってそうじゃなくて!


「え、ホントにまた、学校に行けるの?」


また、みんなと会えるのか。

また、みんなで遊べるのか。


「・・・やった!」


みんなと同じように、学校に行ける。

みんなと同じように、授業を受けられる。

学校に行けるのって、こんなに嬉しいことだったんだな。


今度ちゃんと、宗人の両親にお礼をしなければ。


◆◆◆


午後6時30分、晩御飯。

姉ちゃんは、佳奈美さんと外食に行っているので、父さんと母さんと俺の三人で食べている。


「宗人、いい考えは浮かんだのか?」

「・・・いや、まったく」


俺、小林宗人は、あの後しばらく神林と話し合ったが、いい案が思いつかないまま解散の時間となってしまった。

どうやって伝えれば信じてもらえるか──。


「普通に伝えるのだと、駄目なのか?」

「それも考えたんだけど・・・性別適合手術をした、と説明したとしても、身長が縮んでいるから信じてもらえないと思うんだ」

「よく分からないけど、それだと駄目なのね?」

「そうなんだよ」


だから、何かいい方法はないかと探してみたのだが。


「先生から伝えてもらうのが、一番効果的かな・・・と」

「先生は、このことを信じてくれそうなのか?」

「うーん・・・そこも難しそうなんだよね」


あと一つ、考えたことが。


「俺と真太郎、それと神林の三人だけでグループを作る、ってのも考えたんだけど、それは真太郎が嫌だって言うと思って・・・やめたんだ」

「なんで、嫌だって言うと思ったの?」

「そりゃあ、まあ・・・」


真太郎のことだし。


「俺と神林のことを、他の人が変な目で見るのを嫌だって言うと思うんだよ」


あいつ、優しいからな。


「そうなの?」

「たぶん、ね。ま、これは俺の勝手な妄想だけどね。・・・でも実際、三人だけでグループを作るのは、本気で避けたいんだ」

「どうして?」


どうしてって、そりゃあ。


「真太郎が不幸になる。それは絶対に避けたい」

「・・・真太郎君のこと、本当に心配しているのね」

「当たり前だよ。だって・・・」


だって。


「真太郎は、俺の大事な友達だからね」


◆◆◆


「学校に行けることになったのね!?」

「た、たぶん、だけどね」


晩御飯の時に、宗人からのメールのことを両親に伝えた。


「よかったな、真太郎」

「うん!」


お父さんもお母さんも、喜んでいた。


宗久(むねひさ)さんと志奈(しな)さんに、お礼をしなくちゃね」

「そうだね。僕もあとで宗人にもお礼を言っておくよ」

「そうね。宗人君も、最近頑張ってくれていたものね」


・・・頑張ってくれていた?


「お母さん、どういうこと?」

「・・・あ!いけない、話さないでくれって宗人君に言われてたの、忘れてた!」

「・・・ホントにどういうこと?」



宗人はここ最近、僕の戸籍の性別欄を変更する方法とか、どうすれば僕がまた学校に行けるようになるかとか、そんなことを調べていたらしい。


「そ、そうだったんだ・・・」

「ええ。大事な友達だから、助けるのは当たり前──って言ってたわよ」

「・・・え?」


宗人、そんなことを言ってたのか。


「真太郎、あなたも宗人君のこと、大事な友達だと思える?」

「え?・・・もちろん、だよ」

「そう、よかった」


うん、そうだ。

宗人は、僕の大事な友達。

僕の、大事な──。


◆◆◆


風呂から出て、自分の部屋のベッドに横になりながら、今日の晩御飯の時のことを思い出していた。


『宗人君のこと、大事な友達だと思える?』


・・・思っている。

宗人は僕の大事な友達だ。

それは間違いない。


この姿になる前も、なってからも、色々なことを助けてくれた。

色々なことを、教えてくれた。

大事な、友達だ。


──大事な、『友達』。


嘘は言っていない。

本当のことだけを、考えている。

なのに、なんで。


──なんで、胸の奥がこんなにも、痛むのだろう。


宗人とは、小さいころからの付き合いだ。

小さいころからよく遊んだ。

小さいころから、色々なところに一緒に行った。


宗人は、大事な──友達?

違う。・・・友達だけど。


宗人は、大事な──友達?

そうじゃないんだ。友達だったけど。


宗人は、大事な──。


大事な、なんだ?

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