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僕と彼女の墓参り  作者: イノタックス
3章 僕の家族

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12/20

12話 久しぶりの石灘家

佳奈美さんと病院から出てくると、外のベンチで宗人と由梨絵さんが待っていてくれた。

・・・クラスメートの、神林明も一緒に。


「え、ホントに?」

「ああ、本当だ。神林にもお前のことを話した。病気じゃなかったことを担任に話されるのは避けたかったからな。・・・嫌だったか?」

「別に、嫌じゃないけど・・・」


担任に言われるのは、確かに避けるべきことだ。

でも、神林はこのことを信じたのか?


「俺は信じたよ。小林君が嘘を吐いているようには見えなかったし、嘘を吐いている仕草もなかったからね」

「そ、そう・・・」


し、仕草・・・ですか。


「じゃ、俺はこれで失礼するよ。何かあったら、俺にも連絡してくれ。少しくらいなら力になれると思うからね。頑張ってね、石灘君、小林君」

「あ、うん」

「おう、じゃあな!」


病院の外のバス停に向かって、神林は歩いて行った。


「さ、私たちも帰ろうか、宗人、真太郎。・・・佳奈美、ありがとね」

「いいのよ。私のほうこそ、知りたいことが知れたんだし。ねえ、真太郎君」

「はい、なんですか?」


佳奈美さんに呼び止められる。


「由美先輩のお見舞い、また来てくれる?」

「ええ、もちろん」

「ありがとう」


安心したのだろうか。そう言って佳奈美さんは笑顔になった。

初めて佳奈美さんの笑顔を見た気がする。

よほど由美先輩──お姉ちゃんのことを、心配していたようだ。


「それでは、失礼します」

「ええ、気を付けてね」

「はい、佳奈美さんも」


由梨絵さんの運転する、赤いミニバンに乗り込み、病院を後にする。


◆◆◆


僕の家の前で車を止めてもらい、車から降りる。

僕の家から持ってきたカバンや、由梨絵さんにもらった服がつまったスーツケースをトランクから出す。

僕が最初に着ていた服や靴も、持ってきた。・・・必要になるかは、分からないけど。


「色々と、ありがとうございました。洋服代とかはまた宗人の家に行ったときに渡します」

「気にしなくていいのよ。・・・じゃ、頑張ってね」

「はい」

「頑張れよ、真太郎」

「うん!」


赤いミニバンは、小林家に向かって走り出した。

・・・さ、頑張ろう。


「ただいま・・・」


土曜の昼。

今の時間は、お父さんとお母さんは仕事のはずだ。

──はずだった。


どたどたどた、とリビングの方から物音。

そして。


「「おかえり、真太郎!」」


お父さんとお母さんが、出迎えてくれた。



「そう、蒲生由美さん、ね・・・」

「うん。名前は同じだったし、たぶん僕のお姉ちゃんだと思うよ」


家に入り、一通りの荷物の整理をした後、お昼ご飯を食べながら、病院での出来事を話した。


「蒲生さんって、親戚にいたりした?」

「・・・そういった名前の親戚なら、確かにいた。長い間会っていないから、連絡先は分からないが・・・」

「確か、蒲生章介(がもうしょうすけ)さんと明子(あきこ)さん、よね」


そういえば、病院でその名前を聞いたような。

・・・ああ、佳奈美さんから聞いたんだ。


「由梨絵さんの友達の、佳奈美さんって人と一緒に行ったんだけど・・・『蒲生明子さん』って確かに言っていたよ」

「なら、確定だな」

「ええ、そうね。真太郎、明日は何か予定はある?」


明日の予定。


「特にないから、また病院に行こうと思ってたんだけど・・・」

「ちょうどいいわ。私たちも一緒に行っていいかしら?」

「もちろんだよ」


行けば、何か発見があるかもしれない。

ということで、明日は両親と一緒にお姉ちゃんのお見舞いに行くことになった。


◆◆◆


お昼ご飯を食べた後、午後3時ごろから3時間、僕は自分の部屋で寝ていた。

久しぶりの自分の部屋ということで、どこか安心できたのだろう。

ぐっすりと眠ることができた。


午後7時、晩御飯を食べ終わり、お父さんがお風呂に入っている時。


「ねえ、真太郎」

「何?」


食器を片づけていたお母さんが、僕に問いかけてくる。


「女になってみて、どう?」

「どう、か・・・」


由梨絵さんにも、同じような質問をされたような。


「最初は大変だったけど、今は割と楽しめてるよ」

「本当?」

「うん。自分一人だったら何も分からなかったけど、由梨絵さんが色々と教えてくれたんだ」


本当に、色々なことを教えてもらった。


「女物の下着を買うときとか、生理用品を買うときとか。由梨絵さんのアドバイスがすごくありがたかったんだ」

「お風呂の入り方とかも?」

「うん」


さすがに一緒に入りはしなかったが、3日前──7月の第三水曜日の夜、小林家のお風呂に入る前に、由梨絵さんから身体の洗い方などを教わった。・・・トイレの仕方同様、生々しいことだったが。


「生理は・・・まだ?」

「いや、2日前の早朝──まだ暗いころに、起きたら来てた。それも由梨絵さんに助けてもらったよ」

「あら・・・そうだったの。今度由梨絵ちゃんに何か奢らなくっちゃね♪」


すごく、嬉しそうだ。


「元の姿には戻れそうなの?」

「分からない。お姉ちゃんが目を覚まさないと、なんとも・・・」

「そう・・・ま、なんとかなるわよ!」


・・・やっぱり、お母さんのエールは元気になれる。


◆◆◆


翌日、第三日曜日。

僕とお父さんとお母さんは、お姉ちゃんが入院している病院に来た。


受付を済ませ、エレベーターで3階へ。

『蒲生由美』と書かれた名札を見つけ、そこの病室へ。

ノックを4回すると、中から声がした。


(・・・誰だろう)


聞いたことのない声。佳奈美さんではないようだ。

とはいえ、ここまで来て帰るわけにもいかないので、中に入る。


「失礼します」

「・・・え?」


中にいたのは、たぶん夫婦。

お姉ちゃんの両親だろうか?


「え、由美、え、なん、で・・・」

「落ち着いてください、僕は蒲生由美ではありません」


由美、といったところから考えて、両親というのは正解の様だ。


「僕は、石灘真太郎です。・・・蒲生章介さんと、明子さんですね?」

「あ、ああ。・・・もしかして、由美の弟の──」

「はい。旧姓は『岩柱』──姉の名前は、『由美』です」

「なるほど、君が・・・」


どうやら、信じてもらえたようだ。



「僕は4日前、起きたらこの姿になっていました」


4日前──第三水曜日からの出来事を、簡単に話した。

女になったこと、佳奈美さんの友達の由梨絵さんと、その弟の宗人に助けてもらったこと。買い物などの細かいことは話さなかったが、昨日病院に来たことまでは大体話し終えた。


「・・・大変だったわね」

「まあ、否定はしません」


事実、大変なことばかりだったんだし。


「でも、周りの人が助けてくれました」

「そう。・・・よかった」


明子さんは、胸を撫で下ろした。


「真太郎君、あなたには本当に悪いことをしてしまったわ」

「え?」

「あなたを、由美と離れ離れにしてしまった。無理をしてでも、二人とも引き取るべきだったと、ずっと後悔していたの。由美は小学校に入ってからは言わなくなっちゃったけど、あなたに会いたいとずっと言っていた。・・・真太郎君、ごめんなさい」


そう言って、蒲生夫妻は頭を下げた。


「ちょ、顔を上げてください!」

「でも、私たちは・・・」

「いいんですよ。・・・僕は今、すごく嬉しいんです」

「嬉しい──?」


そう、嬉しいのだ。


「お姉ちゃんも僕と同じで、いいお父さんとお母さんに出会えたんだな、と思うと、嬉しくて・・・だから、気にしていませんよ」

「・・・ありがとう、真太郎君」


章介さんも、明子さんも、本当にいい人だ。



気になっていたこと。

お姉ちゃんが蒲生家に引き取られてからのことを、詳しく訊いた。


「由美は、私たちが引き取って1年間くらいは、あなたに会いたいとずっと言っていたわ」


しかし、無理だと分かったのか、引き取られて1年が過ぎた頃から段々と言わなくなり、小学校に上がる頃には、全く言わなくなっていたらしい。

それが諦めなのか、違う何かなのかは、お姉ちゃんにしか分からないことだが。


「佳奈美さんは、お姉ちゃんのことをすごく慕っていましたよね」

「ええ。由美と佳奈美ちゃんは、すごく仲が良かったの。だから由美が倒れてから、ずっとお見舞いに来てくれているのよ」


どうやら、僕が思っていたよりも、お姉ちゃんと佳奈美さんは親しかったようだ。



そのあとは、僕の両親と蒲生夫妻が少し話をして、帰ることになった。


「真太郎君、また来てくれる?」

「ええ、もちろんです」

「ありがとう。それじゃ、またね」

「はい、失礼します」


僕と両親は、お姉ちゃんの病室を後にした。


◆◆◆


帰りの車で。


「蒲生さん夫婦、いい人たちだったな」

「そうね。真太郎と離れ離れになっちゃったけど、いい家庭に引き取られてよかったわ。・・・由美ちゃんは、幸せだったのかしら」

「たぶん、幸せだったんじゃないの?」


・・・本心からではないが、そう言っておく。


「そうよね、きっと幸せよね」

「うん、そうだよ・・・」


幸せだったかどうかは、お姉ちゃんにしか分からない。

・・・実際、どうだったのだろう。


小学校に上がってからは、弟に、僕に会いたいとは言わなくなった。

でも、佳奈美さんには僕のことを話していた。


──お姉ちゃん。

早く、目を覚ましてよ。

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