バグだらけの世界で
一部のゲーマーに攻略が出来ないと有名な乙女ゲームが存在する。
そのゲームはフリーゲームだが、とにかくバグが多過ぎるのだ。
作者も途中から開き直り、ゲーム名を「バグだらけの世界であなたは誰と結ばれますか?」とかいう苦しい名前に変えた。
そのことが更に話題となり有名となったことは今は関係ないので省略する。
驚かないでください。私、そのゲームの世界にいるんです。
もちろん主人公なんかじゃありません。
「あず、はよせんと学校遅れんで」
キラッキラな金髪美少年が顔に似合わず大阪弁で話し掛けてくる。
ええ、彼は立派な攻略対象です。ちなみに私の幼馴染です。
この幼馴染、ゲームの設定では片言の日本語しか喋れないとされていた。はずだ。
これ、バグです。
そう、この世界はバグをしっかり引き継いでいるのか、攻略対象が非常に残念なことになっている。
元々攻略対象者は全部で4人いて、色々なタイプのキャラが揃っていた。
この残念な攻略対象者を紹介しよう。
*****
まず俺様生徒会長。
校内一の御曹司で教師からの人望も厚い。
少し横暴で自分の意見は全て通す。
テキパキと仕事を片付ける姿がかっこいいと女子生徒から大人気である。まぁここまではゲーム通り。
公の場にはあまり出て来ず、授業も何故か1人だけ別室で受ける彼は重度の女嫌いである。
姿が見れた日には幸せが訪れると専らの噂である。
次は副生徒会長。
冷静に親友である生徒会長を支え、ニコニコと笑顔を絶やさない。
実は腹黒いというお決まりの一面を持つ。
しかし、この世界では重度のロリコンである。
もう本当に捕まっていないのが不思議なくらい。
一度彼がファイルを落とした際に小さな女の子の写真が廊下に散らばり、場が騒然としたことは彼の名誉の為に伏せておく。
次は爽やかスポーツ少年。
サッカー部の期待のエースとして活躍する彼にはファンが絶えない。
爽やかスマイルは破壊力抜群!のはずが、何故か彼は相撲部に入部した。
相撲部エースを目指す彼は、入学当初の体重から見違える程に成長し今では『関取』が彼のアダ名である。
もうキャラ違うけど大丈夫?
そして最後が私の幼馴染であるエセ外国人。
エセが付いているのは彼が私以外の前では片言で話すからだ。
曰く、イメージって大事やろ?らしいが、本心は片言の話し方の方が女の子にチヤホヤされるからということを私は知っている。
ゲームでは好きなキャラだった。
特にゲーム最後では、主人公が教えてくれた日本語で告白するところとか可愛いかったのに。
非常に残念だ。
この攻略キャラのバグ完全にわざとじゃない?
こいつら全員変人すぎて、いくら主人公でも攻略したくないだろう。
そんな主人公だが、彼女も転生者だ。
これまたバグで攻略キャラ達と一個下の学年に入学してきた主人公とは大の仲良しである。
彼女のこれからを思うと可哀想で、誰のルートにも入らないように阻止している。
今のところ攻略キャラの誰とも接触していないようで安心している。
*****
「あず?ほんまに遅刻すんで?聞こえてる?」
おっと、エセ外国人幼馴染と登校している最中だったことを忘れていた。
「あーごめんごめん」
先を歩いていた幼馴染に謝りながら小走りで駆け寄る。
「しゃーないなぁ。学校まで手繋いであげるわ」
「いや、結構です」
そんな断らんでも。とか隣で言っている幼馴染は無視である。
なぜ私がこの幼馴染と一緒に登校しているのかというと、余計な事を言った幼馴染のせいで「日本語話せないって分かってるのに、どうして面倒見てあげないの?」とか意味のわからん事を彼のファンから非難されたからだ。
いや、こいつ大阪弁話せるけど。
それからというものの、こいつの面倒は私が見ることになった。
その時、当の本人は『日本語わかりません』みたいな顔で聞いていただけである。
私と話している会話を録音してやろうか。
学校に着くと携帯にメールが入っていた。
あ、ゲーム主人公の楓ちゃんからだ。
『お昼一緒に食べよう!ちょっと話したいことあるのー』
私の幼馴染が攻略キャラである為、大事を取って普段は楓ちゃんに接触しないようにしている。
そんな彼女が話したい事とは。
『おっけーじゃあいつものところで!』
お昼休みが楽しみである。
愚痴を聞いてもらおう。
*****
「梓ちゃん聞いて!アップデートが出来るようになったよ!」
「は?」
お昼休み、楓ちゃんに会って唐突にこの会話である。
「アップデート?何のこと?」
「このゲームのアップデート!もしかしたらバグが直るかもしれない!」
鼻息荒く迫ってくる楓ちゃんは正直怖い。
「そんなこと出来るの?」
初耳である。
「うん、なんか昨日いきなり目の前に『アップデートしますか?』の文字が出て来てビックリした!」
「え、出て来た?大丈夫なの?それ」
ビックリしたどころじゃない。
自分が人間じゃなくなったみたいでホラーじゃないか。
「大丈夫!もう慣れたから視界にポップ画面が出てても平気だよ!」
そこじゃない。天然なのか。
消し方分かんないんだぁとか言っている楓ちゃんにへぇーとしか返せない。
私には出てきていないので主人公のみの特権みたいなものだろうか。
「一応、梓ちゃんにもどうするか聞いてみようと思って」
「んー楓ちゃんが決めた方がいいと思うよ?」
何せ彼女は主人公なのだから。
「じゃあえーい!」
「え、即決!?」
もう少し悩むとかないのだろうか。
「アップデート出来たって!」
「うわぁおめでとー」
とりあえず今のところ違いはない。
攻略キャラにどのような影響が出てるのかは確かめていないが。
「とりあえず何か変化があったらお互い連絡しよう」
そう言って楓ちゃんと別れた。
教室に戻ると、例の幼馴染が私を出迎えた。
影響を確認するのにちょうどいい。
「あず、どこ行ってたのデスカ?電話しマシタ」
その言葉に携帯を確認すると、確かに電話が3件入っていた。
「ごめん、何?」
「誰とご飯を食べていたのデスカ?」
「あー優香ちゃんと」
どんなところから接触しようとするかわからない為、主人公の楓ちゃんの話はNGである。
幼馴染はふぅーんと疑わしそうに目を細めてくるが、そこで先生が教室に入って来た為、渋々自席に戻って行った。
何なんだアイツ。
それにしても、周りに生徒が多かったせいでバグが直っているのか確認ができなかった。
その日は何かと引っ付いてくる幼馴染を適当にあしらいながら帰宅した。
今のところ2人の時は大阪弁なのでアップデートの影響はないようにみえる。
お風呂上がりにゴロゴロとしていると、楓ちゃんから電話が掛かってきた。
『梓ちゃん、大変!』
耳がキーンってする。
思わず顔を歪めなら、どうしたの?と返す。
『お昼休みから色々と試してみたらね、メニュー画面が開けるようになったの!』
おめでとう、君はもう人間じゃない。
どう試したんだ。
『すごいでしょ?右手の人差し指と左足の親指だけを同時に上げたら出て来た!』
やばい、この子天才かもしれない。
「それは普通にすごい。で、大変な事って?」
『あ、そうだった。アップデートの内容が確認出来たんだけど』
「え、ほんと?」
アップデート内容が分かれば今後、攻略キャラの反応を恐々見る必要はない。
『うん!まず上履きを学年毎に色違いにしました!1年2組の誤字を修正しました!(略)』
他にも色々とアップデート内容を挙げていたが、あまりにもくだらないので割愛する。
「もっと他にあった。絶対あった。特にキャラのバグとか!」
わざと?わざと外してくるの?
『でね、アップデート特典があって。それが大変なの!』
まだ何かあるのか。
『アップデートのお礼にキャラがヤンデレ化するよ!って書いてある』
特典じゃねぇ!!
いらんお礼をくれるな!
「ちょっと、楓ちゃん大丈夫?キャラ達に何かされてない?」
いくら楓ちゃんがバ…天然でも心配なものは心配である。
可愛い後輩だ。
『梓ちゃんのが大変でしょ?まだ何もないの?大丈夫?』
私の心配をしてくれる良い後輩を持った。
「いや、私は主人公じゃないし全然平気だよ?それより今後は楓ちゃんがキャラと接触しないようにもっと気を付けないとね!」
『え?本気で言ってるの?気付いてないの?』
何のことだろう?
『バグのせいで梓ちゃんが主人公なんだよ?』
ワッツ?
いやいや、違うし。
確かに一時期生徒会補佐とかやって会長、副会長ともに面識あるけど。
クラスが同じだったから関取君とも知り合いだけど!
全員のメアド知ってるけど!
あれー?まさか。そんなはずは。
『私はあの幼馴染ルートを狙っているのかと思ってた』
そのあとの会話は記憶がない。
とりあえず明日のお昼休みに話し合おうってなった。
*****
で、今の状況はというと。
朝の登校中に幼馴染に詰問されています。
「昨日、あずの友達の優香ちゃんは木下さん達とお昼を食べとったみたいやけど?」
なんで嘘つくん?とものすごい笑顔で聞いてくる。
いや、目が笑ってないです。怖いです。
携帯には会長と副会長から『どうして生徒会室に来てくれないの?』ってメールが来ているし、関取君からも『次の試合見に来てくれるよね?』とか来てる。
あ、もう詰んだ。
バグだらけの世界では心が休まりません。
とりあえず今のベストな回答を誰かくれませんか。