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 先ほど、カッコ付けで説明したが、マクニとは、魔法使用許可区域のことである。だが、使用許可と言っているが、マクニから離れて、リンやクウクなどのほかの区域に言った場合でも、魔法は使え、規則を破るなどということはない。ただ、リンなどの、ほかの区域から生まれた人は、魔法が使えないだけである。

 リンの住民は、魔法の代わりに、特別な力が備わっているのだが……。それはのちのち、明らかになるだろう。

 

 「遅かったのう」

 ライは、木製のドアを叩こうとした。が、シャルントに先を越された。目の前のドアが開いたのである。ライは、ドアの端にスッとよけた。すると、シャルントが、ゆっくりとした歩きで出てきた。

 シャルント──タノル・シャルントは、リンの森の番人である。と言っても、リン全体が森なので、区長の役割もしている人物である。

小柄に白いひげ、いつもかぶっている、真っ赤な三角帽は、『白雪姫』の七人の小人を連想させる。

 「いつもながら、絶好調ですね。『先読み』は」ライが、ニカッと笑いながら言った。

 「『先読み』……」ロゼは、リンの土地を始めてふんだが、『先読み』のことは知っていた。

 リンは全体が森なので、天気に影響されやすい。──台風が来れば木々は倒れ、雨が降らねば木々は枯れる──そのことを事前に知るために、先を読む力──『先読み』が、リンの住人に備わったという説がある。

 魔法でも、先を読むことはできるが、『先読み』は、それをはるかに上回る力があった。

 「お主たちの、言いたいことは良くわかっとるが、今は、そんなことに付き合ってられんのじゃ。あと一ヵ月後に、大きなあらしがくるでの。その対策を立てなくてはならん」

 「ああ、そうですか……。それじゃあ、失礼します」

 ライは、軽く頭を下げると、その場から立ち去ろうとした。

 「待て、役に立つかどうか分からんが、こやつを連れて行け」

 出てきたのは、十歳くらいの男の子。短髪に鋭い目。耳には、緑色に光るイヤリングをしていた。

 「わしの孫じゃ。五年なら貸してやってもええ」シャルントはそういうと、急ぎ足で森の奥へと去っていった。

 「……五年?」五年とはどういうことなのだろう。ロゼは少し不安になった。

 「君、名前は?」ライが、微笑みながら聞く。いつも笑っている人だなとロゼは思った。

 「……シャルゴ」ロゼは想像していたよりも、高い声だったのでびっくりした。

 「僕はライ。こっちはロゼ。よろしくね」

 「……うん」

 シャルゴは、コクリと音がしそうな動きでうなずいた。


 「すごいですよね、リンの人たちは。うらやましいですよね。未来が見えるなんて」

 ロゼは、クウク (飛行研究区域)に行く、道を歩きながら、何度もそう言っていた。

 「うん、でも、そうでもないらしいね。さっき、シャルントじいさんも言っていたけど、 『先読み』は、最大五年までらしいからね」

 「ああ、そうなんですか」

 ロゼは、先ほどのシャルントの最後の言葉が、ずっと引っかかっていた。自分の悪夢の根源を見つけるまでに五年もかかるのかと、心配になったが、シャルントの言葉は、孫を心配してのことだったのだ。自分が見える五年間は、孫に何にも危険が及ばないから、役に立つから連れて行けということだったのだ。

 「あと、五年以内だったら、自分の死も見えるようだからね。先が見えるというのは、あんまり良いことじゃない」ライは、微かに顔を暗くしながら言った。

 「ああ……」

 ロゼは、深く息を吸った。

 リンの人が、課される運命。──自分の死が見える。すごく辛いことなのだろう。見えた後の五年間、どう過ごすのだろう。

 ロゼは、考えただけで、胸がはち切れそうになった。

 「……あのさ」シャルゴが、突然口を開いた。

 「オレ、なんで君たちについていっているのか、分かんないんだけど。じいちゃんみたいに『先読み』が強くないからさ、ちゃんと説明してくれなきゃわかんないよ」

 「ああ、そうだよ。僕も、カーニャにロゼが、説明しているときに、ちょっと上の空だったからさ。あんまり覚えていないんだよね。…………あれ?何で泣いてんのさ、ロゼ」

 「え?」

 ロゼは、知らない間に、大粒の涙をこぼしていた。



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