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「本当に、申し訳ないです」先ほどからロゼは、大変申し訳ないことをしたと思っていた。
カーニャから、悪夢を見られなくする薬草を、もらっただけではなく、カーニャの弟子のライが、悪夢の根本的な原因を、解決してくれるというのだ。
なんて親切な人たちなのだろう。ロゼは泣きたいぐらい嬉しかった。
「とりあえず、シャルントじいさんのところに行ってみるか。あのじいさんは、もの知りだから、なにか教えてもらえるかもしれない」
「は、はい」ロゼは突然話しかけられて、少し驚いた。ライは、先ほどから黙って、ロゼの前を歩いていたからだった。
ロゼは歩くことが苦手だった。
地面の上に立った二本の足で自分の体重を支えることが、どうしても信じられなかった。といっても、ロゼの足が自分の体重を支えられないほどのものではない。物理的に、無理だと感じていたからだった。
だから、魔法を使って、一センチほど宙に浮いて、進む。ロゼ以外の人は、そのような事をしないで、ふつうに歩く。よって、足を動かさないで進むロゼは、マクニの街なかでは、大変に目立った。それがいやだったロゼは、足を動かすことにした。少し宙に浮きながら。
ロゼは、今までに、自分が歩いている姿を他人に見られても、気づかれたことがなかった。
「ああ、なるほどね」ライが、突然つぶやいた。
「はい?」
思わず返事をしてしまったが、自分に話しかけてきたのだろうかと、ロゼは少し不安になった。
「うん、なんでもないよ、……そうかそうか」ライは、ロゼを少し振り向いて、笑った。
ロゼは、そんなライを見て、ゾクッとした。
振り向いたライの視線が、ロゼの足元へ、一瞬だが、そそがれたような気がしたからだ。同時に、ロゼの頭にチクッとした軽い痛みが走った。
思考を読まれた。ロゼはその一瞬にして理解した。
さすが、マクニが誇る大魔法使いカーニャの弟子だ。
おそらく、ライは、ロゼの足を見て、宙に浮いていることを確認し、そして、思考を読み、確信を持った。
ロゼは、つばをゴクリと飲んだ。
そして、魔法を解いて、自分の足で歩いてみようかと考えた。