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 「絵本を書いたのは、チリカが読んで、記憶を取り戻してくれたら、と思ってね」

 「どうして、最後のほうを、チリカが神になったと、書いたのですか?」ライが聞く。

 「チリカが、記憶をなくしたということが、信じられなかったから。微かな抵抗だと思ってちょうだい」

 「なぜ、チリカの記憶がなくなったとお考えですか」

 「恐らくは、チリカが、自分で記憶と人格を、花に吸い取らせたんだと思うわ。無意識のうちにね。とても、責任を感じていたんだと思うわ」

 「あたし、見たよ。カロコさんたちの花。とってもきれいだった……」キリアは、その光景を思い出したのか、目を細めていた。

 わたしも、見てみたいな。

 恵美はそう思った。

 「カロコさんの生き残った仲間たちは今、どうしているんですか?」

 ライが、また質問をする。まったく、疑問がたえない人だ。

 「さあ、分からないわ。みんな元気で生きているといいけど」

 「そうですか……。ああ、お忙しいのにお手数をおかけしました。それでは、もう、帰らせていただきます。ありがとうございました」

 「いいえ、こちらこそ、ありがとう。チリカの記憶が戻ったと分かって、すっきりしたわ」

 

 恵美は、カロコの個室から出る前に気になることを聞いた。

 「もう、海へは、戻らないのですか」

 「ええ、もう、二度とないわ…………」

 カロコは、いったん押し黙ると、言った。

 「でも、たまに戻るのも、いいかもしれないわね」

 「はい、戻られたほうがいいと思います。罪滅ぼしだって、ちゃんとしていると思いますし……それに…………」

 「それに?」

 「だって、あなたは、カリトの住人なんですから」

 カロコは微笑んだ。今までの中で最高の笑顔で。



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