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カロコは、もともとカリトに住む、リンであった。
いつも冷静沈着。何事にも、考えて行動する性格だった。
カロコだけではなく、リンの住人はたいてい、同じ性格をしていた。
みなが、地上に出たいと言っていたときも、カロコを含む、リンたちは、地上に出たらどうなるのかを『先読み』で調べてみた。
『先読み』で見えたのは、みなが砂浜で、もがき苦しむ場面ではなく、カリトの長チリカがある呪文を唱えて、指先から花を出し、地上に出て行くというところだった。
カロコたちは、チリカのように『先読み』が達者ではなかったので、自分の見たい未来を見ることが出来なかったのである。
地上に出ることを反対していたチリカが地上に出た、という未来がみえたカロコたちは、安心して、他のマクニやクウクに地上に出ても安心だ。ということを伝えた。
マクニやクウクはそれを信じて、地上へ飛び出していった。
カロコと共に、『先読み』をしたリンの人たちも、地上へ行った。
カロコと数人の仲間たちは、地上にはあまり興味がなかったため、カリトに残り、みなが帰ってきて、土産話を持ってくるのを、楽しみにしていた。
ところが、いくら待っても、誰も帰ってこなかった。
そんなにも、地上は楽しいところなのだろうか。
カリトに帰ってきたくないぐらいに、楽しいところなのだろうか。
カロコたちは、相談の末、自分たちも、地上に出てみることにした。
一体どんなところなのだろう。カロコたちは、ワクワクしていた。
そのときである。
すすり泣きが聞こえた。
カロコたちは、泣き声のするほうへ行ってみた。
岩かげから、そっとのぞいてみる。
すると、チリカが、長く美しい髪を振り乱して、泣いていた。
どうして泣いているのだろう。
カロコたちが、顔を見合わせたそのとき。
チリカがある呪文を唱えて、指先から花を出し、地上へ行ってしまった。
そう、『先読み』で見た、あの光景と同じだった。
残されたカロコたちは、急いで、チリカと同じことをして、地上へ上がった。
そこで見た光景は、おぞましいものだった。
たくさんのカリトたちが、浜辺で息絶えていたのである。
カロコはふしぎに思った。
どうして自分たちは、平気なのか。
そして、チリカはどこへ行ってしまったのか。
よく考えてみると、自分たち以外のカリトは、花を出していなかった!
そうか…………それで。
カロコたちは、いたたまれない罪悪感にみまわれた。
どうして、チリカが花を出したことを、ふしぎに思わなかったのだろう。
どうして、他の住人にそのことを言わなかったのだろう。
自分たちだけが、助かって、良かったのだろうか……。
やっと、チリカが海の中にいたときに、泣いていた理由が分かった。
そして、なかなかカリトが、帰ってこなかった理由も。
カロコたちは、浜辺で、大量の涙を流した。
ごめんなさいと何度もつぶやきながら。
物音がして、カロコは顔を上げた。
そこには、チリカがいた。
フラフラとして、今にもたおれそうだった。
「チリカ……!」カロコは、チリカの元へ走った。
地上では、思うように体が動かなかったが、なんとかチリカの所へ着いた。
「あなた……、どちら様ですか?わたしは、チリカではありません。ロゼです」
チリカは記憶をなくしていた。
呆然としているカロコを無視して、チリカはマクニのほうへと去っていった。
カロコは、浜辺に戻ると、チリカが記憶をなくしていることを話した。
だが、自分たちでは、どうすることもできない。
海という、住みやすい環境に戻るか。
カロコたちは話し合った。
結果はすぐに出た。
そんなことは、してはいけない。
それに、海に戻ったからといって、一体何があるのだろう。
何もないじゃないか。
一番住みやすいが、一番住みにくい場所だ。
カロコたちは、浜辺で別れた。
十数人。一塊になっても、なにもできやしない。
だいいち、カリトがこんなことになったのは、自分たちのせいだ。
固まって、生きている資格なんてない。
カロコは、クタクタになるまで歩いた。
歩いて、着いた場所は、サクリだった。
サクリの親切な住人に助けられ。
カロコは、今こうして、サクリの住人になった。