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『5』と書かれた階段を上がると、壁に向かって、机がズラッと並んでいて、等間隔に、壁が立ててあった。どうやら、それぞれ個室になっているらしい。
階段側にある廊下を歩いていくと、その個室一つひとつに、一人のサクリの住人が、頭をかきむしったり、本でなにかを調べていたり、ペンを持って書いていたりしていた。
ドアがなく、となりを仕切る壁しかないので、廊下を歩けば、すべて丸見えだった。
「マサラ・コンツエール…………サラク・ミタゴラニュ…………」
ライが、天井からくさりでぶら下がっている、板の文字を読み上げながら歩いていた。
どうやら、作家さんの名前らしい。
「…………ツェンター・カロコ……ここだ!」
そこには、黒い髪が、腰の辺りまでまっすぐに伸びた女の人が座っていた。
「この人が…………」声がするほうを恵美が見ると、キリアが唾をゴクリと飲んでいた。
「ええ、わたしが書いたわ。『海の中の住人たち』を。でも、どうしてここまで来たのかしら」革張りのゆったりとしたイスに座りながら、カロコは話した。よどみない、きれいな声だった。
「それはですね……」ライは、恵美の知らない話を始めた。
ロゼという少女のこと。
悪夢の中のチリカのこと。
その悪夢の根源を見つけるために、いろいろなところに行っていたこと。
リンであったこと。
クウクで『海の中の住人たち』の絵本を見たこと。
ロゼの頭の中を魔法で見たこと。
海の区域、カリトへいったこと。
ロゼが、チリカ本人だったこと。
海の中の花のこと。
それが終わってから、恵美という人間がきたこと。
カーニャに、この世界を案内しろと言われたこと。
そして、ここまで来た経緯。
「そう…………」
一通り話を聞いたあと、カロコはしばらく、宙をにらんだまま動かなかった。
「なぜ、あなたが、カリトのことを知っていたのですか? 創作ではない。これは事実です。そのことを、ぼくらは知りたい」
ライは、黙ったままのカロコに聞いた。
恵美も、知りたかった。
今聞いた、冒険が本当なら、なぜこの人は知っているのだろうか、と。
「わたしは、カリトの住人でした」
カロコは静かに、語り始めた。