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「最近、奇妙な夢を見るんです」
「……ふむ」
「毎日、見るんです」
「……ほう」
カーニャは、少女──ロゼという名前らしい──の話を聞いていた。なぜ、カーニャは『疫病神』とまで言ったロゼの話を聞いているのか。────原因はライとカーニャにあった。
ライは、カーニャの家に入るとき、戸を閉め忘れてしまったのだった。ロゼは、およそ二時間近くも、カーニャに家の前で待たされていたので足が棒のようになっており、早く中に入りたかった。という、二つの (カーニャにとっては) 大変不幸な条件が、重なってしまったため、ロゼが、カーニャの家に勝手に入り込んで、いすに座っているという状況が生まれたのだった。幸いにも、カーニャの言っていた『疫病神』の話は小声で話していたので、ロゼには聞こえなかったようである。
「それじゃ、その怖い夢を見ない薬草をやろう……」カーニャは、一通りロゼの話を聞くと、薬草が保管されている、となりの部屋へフラフラと歩いていった。よほど、ロゼがお気に召さないようである。
ライも、カーニャのとなりで、ロゼの話を聞いていたが、薬草で解決しそうな内容の話であったため、なぜカーニャがそのような状態になるのか、まったく分からなかった。
「どうしたんでしょう」ロゼが、突然ライに向かって言った。
「なにが?」
「カーニャさんです……。あんなにフラフラされていて、ご病気ですか?」そのセリフを聞いて、ライは吹き出した。
「…………?」大笑いをするライを、ロゼは、首をかしげながら見ていた。
「ほら、これでよいじゃろう……」カーニャは、となりの部屋から戻ってくると、ライが、一度見たことのある薬草を持ってきた。ちなみに、ライが薬草を見たとき、薬草の名前、その効果などを、カーニャは説明した。だがライは、何一つとして覚えていない。
「あ、これは『アウラソウ』ですね。タシュさんに以前もらったことがあります。でも、効きませんでしたけど……」ロゼは困ったように言った。
そのとなりに居たライは、やっとこさ薬草の名を思い出していた。
「ああ、そうそう。『アウラソウ』ね。はいはい」
カーニャは、ライに鋭い視線を浴びせてから、こう、つぶやいた。
「タシュの奴なんかと一緒にせんでくれ……。『アウラソウ』はそうじゃが、カーニャ特製スペシャルスパイス配合じゃから、威力は、すごくなっておる……」
「あ、そうですか。ありがとうございます」
ロゼは、丁寧に頭を下げると、家から出て行こうとした。
「困ったことがあったら、またいつでも、来ていいですから」ライは手を振りながら言った。
「お前も行け」カーニャがぼそりと言う。
「へ?」ライは耳を疑った。
「薬草で、悪夢が見られなくなるのは、一時的なものじゃ。その、根本的な部分を解決せんと、いかん」
「カーニャが、行けばいいじゃないか」
「お前が行け」
「…………」ライは、また思った。
カーニャは、本当に人使いが荒い、と。