3;02
2
「ふーん、そう。道に迷ったんだね」少年はライといった。
恵美は、進められるがままに、イスに座り、ここに来たいきさつを話し始めた。
「コンビニって、なに?」
「…………はい?」
ちょっと待ってよ。
恵美は信じられなかった。
わたしとだいだい同じ年ってことは十三歳くらいよね。中学一年で、コンビニを知らない人がいるとはね……。
「まあ、何でも売っているお店屋さんかな」
「ふーん、そうなんだ」ライは神妙な顔でうなずいた。ウソをついているようではなかった。
恵美は、ライの後ろに座っている、老婆が気になって仕方がなかった。
着ているのは、確実に魔法使いの話で出てくるローブ。
鋭い目と、とがった鼻が、いかにも魔女らしい。
その魔女が、口を開いた。
「なんだい、わたしのことが気になるのかね。人間界のお譲ちゃん」
きゃ。
恵美は、飛び跳ねそうになった。
思考を読んだわ。それに人間界だって!ってことは、もしや、ここは魔界!?
「いいや、ここは、マクニ。魔界の連中とは違うのさ」
「で、でも、魔法使いなんでしょう?」恵美は、恐る恐る魔女に聞いた。
「いかにも。わたしは、魔法使いのカーニャ・ストロンディアルだ。こいつは、孫ではなく、わたしの弟子だ」ライを指さして、カーニャが言った。
「魔法使い……。本当に? あ、あの、魔法を使って見せて」
「よろしい」
カーニャは、指をパチンと鳴らすと、スッと消えた。
「わっ……、消えた」
「どうだい」見えないのに、カーニャの声が聞こえた。
「す、すごいです!」
また、パチンという音が聞こえて、カーニャの姿が現れた。
「ライ、この少女に、ここの世界を案内しなさい」
「えー、どうしてさ」
ライは、ほほをふくらせた。
「この世界に、人間界からの訪問は、二十年まえにあったきりだ。とっても珍しい者なんだぞ」
「案内したからって、なんになるのさ」
「いいから行け。マクニではなく、リンやクウクに行け」
「またこのパターンか……」
ライは、ため息をついているが、恵美は、ワクワクしていた。
魔法の世界が見られる。なんてすばらしいんだろう。
今日は、まったくもって、ついている日だ。恵美はそう断言できた。