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 「…………シャルゴ、こっちに来るのじゃ」

 「じいちゃん……」少しやつれたような気がする。シャルゴは、シャルントのうしろ姿を見ながら、そう感じていた。

 シャルゴは、シャルントの後について、家に入った。

 木で出来ている家。一時期、全壊状態だった家。


 シャルントは、木製のイスに腰を下ろすと、黙ったまま、空中をにらんでいた。

 シャルゴは、台所へ行き、二人分のサルッシュという疲れが取れるとされる飲み物を、コップに注ぎ、シャルントの前のテーブルに置いた。

 「ああ……、ありがとう」

 黙ってサルッシュに口をつける二人。

 「…………」

 黒い液体が、半分ほどになったとき。

 「ふう、やはりサルッシュは、苦いのう」コップをテーブルの上に置くと、シャルントは、口を開いた。


 「宝玉が、なくなったんじゃ……」


 「えっ……」シャルゴは、口を開けたまま、しばらく動けなかった。

 そうか……。『先読み』が失敗したわけは、これだったのか……。


 宝玉とは、五十以上あるとされる区域一つひとつを、守るとされる石だった。その石は、区域の長によって大切に守られてきた。

 その石がなくなったからといって、その区域の力がなくなるわけではないが、シャルントは、『先読み』が失敗した理由が、このことにあると感じていた。

 リンの宝玉は、球体で、透明な中にうすい緑色の光が泳いでいた。

 大きさは、直径三センチ。

 重さは、髪の毛一本分ほど。

 その宝玉が、保管されている場所は、リンの長、シャルントしか知らない。


 「いつからなくなったのさ?」シャルゴは、気を取り直すと聞いた。

 「うむ……。今日の朝にはあった。昼にもあった。夕方に見たら……なかった」

 今は、深夜である。

 「ふーん。どこに置いてあるの?宝玉は」

 「それは、教えるわけにはいかん」

 「…………教えてよ。いずれ、オレがじいちゃんの後を引き継いで長になるんだろ」

 「だめじゃ。それは、引き継ぐときに教えるもんじゃ」

 「…………それじゃあ、なんで、オレに宝玉がなくなったことを言ったんだよ」

 「おまえが、次の長になる予定じゃからな」

 「だったら、場所を教えろよ!」

 「だめじゃ!」

 シャルゴは、ため息をつくと、サルッシュを一口飲んだ。

 「…………あらしで、どっかに飛ばされたんじゃないの。軽いんだし」

 「いや、それはない。厳重に縛ってあるからの」

 「ふーん」

 シャルゴは考える。

 あらしの被害を受ける対策をしているということは、恐らく外だ。

 「雨とかに打たれて、流されたりとかは?」

 「いや、木々に守られているからの。雨に当たることはない」

 よし、これで、外に宝玉があるということが確実になった。

 シャルゴは、ほくそ笑んだ。

 木々に守られているということは、木よりも、下の場所にあって、地下ではなく、地上にあるということだ。

 「なんか、葉っぱとかで包んでいたりしたら、誰かが持ってちゃうんじゃないの?」

 「それもないのう。石の玉座に神々しく飾っておるから、だれも、さわらんじゃろうて」

 「へ?」

 まさか、あれが、宝玉の場所だったとは。

 シャルゴは、自然に、「ちょっと外に行ってくる」と行って、ドアを閉めるなり走り出した。

 シャルゴがいなくなった家の中で、シャルントはサルッシュを飲んだ。

 「ふぅ、あいつに、宝玉の場所を教えるのも大変じゃわい。長を受け継ぐときに、場所を教えるのが規則じゃからのう。これで、あいつが偶然にも宝玉の場所を知ってしまったことに、なればいいがのう」


 「ここか……」

 リンのはずれの山奥に、ひっそりとその主をなくした玉座があった。

 確かに、木に守られている。が、その守られるものは、今はいない。

 「どうして今までここだと気づかなかったんだろう」シャルゴはつぶやいた。

 山奥とは言っても、シャルゴは結構ここに来ていたからだった。

 隠している宝玉をこんな目立つところに置くはずがないという先入観からか。

 「………………」

 シャルゴは、石の玉座の周りを見ようとしたが、真っ暗で何も見えなかった。

 「……ん?」なにか、甘いにおいがする。

 これは……。

 「なんだろう……」シャルゴは考える。

 さっきまで気付かなかった。

 深夜で何も見えなくなった今、視力の変わりに嗅覚が敏感になったのだろう。

 花や木の蜜の匂いではなかった。

 いつも嗅ぎなれている匂いとは違う。

 でも、どこかでかいだ匂い。

 「…………あっ!」

 思い出した。

 ライが使った、あの美しく、すばらしかった魔法。

 あのとき、ライの声に聞きほれて気がつかなかったが、確かに、匂っていた。

 これと、同じ匂い。

 もしかして、魔法を使ったときに出る匂いなのか。もしくは、ライの愛用している香水かなんかか。

 「ライが、宝玉を取ったのか?」いや、リンについてから、ずっとシャルゴはライと行動をともにしていた。あらしがくるまでは。

 「そうか、ライが、魔法であらしを起こし、リンの住人があわてているすきに、宝玉を…………!」

 なんてやつだ。

 シャルゴは、奥歯をかみしめた。

 「どうりで、『先読み』が失敗したはずだ!魔法で、いきなり起こしたあらしが分かるもんか!『先読み』は失敗していないんだ!」

 シャルゴは、急いで、シャルントがいる家に向かって走った。

 はやく、シャルントにこのことを知らせて、何とかしてもらわなければ!



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