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「そうだったの」
キリアは、海を見ながらつぶやいた。
ライは、海から上がって、浜辺に座りながら、キリアに説明した。
今度は、「はぁー」だの言わなかったので、短時間ですんだ。
「それじゃあ、結局あの夢は、なんだった訳?」
「たぶんだけど、ロゼが感じたあの重い空気は、海水だったと思うよ。空気より、水だと音が聞こえにくいからね」
「ふーん」キリアは、貝がらを拾いながら、返事をした。
「結局は、あの花がロゼに夢を見せていたんだと思うよ」
「へ? どういうこと」
「キリアさんも、分かっていたでしょう。ロゼのときと、チリカのときは、口調がちょっと違ったでしょ。それは、花に記憶だけでなく、カリトの長としての人格も吸い取られていたんだと思うよ。その人格が、ロゼにチリカのことを思い出して欲しくて、夢を見させていたんじゃないかな」
「なるほどねー。って、ライも、あたしに対する口調が変わってない? ちょっと前まで、敬語だったような気がする」
「あ、そうだった? きっと、気のせいだよ」
「そうだったかなあ」
「そうそう」ライは、クスクスと笑い出した。キリアも笑い出す。
しばし、二人は笑いあった。
「そういえば、あのツェンター・カロコは、どうして、カリトの話を知っていたんだろうね」ライが、思い出したように言った。
「ツェンター・カロコ? 誰、それ」キリアが首をひねった。
「忘れたの? 『海の中の住人たち』の作者だよ。カリトは、チリカ以外全滅したんでしょう?だれも知らないはずだよ」
「ああ、そういえば、そうだね……」
キリアは、うでを組んで考えはじめた。
「そう、たとえば、死んでいったカリトの人たちの魂みたいなのが、カロコさんに乗り移って、絵本を書いた……とか」
「ないない」ライは、笑いながら、首を振った。
「それじゃあ、カリトは全滅したわけじゃなくて……、何人かは生き残っていて…………、それがカロコさん……とか」
「ないない」
「そうかな。今のは、けっこう自信あるのになあ」
「うーん、さっきのよりは、全然いいけど、ありえないよ」
「そうかなあ」
さっきまで、サンサンと照っていた太陽が、海に飲み込まれようとしていた。
まもなく夜になる。
だが、地面に日が当たるのは、もうすぐそこだ。