1;18
18
三人は海の中に入っていた。
「わたし、海って初めて。すごいなぁ」執拗に感心しているのはキリアだった。
キリアは、羽があるので、ほかの二人よりも、ゆっくりと進んでいた。
「ね、ライとロゼは、海は初めて?」
「マクニは、山奥にあるんですよ。そうそう行けるもんじゃありませんよ」ライが苦笑しながらそれに答える。
「ああ、そうか……。それじゃ、三人とも海は初めてか」
「ええ……まあ……」
「もっと、深いところに行ってみますか」
ライは、そういうと、どんどん深いところに潜っていく。
「あっ、ちょっとまってよ」
キリアが慌てて追いかけようとするが、慌てれば慌てるほど、進まない。見かねたロゼは、泳ぎ方を教えた。
「キリアさん。足を曲げないでゆっくり動かして、手を前の水をかき分けるように動かしながら、進んでください」
「あ、進んだ進んだ。ロゼ、教えるのうまいね。実は、海に来たことあるんじゃないの?」キリアはニッコリとロゼに微笑みかけた。
「えっ…………ないと思いますけど」ロゼは、自問自答をする。
海に来たことがあるのか。
最近では、なかったような気がする。
では、昔は?
「………………」
思い出せない。
どうしてだろう。
ロゼは、自分の頭を軽く叩いた。
思い出せ……。思い出せ……。
「うわー、なになに、この魚!きれい!」
キリアは突然、黄色い魚を指差して、歓声を上げる。
「ああ、それは、キイロチャントルという魚です。他にも、赤、だいだい、黄緑、緑、青、紫の色があって、群れになって泳ぐさまは、虹のようです」
「へぇー…………」魚をさわろうとするキリア。
「ですが、気を付けてください。地上とはちがって、大きいものが強いのではないのです」
「どういうこと?」
「小さいものが強いのです。集団となって、大きな魚を食料とします。それに、頭もいい」
「そんなこといっても、大きいほうが、強いに決まっているわよ」
「いいえ、そうではありません。小さい魚には、鋭い牙がありますし、大きい魚には、それがありません。小さい魚は、大きい魚に食べられそうになったら、すばやいですから、すぐに逃げることが出来ます。大きい魚はその分、水の抵抗が大きいですから、追いかけることは無理です」
「ほー、くわしいね。それじゃあ、大きい魚は、何を食べているわけ?」
「海藻です」
「なるほど」
キリアは、海水の中で、腕くみをしながら、大きくうなずいた。
なぜ、こんなにも、くわしいのだろう。
またロゼは自問自答をする。
本で読んだから?
誰かに聞いたから?
いや、ちがう。
そんなこと、記憶にない。と、いうことは……。
実際に見たからだ。
ロゼは、ゴクリと、つばを飲んだ。
「おそいよ」ライがいつの間にか戻ってきて、ロゼとキリアの手を引っぱった。
「着いてきて。見つけたよ、住居跡」