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「はー、なかなか暗い話ですね」ライが感想を言う。
キリアは、羽をパタリと動かして、それに応じた。
「作り話だろうけど、ここまで悲しくせんでもねぇ」
「どうして作り話だと、分かっているんです?」ライが小首をかしげた。
「そりゃそうさ、作者は、ツェンター・カロコ。サクリ (文字作成区域) の絵本作家が書いたものだからさ」
「……ツェンター・カロコ?」ライは、聞いたことがなかった。
そもそも、ライは本というものをあまり読んだことがない。
「…………わたし、この話、どこかで聞いたことあるかも知れないです」
突然、黙っていたロゼが口を開いた。
「ええ?」
ライは、耳を疑った。と同時に、嬉しくなった──とうとう、ロゼの悪夢の正体を突き止めた!
「分かったよ、ロゼ。ロゼは子供のころ、この本を読んだんだろう。小さい子には、この話は怖かったのかもしれない。カリトの住人たちに何も教えなかったチリカを、とても恐れていたんだ。海に住む者が、地上に出たときの恐ろしさを知っていたのにわざと見殺しにしたんだってね。そして、数年たって、この本を読んだことを忘れてしまったけど、「チリカがとても怖い」ということだけは、印象深くて、記憶の奥底に眠っていたんだ。それで、あるとき、奥底で眠っていた、記憶が呼び戻されて、悪夢として蘇ったんだ!」
ライは、興奮して、ペラペラと話した。
「そう、ロゼの悪夢の原因は、この本にあったんだ!」やったぞ。これで、もうおしまいだ──そう思っていたライの、すがすがしい心に、一本の矢が刺さった。
「それは、ありえません。わたしは、今まで数多くの本を読んできましたが、すべてを記憶しています」
「…………はい?」
「あのさぁ」
困惑しているライの隣で黙って聞いていたキリアが、これまた困惑ぎみに話した。
「さっきから、悪夢とかって話してたけど、なに?それは」
「ああ、それは──」
ライは、ロゼの悪夢のことを説明した。
キリアはフムフムと聞きながら、話の途中で「はぁー」というため息や「ロゼはたいへんだなぁ」などと、いちいち感想を言うので、説明するのにえらく時間がかかった。
「なるほどね。それで、そのライの解釈か……。だけど、ロゼは全部記憶しているぞ、と……」
キリアは、ウーンと腕くみをしながら、なにやら考え始めた。
──数分後。
「よし。今から、テストをやろう」
唐突に言われたその一言に、ライとロゼは困惑した。