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むかしむかしのことでした。
海底には、さまざまな区域の住人がすんでいました。
マクニ、リン、クウクをはじめとする五十もの住人が、一つのカリトという区域となって、すんでいたのです。
リンは木ではなく海藻を育て、クウクは海水の中を鳥のように泳いでいました。
それはそれは幸せな生活でした。
ある日のことです。住人たちは、ふしぎなことに気がつきました。
海には、水があるが、では、外の太陽が直接照る地面では、どうなっているのだろうか、と。
そうなのです。カリトの住人たちは、海以外の世界をまだ見たことがないのでした。
カリトの住人は、好奇心が旺盛でした。
気になることがあれば、すぐにでも飛んでいって、確かめてみたい。と思っていました。
そこで、みなで外に出てみようということになりました。
ところがそれを、カリトの長、チリカが止めました。
外に出てはいけない。外に出てはいけない。
それしか、チリカは言いませんでした。
カリトの住人が何度も聞いても、首をたてには振りませんでした。
カリトの住人は、一時期外に出ることをあきらめましたが、一度気になりだすと、住人の意識は、外の世界へと飛んでいきました。
クウクは、もうろうとして、サンゴ礁に頭をぶつけ、リンは、海藻をせんていしようとして切り裂き、マクニは、砂の城を作ろうとして、失敗しました。
カリトは大変なことになりました。
カリトの住人は、ガマンが出来なくなり、チリカの忠告も聞かずに、海から外へ、飛び出していきました。
深い海の奥底で暮らしていたカリトの住人には、太陽の光はあまりにもまぶしすぎました。
────その光で、ほとんどの者の目が、視力を失いました。
海水から酸素を得ていたカリトの住人は、ほかの方法で、酸素の得る方法を知りませんでした。
────酸素不足で、海に戻ろうにも、目が見えないので、もう、どこが海だが分かりませんでした。
数え切れないほどのカリトの住人が砂浜で、息絶えました。
海には、クウクがぶつかったサンゴ礁、リンが切り裂いた海藻、マクニが失敗した砂の城と、チリカが残されました。
チリカの悲しみは、それはそれは深いものでした。
チリカが、本当のこと説明したところで、カリトの住人は理解できたでしょうか。
冗談を言っているとばかり、思うのではないでしょうか。
────以前あったその思いは、チリカには、なくなりました。
なぜ、きつく止めることができなかったのか。
分かっているのに、なぜ言わなかったのか。
────その疑問が、チリカの頭の中で、渦巻きました。
チリカは、リンの区域の住人でした。
『先読み』は、誰にも負けない自信がありました。
ですが、チリカは、カリトの住人には秘密にいていました。
カリトの長がリンと知れたら、リンは得意になってしまい、ほかの住人よりえらいんだと思い込んでしまって、区域差別が起こるのではないかと、心配したからでした。
今となっては、住人がいないのですから、差別など起こるはずがありません。
言うべきでした。
自分はリンの住人だと。そうしたら、カリトの住人は信用してくれ、こんなことには、ならなかったはずです。
なぜ、そのことが『先読み』で知ることが出来なかったのか。
チリカは、自分の能力の中途半端さに、腹が立ってきました。
誰にも負ける自信がなかった『先読み』で、自分が負けたような気がしました。
チリカは、悲しみのあまり、数が月の後、暗い海底で、息絶えました。
その、チリカの魂は、あまりにも住人を思う気持ちから、神となりました。
チリカは、今も、自分がしたことを悔やみながら、海の平和を守っているということです。