1;11
11
「何故、怒っていたんでしょうね。シャルントさんは感謝しているようでしたけど」
ロゼは、微かに怒った顔を見せながら、ライに言った。
「当たり前だよ、リンの『先読み』が当たらなかった上に、マクニに奴に、元通りにされちゃったからね。リンは、他の区域よりもプライドが高いから、自分たちの信じるものが、なくなったんだよ。それに、シャルントじいさんは、リンの長だ。区域に一つあるといわれる宝玉を守る長だ。プライドが傷つけられたとしても、元に戻ったんだ。自分より、リンを一番に考える──それが長だ」
「そうですか。……でも、何でライさんは、分かっていて、元通りにしたんですか?」
──悔しかった。と言えば、この低い魔力の子は納得するだろうか。
ライは、ロゼの質問に答えないで、考えた。
いや、無理だな。
ライは、すぐに答えを出した。
ロゼだけじゃない。誰にも分からないだろう。
なぜって、自分でも分からないのだから。
あのとき────リンがあらしで、全壊状態だったとき。
ライは、ライではなかった。
異常なことがあると、パニックになってしまう。
そして、さまざまな感情がうごめき、自分か思っていることと、反対のことをしてしまう。
自分が自分ではなくなるのだ。
その状態がライの、一番嫌いな状態だった。
だから、異常なことが起きても正常に保とうとした。反対の自分を外に出さないようにした。
──出来なかった。それが、ライは、とっても悔しかった。
カーニャにはかなわずとも、ライは、魔力は相当なものを持っている。
──手足が思うように動かない。
それじゃあ魔法をかけよう。
体を少し浮かせよう。
皆に気づかれないようにしよう。
──何でも出来た。
出来ないものはないと思っていた。
魔法があれば、これさえあれば、何でも出来る。
それが、これだ。
あらしが来て、リンがめちゃくちゃになった。
何故、未然に防げなかった? 何でも出来るんじゃなかったのか…………。
「ライさん、ライさん」ロゼがライを呼んでいた。
「なに?」ライは、少しぶっきらぼうに、答えた。
「これからどこに行きます? シャルゴくんは、帰ってしまいましたし……」
そう、シャルゴは、両目に涙を浮かべて、ライをにらみつけて去っていったのだ。
「……………………」
もう、ライはロゼの悪夢を解決することが、いやになってきた。
『そんなこと、言うもんじゃないよ』ズキリという頭の痛みとともに、カーニャの声が、ライの頭に響いた。
『そんなこと言ってもさ、もう、どこ行ったらいいか分かんないよ』ライは、魔法を使って、カーニャに返事をした。
そして思う、カーニャは、ライの行動と思考を今まで全部読んでいたのだろうか。その可能性は十分にありえた。ライは、すこしムッとした。今度は、思考を読まれないように訓練しなければいけないな…………。
『…………クウクに行け』数分の沈黙の後、カーニャは、言った。
『……クウク』
昨晩、ロゼとシャルゴと共に、行こうとしていた所だった。
『そうじゃ、そしたら、全てが分かるじゃろう。……シャルゴがいなくても、何とかなるじゃろうて』
──プツン。ライの頭の中で、カーニャの魔法が切れた音がした。
「なぜ、最初からカーニャさんが、来てくれなかったのでしょうか?全て分かっているようすでしたよね」そのロゼの言葉をきいて、ライは、目が飛び出しているのではないかと思った。
「え?なんで、ロゼが知っているの?」
「…………だって、カーニャさん、私にも魔法で話しかけてくれましたから。ライさんの声も、聞こえていましたよ」
「ああ、そう…………」
それは、絶対にありえない。
ライは返事をしながらそう思っていた。魔法で話をするというのは、送信者一人に対して、受信者一人であり、二人で会話をするものだ。三人でなんて、いくらカーニャの魔力が強いといっても、それは不可能である。
だが、ロゼは、ライとカーニャの会話を知っていた。
どうしてか。
ライは考えた。それは、ロゼが魔法でライの思考を読んでいたからだ。
ロゼは、魔法を使った後に出る匂いがなかった。いや、匂いすらなくとも、意識的に、魔法を使っていれば、何らかの変化が見られるはずだ。
だとしたら、無意識のうちにやっていたのか…………。
もしかしたら、ロゼは、そうとうな魔力を持っているかもしれない。
ライはそう思っていた。