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 そのあらしは、リンの歴史に名を刻むほどの勢いだった。

 木々が生い茂るリンが、一晩で、荒地と化した。

 樹齢何千年もの木々がたおれ、枯れていった。

 行き場をなくした動物たちが、死んでいった。

 家のほとんどが全壊状態になった。

 今まで、リンの端から端まで、木や家で見わたせなかったのが、見わたせるようになった。

 いや、ほとんどのリンの住人は、その状況から目を伏せた。見ることは出来るが、見ようとしなかった。

 ロゼは、腕に軽い傷を負っていた。魔法で自分の身は守ったものの、それを打ち破るほどの威力があった。

 一方ライは、自分の身ばかりではなく、リン全体の住民を魔法で助け、結果的に、ロゼの傷だけで、全員が無傷だった。

 ロゼは、自分も守ってくれたらよかったのにと思ったが、そんなに人にかまってもらうのも好きではないので、黙っていた。

 「なぜじゃ…………」シャルントは、さっきから頭をかきむしっていた。

 ロゼには、シャルントが、さらに小さくなったように見えた。

 その老人に、かける言葉をさがしたが、見つけることは出来なかった。

 「──────」突然、ライが、呪文を唱えはじめた。

 それはロゼが聞いたことのないものだった。

 ライは、目をつぶり、手を下にして、空に向かってブツブツと言っていた。

 まるで、宇宙人を呼び寄せるかのようだった。が、そのような怪しさは皆無だった。

 ロゼは、ライの『呪文の声』を始めて聞いた。

 それは、聞いているものの感覚をマヒさせるような、美しさがあった。

 『呪文の声』とは、普段の声とは違く、これから術をかけますよと、『術の精霊』に伝えるための声であった。普段の声でやると、まったく術はきかない。

 ロゼは知らなかったが、カーニャほどの魔法使いになると、普段の声が『呪文の声』にすることができ、わざわざ魔法を使って、声をかえる必要はないのだそうだ。

 ちなみに、ロゼの『呪文の声』は、普段の声とはまったく違い、地獄のそこから聞こえてくるような声であった。

 ライは、その美しい声で、五分ほど呪文を唱えた。

 そこにいたリンの住人は、その美しさに酔いしれ、リン全体が元の緑が生い茂る森に戻っていることに気がつかなかった。


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