奴隷
前回の「レーション」の後半部に、この話に続く部分を一部加筆しました。
「とりあえず飯でも食いながら話そう。」
そう白川は言うと、近くのハンバーガーチェーン店へ車を止めた。
深夜のハンバーガーチェーン店は人がまばらで静かだった。
二人はハンバーガーのセットを頼んで席に座った。
飯塚は食欲がないのか、じっとハンバーガーの乗ったトレーを眺めていた。一方の白川はもくもくとハンバーガーを食べていた。
「さっきの話で食欲がないのか?」
「いえ、そうではありません!」
飯塚はなぜか思わずむきになってハンバーガーを貪った。
やがて食べ終わった二人はコーヒーをすすりながら窓の外を見ていた。
そして不意に白川がぽつりと話し始める。
「俺が部長になる前、前任の部長にSPDO(※特殊能力開発機構)の全てを見せてもらったんだ。そこで、Sクラスの現状を目の当たりにしたんだ。」
その白川の目はどこか遠くを見つめていた。
「Sクラスなら、普通にSAT達に保護されてるじゃないですか?」
「諜報系のSクラスならな。ある程度の自由がある。問題は攻撃系のSクラスだ。」
白川はそう言ってコーヒーをすすって苦々しい顔をした。
「攻撃系のSクラスが暴走したらどうする・・・?」
急に白川は飯塚に質問した。
「攻撃しないようにするしか・・・ないですよね。」
「そうなんだよ。そこなんだ。Sクラスの攻撃系の連中が暴れたら、それこそ死屍累々だ。だから・・・。」
白川は言いよどみ、コーヒーを飲み干した。
「全員薬漬けにするか、何かの依存症にさせる。」
白川の言葉に飯塚は顔を青くして絶句した。憧れだったSクラスは、白川の話で脆くも崩れ去った。
「だから、SクラスのSはスレイブ、つまり奴隷のSだってことだ。お前がショックなのは分かるが、俺だって正直初めて見た時はショックだったよ。」
「そうなんですか・・・。」
飯塚は肩を落として、再びトレーを見つめた。
「まぁ俺達は接待部隊なんて呼ばれてるけど、Sクラスに比べりゃ人間らしい生活送れてるじゃないか。」
「そう・・・ですね。」
安堵と不平とも言えないため息を飯塚は吐いた。
それから二人はハンバーガーチェーン店を後にした。
「夢は夢のままのほうがよかったか?」
白川の言葉に飯塚は首を振った。
「いえ、そういうこと教えてもらえてよかったっス。」
そう言いながらも飯塚はSランクの憧れと恐怖を感じていた。
ー奴隷・・・。そんなの嫌に決まってる。だけど、俺、こんなんでいいのか?
飯塚は白川の横で無言で自問自答していた。
※SPDO(特殊能力開発機構)
特殊能力の計測、能力者の治療、能力の開発などを担う機関