第五章 三月十五日・信也の部屋・午前十時
十五分ほどして、文江は信也の部屋に着いた。
「もう見つかっちゃったの?」文江が口を開こうとすると、「シッ」と言って信也が文江の口を塞いだ。そのまま6畳一間の部屋の中に連れ込むと文江を座らせて、耳元でささやいた。
「盗聴されている可能性があるから、気をつけるんだ!」信也はテーブルの反対側に座って、小声で話し出した。「まあ、盗聴機はくまなく探したから大丈夫だとは思うけど、あまり大声で話すと遠方からの集音機や隣の部屋からの盗聴もありうるからな。必要以上の事は言わないこった。」
「こんなに早く見つかっちゃうとは思わなかったわね。」
「ああ。やっぱり車の中で処分しておくべきだったかな。」信也は少し沈みぎみだ。
「何であしがついちゃったの?」
「あいつをおぶってこの部屋に入る所をみられていたらしい。」
「で、そのこと認めたの?」
「いや、しらを切りとおしたさ。」
「でも、なんとかしないと…」
「オレもそれを考えていた所だ。もうすぐ残りの二人も来る事になっている。」
「子供の事はどうするのよ?」
「それなんだが…」
信也はいっそう声を潜めて、文江に何かを説明し始めた。やがて、のこりの二人がやってきて、信也は事件の口裏合せの確認を始めた。
「一応分かりやすいように紙に書いて説明するな。あまり大きい声は出さない方がいいから。」
『午後二時 この部屋を文江・伸行・広志の三人で出発。午後二時半 駐車場で、事前に物色済みの白いカローラを盗む。
文江・広志の二人でガードしていたので、守衛には見つからず。
午後三時 高野文昭誘拐実行。
文江が盗んだ車を運転し、伸行がガキを引っ張り込む。
午後三時半 三人がガキを連れて信也の部屋に戻る。
このとき、誰かにみられたらしい。
ガキの搬送中に伸也の部屋から携帯電話で親父の文孝に電話、十億円を要求。
携帯電話は足がつく可能性が在るので捨てる。
午後七時 マージャンを始める。
午前十二時半伸行・広志の二人で部屋を出る。
午前一時二人は公園に着く。
伸行は眠らせたガキを公衆便所に閉じ込めて見張り。
広志は指定どうりにベンチに置かれた十億円入りのバッグをゲット。
午前一時半 二人が部屋に戻る。
この間、アリバイ工作のために、テレビの音を大きくし、マージャンの音も派手にする。
午前一時すぎ、隣の文野が案の定文句を言いに来る。
あらかじめ録音しておいた広志の声を流す。』
伸也は、犯行の経過を整理して紙に書くと、他の三人に回した。三人ともじっくりと眺めて頭に入れると、伸也の手に戻ってきた。
伸也はライターを取り出すと、灰皿の上で紙に火をつけ、三人を睨み付けるように言った。
「いいか、俺たち四人は、午後二時から翌日の朝までずーっとうちに居た。午後七時からマージャンを始めたが、午前一時に文野が文句を言いに来たので、やめた。途中で買出しに出たのは、文江だけだ。いいな!」