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第四章 三月十五日・文江の部屋・午前八時

トントン。


扉を叩く音で、文江は目が覚めた。

「どなたですか~」寝起きのままの化粧っ気のない顔・はだけたパジャマのまんまでドアを開けた。いかつい顔の背広を着た三十前後の男が立っていた。


「山口文江さんですね。」文江は、寝起きの頭のまんまですっとぼけた顔をしていた。

「朝早くからすみません。園田信也さんをご存知ですね。」文江の頭がだんだんと目覚めてきた。

「はあっ。あんただれ?」

「失礼しました。こういうものです。」男は、黒い手帳を目の前にかざした。

「園田信也さんをご存知ですね。」男の口調が少し強まった。文江は混乱していた。

(いやーん、なんでこんなに早くきちゃうのー)

男が一歩部屋の中に踏み込もうとしてきた。


「ちょっと待ってよー」文江が男の行く手をふさいだ。

「園田信也さんをご存知ですね。」男が再度たずねた。

「答えなきゃなんないのー?」男は黙っていたが有無を言わさない顔つきだった。

「知ってるわよ。」

「失礼ですが、どういうご関係ですか?」言葉は丁寧だが男の目には威圧感が満ちあふれていた。

「ただの友達よ」

「三月十一日の午後三時ころは、何をされていましたか?」

(きたなっ)と文江は思った。

「なんなの!」

「三月十一日の誘拐事件のことはご存知ですね。」男は少しうんざりしたような顔をして言った。

「あー、何かそんなのありましたねー」文江は、どういう顔をしたらいいのかを戸惑いながら、努めて平静な表情を装っていた。

「三月十一日の午後三時ころは、何をされていましたか?」男はまた繰り返した。

そろそろ気がついた振りをしなければならない。

「えっ、私疑われているんですか?」

「いや、そういう訳じゃありませんが…」

「じゃあなぜそんなことを聞くの?」男の瞳に威圧感が戻ってきた。しばしの沈黙。

「信也の部屋にいました。」

「何をしてましたか?」

「何って、別にお話したりテレビを見たり、あっ夕方からはマージャンしてたわね。」

「その間一歩も部屋から出なかったんですか?」

「何回か買い出しには出たけど」

「どこに行きましたか?」

「近所のローソンよ。」

「それ以外の店には。」

「行ってないわねー。」

「ローソンに買出しに出たのは何時頃かわかりますか?」

「そんなのいちいち覚えてないわよ!」

「わかりました。早朝から失礼しました。」


男は慇懃無礼に礼をすると帰って行った。高鳴る鼓動を静めるために、文江は冷蔵庫からスポーツドリンクのペットボトルを取り出すと一気にあおってソファに深々と腰をおろした。

(警察も意外と早く見っけたもんね。ここは以前信也が言ってたとおり、すぐ動きをみせちゃいけないのよね。)

文江はテーブルの上に置いてある三日前の新聞を取りあげた。


『六歳児誘拐。身の代金十億円略取される。三月十一日午後三時ころ、東京都墨田区の公園側で、高野文昭ちゃん(六才)が白い乗用車に乗った三人組と思われる男に誘拐された。警察には届けが出ておらず、父親の文孝さんは、犯人グループの連絡通り翌日午前一時に同公園で犯人に十億円の入ったバッグを略取された。文昭ちゃんは、公園内のトイレに縛られた状態で閉じ込められているところを無事保護された。文昭ちゃんには特に外傷はなく、保護された時にはエタノールのようなもので眠らされていたもようだ。父親の文孝さんの通報により警察は直ちに犯人グループの捜査に入ったが、目撃情報が少なく、当局では広く情報の提供をお願いしています。また、同日二時半ころ、誘拐現場から2キロほど離れた駐車場から、白いカローラが盗まれたとの報告が入っており、事件との関わりを調査している。父親の文孝さんは、「子供の安全のためを第一に考えて警察には通報しなかった。申し訳ないが犯人逮捕に全力をつくしてほしい。」と語っている。』


手がかりの一端として、文昭ちゃんが車に連れ込まれた時に見たという白いセーターの男の似顔絵と、車が盗まれた駐車場の守衛が目撃した不審な男女の似顔絵が載せられていた。

(この似顔絵、全然似てないから、大丈夫よね。)文江は新聞をもう一度読み直してから、ゆっくりとコーヒーを入れた。

(もう少し時間をつぶしてから、打ち合せに行かなくっちゃ。)普段はあまり化粧をしない文江だが、何故か今日は念入りに化粧をしてから、白い薄手のコートを羽織って出かけた。


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