第十五章 三月十八日・伸行の部屋・午前十一時
「警察の者ですが。」
「何か用ですか。」
「園田信也の件でちょっとお伺いしたい事がありまして。」
「この間話したじゃないですか。」
「やつらが、パスポートを申請していることをご存知ですか?」
「何だって。」三上伸行は、ようやくドアを開けた。(しまった)と思った時は遅かった。有賀が体を半分押し入れてきた。
「やっぱり知らなかったか。」
「俺には関係ないよ。」
「あの二人に子供がいたことは知っているか?」
「ああ、なんかそんなことを聞いた事もあるような気がするな。」
「園田の部屋で子供をみたことはないのか?」
「ないよ。」
「それはおかしいな。」
「いや、俺達は単なる遊び友達だかんな。あんんまり詳しい事は知らんよ。」
「園田の部屋に出入りするようになったのはいつ頃からだ?」
「さあ、半年くらい前かな。」
「園田に金を貸した事はないか?」
「ないよ。あいつその辺はあんまり信用できねーからな。何故そんな事を聞くんだ?」
「いや、あいつが車を買う金を持ってたとは思えないんでね。」
「文江からでも分捕ったんじゃないの。」
「あいつらそういう仲なのか?」
「だから知らねーって。」
「じゃ、邪魔したな。あっ、ついでに教えといてやるが、高野さんの誘拐事件で支払った金は十億円と報道されているが、本当は十五億円だったんだ。」そういい捨てると有賀はサビついてザラザラになった階段を降りていった。
(待てよ、そういえば金を分けたのはあいつだよな。要求の電話もあいつがしたはずだ。おれは、ガキを連れ込んだのと金を受け取りに行った時見張ってただけだもんな。それなのにあいつは四当分にすると言っていた。まあそれだから危険な企てに乗ったんだが。)そう思いはじめると奇妙な事がいろいろと思い当たってきた。三上は天井裏から、茶色のカバンを取り出すと、一千万円の札束を数えはじめた。「二十三・二十四・二十五っと。きっちり二億五千万だ。」疑いだせばきりはなかった。もともと、年下のくせに四人を取り仕切っている園田によい気持ちを抱いていなかった事もあって、疑心暗鬼はつのっていった。(あいつならやりかねない)三上はバッグをもとあった場所のしまうと、部屋を出た。