陽が昇る朝に
夜が長かった日ほど、朝の光はまぶしい。
昨日は、うまくいかなかった。
仕事のことだったのか。
それとも、心のことだったのかーー
思い返そうとしても、胸の奥が少し重くなるだけで、うまく言葉にできない。
帰宅したのは遅い時間だった。
雨も降っていた。
そのままソファで眠ってしまい、目が覚めたのは、まだ空が白くなり始めたばかりの頃だった。
カーテンの隙間から、薄い朝の光が差し込んでいる。
なんとなく外の空気を吸いたくなって、私はコートを羽織り、家を出た。
雨はもう止んでいた。
道路にはまだ水たまりが残っていて、街灯の光をぼんやり映している。
空を見上げると、雲の切れ間から、ゆっくりと朝が広がっていくところだった。
夜が終わる瞬間の空は、いつも少しだけやさしい。
昨日は、立ち止まってしまった気がする。
うまく言えなかったこと。
言わなきゃいけなかったこと。
後悔みたいなものが、胸の奥で静かに揺れていた。
でも――。
空は、ちゃんと明るくなっていく。
遠くの建物の向こうから、ゆっくりと陽が昇ってきた。
その光が、濡れた道路に反射して、街が少しずつ色を取り戻していく。
そのとき、後ろから声が聞こえた。
「早いですね」
振り向くと、同じマンションに住んでいるらしい男性が、紙カップを二つ持って立っていた。
「よかったら」
差し出されたカップから、コーヒーの香りがふわりと漂う。
「朝の散歩、たまにするんです」
少しだけ照れたように笑う。
思わず、小さく笑ってしまった。
「ありがとうございます」
温かいカップを受け取ると、冷えていた指先がじんわりと温まる。
コーヒーをひと口飲むと、胸の奥に残っていた重さが、少しだけ軽くなった気がした。
「昨日、雨でしたよね」
彼が空を見上げる。
「でも、ほら」
指差した先で、太陽が雲の間から顔を出していた。
「ちゃんと晴れました」
その言葉に、私はもう一度空を見上げる。
雨が降っても、
夜が長くても、
ちゃんと朝は来る。
昨日より、ほんの少しだけ前を向いて。
私は、静かに歩き出した。
今日はきっと――
何かが、はじまる日。
陽が昇る朝に。




