ブタを食べただけなのに、村が大騒ぎ
今日は、森が気持ちよさそうだった。
空は澄んでいて、風も冷たすぎない。
木々の間を抜ける空気が、ひんやりして心地いい。
森の匂いも、悪くない。
たまには、森もいい。
そう思って、ドラゴンは少し空腹を抱えながら、のんびりと森の中を歩いていた。
――バギッ。
踏みしめた土の感触。
葉が擦れる音。
「……うん、腹減ったな」
翼を少し広げ、
木々の間を滑るように進む。
すると。
森の奥で、大きなブタの群れが見えた。
「……お」
丸くて、数が多くて、
しかも、よく動く。
「今日は、これだな」
ぱくっ。
一匹捕まえて、口に入れる。
「……うーん、美味しいな」
少し硬いが、噛めば問題ない。
ブタたちは一斉に、
「ブヒブヒ!」と鳴きながら逃げ出した。
だが、ドラゴンは気にしない。
のんびりと歩きながら、
次々と捕まえて食べていく。
――ごりっ。
「……?」
たまに、口の中で
硬いものに当たる。
ぺっと吐き出すと、
小さく光る、よく分からないものだった。
「……まあ、あとで拾えばいいか」
光っていて、ちょっと綺麗だ。
今は、それよりお腹だ。
――――
その頃。
命からがら逃げ延びたブタの群れは、
一斉に村の方へ雪崩れ込んでいた。
「ブヒィィ!!」
「ブヒブヒ!!」
「な、なんだ!?」
「ブタの群れだ!?」
「いや、違う……あれはオークだ!」
村人と、たまたま滞在していた冒険者たちは大混乱。
「オークの襲撃だ!」
「防衛だ、防衛!」
「家畜のブタを守れ!」
「どっちのブタだ!?」
市場を、路地を、
ブヒブヒ鳴きながら走り回るオークたち。
しかし、オークたちは襲ってこない。
ただ、必死に逃げているだけだった。
「……あれ?」
「なんか、弱くないか?」
冒険者が戸惑いながらも応戦するうち、
群れは散り散りになり、森へと逃げていった。
――――
その間も。
森の奥では、ドラゴンが平和そのものだった。
最後の一匹を飲み込み、
満足そうに息を吐く。
「ふぅ……ごちそうさま」
お腹はいっぱい。
気分もいい。
翼を広げ、
そのまま空へ舞い上がった。
「今日は……いい晩ご飯日和だったな」
――――
数時間後。
村の混乱は、ようやく落ち着いた。
「なんだったんだ、あれ……」
「オークの群れ、だよな?」
「でも、全然手ごたえが……」
冒険者も村人も、首を傾げるばかりだった。
――――
後日。
村からの報告を受けた軍の記録には、
こんな一文が残された。
「オークの群れから村を救った白い影を見た、という証言あり」
「……雪崩、海域、そして今度は村か」
報告官は頭を抱える。
「守護者なのか、災厄なのか……
いや、どちらにせよ、分類不能だな」
結局、その件も
「原因不明」として処理された。
――――
一方その頃。
ドラゴンは空の上で、
満足そうに尾を揺らしていた。
「さて……次は、どこ行こうかな」




