第三話 私の本当の物語が幕を上げますわ
王城、玉座の間。
かつての煌びやかさは見る影もない。薄暗く、すでに燃料も尽きて冷え切っている。
国王と王妃、そしてフリードリヒは破れた服を身に纏い、やつれ果てていた。国外追放されたはずの私を呼び戻さなければならないほど、追い詰められているというわけだ。
そこへ、私が兵士を護衛につけ、最高級のドレスを纏って訪ねた。
「……ユーフェミア」
国王が力なく私を見る。
もはや怒る気力すらないようだ。
「お久しぶりです、陛下。いえ、今は『債務者代表』とお呼びすべきでしょうか?」
私は分厚い羊皮紙の束をテーブルに置いた。
「これは?」
「『王国救済、及び資産譲渡契約書』ですわ。現在、王国の借金は天文学的な数字になっています。返済は不可能。本来なら国ごと競売にかけるところですが、慈悲深い私が債務を肩代わりして差し上げようという提案ですわ」
フリードリヒが顔を上げる。
「た、助けてくれるのか……? やはり、まだ私への愛があったのだな?」
「勘違いしないでくださいませ。これはただのビジネスですわ」
私は冷たく切り捨てた。
「ビジネスだと……」
「ええ、もちろんですわ。ただし条件があります」
私は指を一本ずつ立て、条件を提示する。
1. 王族の全権限の剥奪。今後、政治的決定権はすべて私が派遣する『管財人』が持つ。
2. 王城の明け渡し。ここは今後、クラウストラ大商会の『本店』兼『物流倉庫』として使用する。
3. 旧王族の処遇。あなた方は王籍を剥奪され、一般市民となる。ただし莫大な借金の返済義務は残るため、私が経営する鉱山で労働に従事してもらう。
「こ、鉱山だと……!? 私に肉体労働をしろと言うのか!?」
フリードリヒが叫んだ。
「ご安心ください。労働基準法は守りますわ。私が新しく制定する効率最優先の法律ですが」
国王が震える手で契約書を掴んだ。
「……拒否すれば?」
「簡単なことですわ。私は隣国へ戻り、物流封鎖を続けます。あと一週間もすれば餓死者が出るでしょう。民衆の怒りは頂点に達しています。ギロチンが待っているか、私の鉱山で働くか。お好きな方をお選びくださいませ」
究極の二択。いや、最初から選択肢などない。
彼らは私の掌の上で踊らされていただけなのだ。知性という名の檻の中で。
国王は震える手でサインをした。
◇
三か月後。
かつての『王国』は地図から消滅した。
現在は『クラウストラ通商連合・特別経済区』と呼ばれている。
徹底的な合理化と、私の完璧な計画経済により、この地はかつてない繁栄を謳歌していた。
物流は整備され、餓死者はゼロ。民衆は以前よりも豊かな生活を送っている。
彼らにとって支配者が『王』だろうが、『公爵令嬢』だろうが関係ない。パンと仕事を与えてくれる者が正義なのだ。
私は元王城、現在はクラウストラ大商会の本店となった城館の最上階、かつて玉座があった場所にあるテーブルで決裁書類に公爵家の印章を押していた。
「ユーフェミア様、第三採掘班より報告です。新人労働者のフリードリヒが、ノルマ未達で泣き言を言っていると」
「そのような者は減給処分になさい。それと夕食のパンを半分にカット。働かざる者食うべからず、ですわ」
「承知いたしました」
かつて王太子と呼ばれたその名は、帳簿の片隅に打ち込まれた『労働者番号』に置き換わっている。
「王太子という身分を盾に威張り散らしていた男に、今はツルハシを握らせているだけのことですし」
私は窓の外を見下ろす。
美しく整備された街並み。
整然と動く物流馬車。
すべてが私の計算通りに動く巨大な箱庭のような国。
「限界までレベルが上がると、国一つでも、こんなに簡単に動かせるのね」
剣や魔法といった武力で相手を倒すよりも、ずっと残酷で、ずっと建設的な復讐が行えるのは、絶対的な知力。
私は満足げに微笑み、次の事業計画書である、隣国の経済併合プランを広げた。
「どうせなら、大陸すべてを蹂躙することにしましょうか」
国外追放された公爵令嬢の本当の物語が幕を開ける。
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