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【完結】【連載版】断罪されたらレベルが上がったので、王国を蹂躙することにしました  作者: 上下サユウ


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第二十八話 『飢えの街』を救うのは悪徳会計と新帳簿ですわ

本日、17時に最終話を投稿します。


 数日後、元賭場の建物は看板だけが掛け替えられていた。


 【北方流通組合・仮本部(旧賭場)】

 ・表の顔:商人ギルド・荷車組合の合同事務所

 ・裏の素性:元マフィアの本拠地

 ・主な設備:壊れかけの帳場机/年季の入った算盤/怪しい金庫

 ・評価:会計改革の火種


「……なんで、あの姉ちゃんまでここにいるんだ」


 元マフィア会計係らしき男が、眉間に皺を寄せて私を見た。

 その周りには、帳簿を抱えた荒くれ者たちが数人。算盤を指で弾きながら、露骨に不満そうな顔。


 【元マフィア会計係】

 ・旧仕事:裏帳簿/資金洗浄/借金の水増し

 ・新仕事候補:在庫管理/損益計算/税務申告

 ・評価:悪知恵を正しい場所に置き直すだけで良い素材


「本日から、ここを『ナザール北方流通組合』として再編いたしますわ」


 私はさらりと宣言し、机の上に新しい帳簿を置いた。


「裏帳簿は、こちらですわね?」


 ボロボロの革表紙の帳簿を一冊つまみ上げる。

 中には、誰が見ても分からないように書かれた符丁と、利率と、取り立て先の名前。


「こいつは、大事な仕事なんだよ」


 会計係が、思わず帳簿を取り返そうと手を伸ばしてきた。


「大事なのは結構ですわ。ですが――」


 私はその横に、白紙の新帳簿を開いた。


「こちらには、『この街で誰がどれだけ働き、誰がどれだけ食べているか』を書いていただきます。誰から、どれだけ搾り取り、どれだけ泣かせたかではなく、ですわ」


 会計係の男が鼻で笑う。


「綺麗事を。そんなもん書いたところで何の得にもならねえ」

「いえ、得になりますわ」


 私はペン先で古い帳簿の一行をなぞる。


「例えばここ、『借金を返せずに家を差し押さえた一家』。この一家が払えなかった分はどこから補填されましたの?」

「……そりゃ、別の奴から取るしかねえだろ」

「ええ、つまり、ここで泣いた一家の分だけ、別の誰かの未来も削られているということですわ。その結果として、この街全体の購買力が落ち、『昔は取れたはずの金』が取れなくなる。そうして、あなた方自身の首も締まる」


 男は言葉に詰まり、頭上の文字がわずかに揺れた。


 【元マフィア会計係】

 ・理解度:「なんとなく嫌な予感」レベルで納得

 ・反発:口だけ

 ・評価:数字の話にすると案外素直


「ですから、これからあなたに記録していただくのは『誰がどれだけ損をしたか』ではなく、『誰がどれだけ街を回しているか』ですわ。そう記録していけば、そのうち気付きます。『潰した方が得な相手』と、『生かしておいた方がずっと稼げる相手』の違いに」

「……あんた、本当に悪魔みてえだな」

「人を生かすか殺すかも、『どちらが儲かるか』で決めるのか?」

「もちろんですわ。損な商売はしませんもの」


 私は新しい帳簿を押し付けるようにして、男に渡した。


「さあ、本日の講義はここまで。残りはご自身で埋めてごらんなさいな。明日の朝までに、今までの裏帳簿をこの形式に写し替えてきてくださいます?」

「一晩だと……?」

「ええ、一晩ですわ。できなければ、その帳簿ごと、あなた方の過去の商売もまとめて焼却処分ですわ。どちらがマシかは、ご自身で計算なさい」


 男は深く溜息を吐くと、観念したように椅子に腰を下ろした。


「……やるよ。やりゃあいいんだろ。書き方は教えやがれ」

「最初の一冊分ぐらいは、お手伝いいたしますわ」


 私は隣に腰かけ、ペンを取る。


「王弟殿下、帳簿のお勉強の時間ですわ。ここから先は、あなたにも付いてきていただきます」

「……承知しました」


 エリアスは苦笑いを浮かべながらも、新しい帳簿を一冊手に取った。


 ◇


 北方交易都市ナザールでの賭けから、さらに三十日。


 【ナザール・三十日後】

 ・穀物価格:帝都の1.3倍前後で安定

 ・闇市依存度:高 → 中

 ・隠匿在庫:八割以上が表の市場に逆流

 ・評価:『飢えの街』から『足りないが何とか回る街』へ格上げ



「……本気でやり切ってしまわれるとは」


 集計結果を見たエリアスが、心底からの溜息を漏らした。


「グレタ殿もボルグ殿も、結局、あなたの仕組みの中で生きることを選びました。街道の『保護料』も規定額内に収まり、裏帳簿も表に繋ぎ直されました」

「良い選択ですわ。溜め込んで腐らせるより、流して太る方が長期的に見ればお得ですもの。ようやく、ここでも理解していただけましたわね」


 【北方物流ネットワーク】

 ・ナザール:帝国北方物流の正式窓口として契約締結後、北方流通組合に再編(旧マフィアを半分合法化)

 ・街道:帝都・南部港と同一規格の通行証と保険制度を導入

 ・評価:帝都を中心とした『輪』に、北方の『枝』が接続完了



「これで、大陸の半分は血が回るようになりましたわね」


 ◇


 そこから先は、日々の積み重ねに過ぎなかった。

 帝都特別財政監査局に、北方担当の新しい部署が増設される。

 ナザールの元マフィア会計係たちが、ミリアに叩き込まれた帳簿の書き方で、真面目に決算報告書を送ってくるようになった。


 【元マフィア会計係】

 ・旧仕事:裏帳簿/資金洗浄/借金の水増し

 ・新仕事:在庫管理/損益計算/税務申告

 ・評価:悪知恵を正しい場所に置き直しただけ



「こうして並べてみますと不思議なものですね」


 ある日、エリアスが北方から届いた帳簿と、南部港からの報告書を見比べて呟いた。


「手口は違っても、やっていることはどこも同じだったということですわ。溜め込み、誤魔化し、先送りにして誰かが泣く。そこを少しずつ数字の上で組み替えただけですもの」

「その『少しずつ』の積み重ねが、気が付けば大陸半分に広がっているのですから、恐ろしいことです」

「誉め言葉として受け取っておきますわ」

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