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【完結】【連載版】断罪されたらレベルが上がったので、王国を蹂躙することにしました  作者: 上下サユウ


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第十九話 帝都再建構造改革案ですわ

「さあ、たっぷりと味わってくださいませ。残すことは許しませんわよ?」


 沈黙を破ったのは、紙が擦れ合う微かな音だった。

 ヴォルクが震える指で一枚目のページをめくる。

 隣の高官が覗き込み、さらに隣の者が色を失っていく様子を、私は眺めている。


 【構造改革案・第一章】

 ・内容:無駄な特権と支出の即時凍結

 ・対象:摂政評議会、並びに、その親族

 ・推奨:反発が予想されるため、外圧の名目で実行せよ


「ば、馬鹿な……こんなもの通るはずが……」


 ヴォルクがかすれた声を漏らした。


「おかしなところがございましたら、どうぞ遠慮なくご指摘くださいませ」


 私はにっこりと微笑んだ。


「数字で反論してくださるなら、喜んでお相手いたしますわ」

「数字だと……?」

「ええ、例えば――」


 私は視界に浮かぶ文字を指先でなぞる。


 【摂政評議会議長ヴォルク・個人資産】

 ・公表資産:中規模領地×1、都市邸宅×3

 ・実際の保有資産:公表資産と無登録倉庫、金塊、匿名口座多数

 ・推定総額:公表分の七倍

 ・評価:取り立てがいのある優良物件


「あなたの公表資産と実際の保有資産の差額。およそ七倍ほどの乖離がありますわね。これはどのような名称の『権利』として説明なさるおつもりかしら?」

「っ……!」


 ヴォルクの顔から、さっと血の気が引いた。


「な、何の根拠があって、そのような戯言(ざれごと)を口にする!」

「戯言ではございませんわ、議長閣下。根拠なら沿岸部の倉庫の所有権記録や、港湾を通った金の流れ、徴税記録の穴からいくらでも追えますわ。王国で散々やりましたもの。この帝都でも同じことですわ。ちなみに、その七倍に及ぶ差額をすべて帝都再建の原資に充てた場合、帝都の飢餓状態を急速に改善し、現行の予測される暴動リスクはかなり低下いたします」


 【試算結果】

 ・ヴォルク資産徴収:全額

 ・帝都民一人あたり臨時配給換算:パン一日三個を三十日分

 ・評価:短期的な暴発は防げるが、根本治療には資産不足


「も、もう十分だ!」


 ヴォルクが叫び、書類を卓上に叩きつけた。


「これは内政干渉だ! いかに債権を買い取ったとて、帝都の政治に口を出すことは――」

「いいえ、議長閣下」


 私は静かに首を振る。


「これは『内政』ではありませんわ。単なる『債務整理』ですもの」

「……債務整理だと?」

「ええ、あなた方は支払えない借金を積み上げました。支払えないのなら、別の形で返していただくしかありませんわよね?」


 私はミリアが広げた書類束から、別の一枚を指で弾く。


「ここに帝都及び、その周辺地域に関する『徴税権の一部譲渡契約案』がございます。簡単に申し上げれば、あなた方はしばらくの間、『通商連合の管理下で暮らす権利』をお買い上げになる、ということですわ」


 広間のあちこちで、椅子がきしむ音がした。高官たちが一斉に身を乗り出し、口々に喚き始める。


「何を馬鹿なことを抜かすか! 帝都を外国に売り渡せと言うのか!」

「我らは帝国の要人だぞ! そんな屈辱を受け入れられるか!」

「そもそも、そのような契約は認められない! 我らには拒否権がある!」


 好き勝手な言葉が飛び交う中、ただ一人、エリアスだけが黙って私を見ていた。その瞳に宿るのは、後ろめたさと、わずかな期待。


(分かっていますわ、エリアス殿。あなたは本来、こういった膿を自国の手で出し切るべきだと考えているのでしょう。ですが、もう時間がありませんの)


 【レグナ帝国・猶予時間】

 ・帝都の穀物備蓄:あと二十七日

 ・地方からの輸送:治安悪化により目処立たず

 ・暴動発生予測:十日以内に大規模化/その起点が今夜

 ・評価:自力更生ルート消滅済み



「拒否権ですか? もちろん、ございますわ。契約は双方の合意がなければ成立いたしませんもの」


 ヴォルクたちの表情に、かすかな安堵が浮かぶ。


「ですが、拒否なさるなら、この迎賓館にかかっている債権を予定通り一括でお支払いいただきますわ。今すぐに」

「……なっ!」

「緊急予備費の流用分、未払いの食材代金、維持管理費。合計で金貨一千二百枚ほど。いえ、利息もございましたわね。さすがに、これだけの信用を頂戴しておいて無利息というわけには参りませんもの」


 【現在の帝都財政】

 ・国庫残高:金貨二百枚(帳簿上は、千枚)

 ・支払期限:一週間以内の債務が山積み

 ・評価:既に詰んでいる


「い、今すぐにというのは手元に……」

「それも承知しておりますわ。ですからこそ、こうして『別の支払い方法』をご提案しているのです」


 私はゆっくりと視線を巡らせる。


「あなた方は帝都を守るための権限をお持ちです。徴税権を握り、支出を決める立場にある。その代わり、国庫が足りなければ、あなた方の責任となる。権限は欲しい。ですが、責任は取りたくない。それは少々虫が良すぎますわね」


 高官たちに怒りと恐怖と屈辱が混ざった表情が広がっていく。ヴォルクは唇を噛み締め、血が滲む。


 その時、静かな声が広間に落ちる。


「……条件を聞かせていただけますか?」


 エリアスだ。

 エリアスはゆっくりと立ち上がり、私とヴォルクの間に視線を通す。


「帝都を『通商連合の管理下で暮らす権利』とやらで救うとすれば、あなたは何を求めるのです?」


 【王弟エリアス】

 ・覚悟:上昇

 ・立場:板挟み(民と特権階級の中間)

 ・評価:交渉を進める窓口として最適


「そうですわね」


 私は、あらかじめ用意していた答えを、あくまで今思いついたかのような顔で口にする。


「まずは帝都の『収入』と『支出』の流れを、すべて通商連合に開示していただきます。税収、兵站費、宮廷費、すべてですわ」

「なっ!?」

「それから徴税の窓口を一部、第一特別経済区と同じ仕組みに差し替えます。民から直接徴収し、帝都の役人を経由させない仕組みですわ」

「そんなものを許せるか!」

「許す、許さないの問題ではありませんわ」


 私はきっぱりと言い切る。


「今までのやり方を続けるなら、十日以内に帝都は炎上します。比喩ではなく物理的にですわ。以前、王国で同じグラフを見ましたもの」


 【過去事例:旧王都】

 ・暴動発生:一日目で商店街炎上

 ・二日目:貴族地区襲撃

 ・三日目:王城包囲

 ・評価:再現したくない愉快な見本市



 エリアスが目を閉じ、短く息を吐いた。


「その代わり帝都の民には最低限、三ヶ月分の食糧配給と飢餓を理由とする徴発の停止を約束いたします。治安維持のために必要な兵の給与も、こちらで一部、肩代わりいたしましょう」

「も、もし、それが本当なのであれば暴動は避けられると……?」

「ええ、少なくとも、今すぐ燃え上がることは防げますわ」


 【提案:帝都再建包括契約(素案)】

 ・通商連合:帝都の徴税権一部と監査権を獲得

 ・レグナ帝国:債務返済猶予、配給資金、治安維持費の支援

 ・高官たち:特権の多くを失うが、命と椅子の一部は残る

 ・評価:妥協点としては上出来


「……要するに」


 エリアスが目を開き、ヴォルクたちを見渡した。


「我々は自らの『好き勝手に使える金』を差し出す代わりに、帝都を焼失させずに済む。そういう話ということですね?」

「端的に申し上げればそうですわ。もちろん細かな条件はこれから詰めていく必要がございますが、今夜、あなた方がこの『料理』を食べ切れるかどうかで、明日の帝都の運命が決まります」


 再びの沈黙。先ほどのような怒声も、見栄も残っていない。あるのはただ、現実を突き付けられた者のどうしようもない戸惑いだ。


(いい傾向ですわね)


 私は内心で満足げに頷く。

 怒っているうちは、まだ余裕がある。黙り込むということは、逃げ場がなくなった証拠だ。


 やがて、ヴォルクが椅子の背にもたれかかり、天井を仰いだ。


「もし、これを飲めば我らの権限は大きく削られるのだな……」

「ええ」

「だが、飲まねば帝都が滅ぶ」

「その通りですわ」

「……どちらにせよ、我らに残された選択肢など最初からなかったというわけか」

「いいえ、『どのような形で責任を取るか』という選択肢だけは残っておりますわ」


 ヴォルクが私を見る。

 その瞳からは先ほどまでの尊大さが削り取られていた。


「……構造改革案とやらを、ひとまず目を通させてもらおう」


 搾り出すような声でそう言うと、ヴォルクは書類の一枚目を両手で持ち直した。


 【戦況報告・更新】

 ・ヴォルクの精神状態:混乱 → 受容段階へ

 ・摂政評議会の空気:反発 → 諦め混じりの現実逃避

 ・制圧率:80% → 90%


「よろしいですわ。では、本来の料理はすべて下げさせていただきますわね。今夜、あなた方には、この『改革案』を最初の一文字から最後の一点に至るまで、胃に落とし込んでいただきます。ミリア、各自に写しを。抜け道になりそうな文言には印を入れて差し上げて」

「はい!」


 迎賓館の大広間は、もはや宴の場ではない。

 山積みになった書類と青ざめた高官たち。ワインの代わりに配られるのは冷水とインク壺だ。


 私は書類にかじりつき始めた彼らを見下ろしながら、静かに微笑む。


「議長閣下、どうか誤解なさらないで。これは、あなた方からすべてを奪うための書類ではありません。『帝都がまだ生きているうちに、切り取れる部分だけを切り取って温存する』ための処置ですわ」


 ガラス細工のような帝都。触れれば砕け散る、その繊細な器を、どこから削り、どこを残すか。

 それを決めるのは、もはや彼らではない。


(さあ、ここからが本当の蹂躙の始まりですわよ)

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