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【完結】【連載版】断罪されたらレベルが上がったので、王国を蹂躙することにしました  作者: 上下サユウ


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第十七話 崩壊しかけの村ですわ

 帝都へ向かう街道は、かつて『交易の大動脈』と謳われていたそうだが、私の目には血栓が詰まった血管のようにしか映らなかった。


 【帝都街道・現状】

 ・整備状況:部分的に崩壊(補修の痕跡なし)

 ・往来:荷車よりも、徒歩の旅人と難民が圧倒的多数

 ・治安:日中は静穏、夜間は無法地帯化

 ・評価:機能不全


 揺れる馬車の窓から、私はその惨状を淡々とデータとして処理していた。


「ユーフェミア様、村が見えます」


 ミリアが小さく声を上げた。

 街道から外れた荒野に、小さな村が見えた。崩れかけた柵、干からびてひび割れた畑、人の気配は希薄だ。

 エリアスが眉をひそめ、何かを察したように言う。


「……寄りましょう」


 エリアスの静かな言葉に護衛隊長が頷き、村へと向かった。


 ◇


 村の入り口で馬車を降りた私は、周囲をデータとして把握するために見渡した。


 【辺境の村】

 ・人口:一年で40%減少

 ・穀物備蓄:完全枯渇

 ・契約状況:クラウストラ通商連合との前渡し契約・未締結

 ・評価:最後までプライドと心中することを選んだ村


(村の状況は最悪ですわね)


 村人からの歓迎の声など、もちろんない。私たちをじっとりとした視線が私たちを刺した。

 その時、重い足取りで杖にすがる村長と思しき老人が近付いて来た。


「余所者が何しに来よった?」


 村長は、こちらから名乗りを上げるのを待たず、杖を地面に強く打ち付けた。私たちが纏う余所行きの服と馬車の豪華さを値踏みするように睨みつけ、警戒心を表していた。


「初めまして。クラウストラ通商連合代表、ユーフェミア・クラウストラです」


 私が名乗ると、村長は濁った目でじろりとこちらを睨みつけた。


「……帝国の役人ではないの。だが噂は聞こえておる。港を勝手にいじくり回し、足元を見て買い叩こうとする悪魔の商人じゃと」

「随分と簡潔で分かりやすい要約ですわね。その話は事実が半分と誰かの恐怖が半分といったところでしょうが」

「帰っとくれ。わしらは、お主らと契約を結ぶことを拒んだ村じゃ。人が生きるのに必要なのは、土地と、働ける腕と、家族じゃ。商人の契約書やら借用書やらの鎖ではない」

「立派な台詞ですわね。感動しましたわ」


 私は冷ややかに目を細め、村の深層データを呼び出す。


 ・子どもの数:極小

 ・家畜:骨と皮のみ

 ・先月の死者:4名(老人2名/幼児2名)


 胸の奥で、冷たい怒りのようなものが静かに脈を打った。


「その『土地と腕と家族』だけで、後何日生き延びられると見積もっておられますの?」

「……っ」


 村長は言葉に詰まり、視線を泳がせると、エリアスが痛ましげに口を開く。


「村長、この村には以前、私からも使いを出しました。前渡し契約の話を――」

「断ったのはわしじゃ! 帝都の役人ですら信用ならんこのご時世に見知らぬ商会の連中など、尚のこと信用できん。わしは村を守るためにそう判断しただけじゃ!」

「その結果が現状ですわ」


 私は感情を交えずに事実だけを突きつけた。


「何も責めるつもりはありませんわ。判断には常にリスクが伴いますもの。ただ……」


 私はこちらを遠巻きに見ている子どもたちを見る。腕も足も枯れ枝のように細い身体。


「リスクのツケを払わされているのは、誰かぐらいは直視なさいな」


 村長の肩が、びくりと震えた。


 【この村に必要なもの】

 ・即時の食料

 ・来年の種

 ・もう少しマシな判断をさせるための材料



 私は小さく息を吐き、提示すべきカードを切る。


「一つだけ提案をしますわ」

「……聞くだけは聞こう」

「今すぐ、あなた方に穀物と干し肉、簡易の薬を運び込ませます。量は三か月分。代金は半年後の収穫と、その間に出す労働で支払っていただく」

「労働じゃと?」

「この村の裏手には手つかずの森がありますわね?」


 私の視界に浮かぶ地図を指でなぞる。


「その森の一部を燃料用の木材と炭の契約採取地に指定します。切り出しと運搬を、この村に担ってもらいますわ。代わりに、こちらは森の管理と買い取りを保証します」

「森を売れと言うのか……」

「いいえ、森を『食せる形』に変えなさいと言っているだけですわ。土地も腕も家族も、何かと繋いで初めて価値になりますの。今のままでは、あなた方の誇りはあの子どもたちの細い首を絞める重石にしかなっていないのです」


 重苦しい沈黙が続く。

 エリアスがじっと村長を見つめている。エリアス自身も、似たような誇りという名の重石に苦しんできた一人だからだろう。

 やがて村長は抵抗を諦めたように、がくりと頭を垂れた。


「……森を守れるのか?」

「無制限に切らせはしませんわ。そこを壊してしまえば、あなた方の『支払い能力』が消えてしまいますから」


 村長の口元に、自嘲めいたかすかな笑いが浮かぶ。


「容赦がないのう」

「効率の問題ですわ」

「分かった。契約を結ぼうではないか」


 村長は顔を上げ、私を見る。その目には諦めではない光が戻っていた。


「わしの誇りは少し軽くしてもらうとする。代わりに、この村にもう一度『来年』を見せてくれ」



 【辺境の村】

 ・契約状況:前渡し契約(燃料採取労働との交換)締結予定

 ・飢餓リスク:高 → 中

 ・評価:間に合う可能性あり



(なんとかなりそうですわね)


「契約書の文面は、後ほど書記官が持ってきますわ。文字が読めなければ、ミリアが読みます」

「お、お任せください! 喉が枯れるまで読みます!」


 ミリアが、ここぞとばかりに胸を張った。


 ◇


 村を離れる馬車の中、エリアスが窓の景色を見つめたまま呟く。


「あなたのやり方は、やはり厳しいですね」

「甘くしても誰も得をしませんもの。ただ施しとして配っても次の飢えを早めるだけ。契約で繋いだ利害関係の方が感謝や忠誠心よりもずっと長持ちしますの」

「誇りと引き換えにですか」

「誇りの形を変えているだけですわ。死んでしまえば誇りも何も残りませんから」


 その時、私の視界に新たな文字が浮かんだ。


 【レグナ帝国・各地の村】

 ・似たような状況の村:多数

 ・今後の優先度:中

 ・評価:帝都の後、順次組み替え対象


(帝都だけを変えても、根が腐っていては意味がありませんわね)

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