1ー断罪、そして追放
ある日の午後、王宮の大広間には重苦しい空気が漂っていた。
煌びやかなシャンデリアの下、貴族たちが整列し、王族の前に立つ私は、まるで罪人のように視線を浴びていた。
ペットを通じて知り合った人々も多くいたが、皆、不安そうな表情を浮かべていた。
陛下が開口一番宣言した。
「ミナ・クローバー。貴様を、王国法第百八条“動物への不敬罪”により、ペットの世話係を解任し、本日付けで王都より追放とする!」
その宣告が響いた瞬間、場内はざわめきに包まれた。 驚きと戸惑いが広がり、誰もが私を見つめていた
私はただ、ぽかんと口を開けていた。
目の前には、ふわふわの白毛をなびかせたミルフィー様――王女殿下の溺愛ペット。
そのつぶらな瞳が、まっすぐこちらを見ている。
「ニャー」
「ニャー」
……いや、それ、私にはちゃんと聞こえているからね?
『このドレス、目が腐るニャ。蛍光ピンクとか正気の沙汰じゃないニャ』
「ニャー」
「ニャー」
『この部屋、香水の匂いで鼻が死ぬニャ。空気清浄機を呼べニャ』
「この子が、ミナの前では何度も“ニャー”って言うのよ! そして私に、一生懸命伝えてくるの。 ミナが 怖いって!ミナに いじめられたって!!」
いやいや、違う。
――完全に誤訳です王女様。
けれど私は言い返せない。
“動物語がわかる”なんて言ったら、余計に面倒になるから。
こうして私は、王女殿下の暴走とミルフィー様の毒舌の板挟みにされたのであった
それに、王女の私に対する怒りは、もう止まる様子がない。
そしてミルフィー様が「ニャー」とまた鳴く。
『ミナ、あんたは悪くないニャ。むしろ被害者ニャ』
そう、ミルフィー様は私にだけは優しい。
毒舌家でありながら、ひそかに私を庇ってくれていたのだ。それを王女殿下が暴走して誤訳している。
「ほら、また、ミナにいじめられた!!って伝えてくるでしょう!!」
私は“動物語”を理解できるが故、犬の「ワン」も、猫の「ニャー」も、インコの「ピヨ」も、意味として聞こえる。
彼らの言葉は、私の耳に、まるで人間の言葉のように届く。
けれど、それは誰にも話したことがない。
話せば、気味悪がられるか、都合よく利用されるか
――どちらにせよ、私の居場所はなくなる。
だから私は、黙っていた。
ミルフィー様の常日頃からの毒舌を、王女殿下が誤解していることも、訂正しなかった。
それが、私の選んだ“平穏”だった。
でも、その平穏は、今日で終わった。
「ミナ、貴方のような者に、動物使いの資格はないわ! 今すぐ王都を去りなさい!」
王女殿下の声は、怒りに震えていた。
私は静かにうなずき、何も言わずにその場を後にした。
*
私は、部屋に戻り、荷物をまとめた。
長年使ってきたブラシ、動物たちの好物、そして、彼らからもらった小さな贈り物。
それらをそっと包みながら、私は深く息を吐いた。
王宮のペットたちが、私を見送るように静かに鳴いていた。
『ミナ、絶対戻ってきてニャ』
『ミナさん、あの人たちバカですワン』
『ミナちゃん、また会おうクエッ』
彼らの声が、私の背中を押してくれた。
誰も気づいていない。
この王宮で、動物たちの本当の声を聞けるのは、私だけだった。
こうして私は、動物たちの言葉を知る者として、誰にも知られず、王都を去った。
振り返ることなく、でも確かに―― 私の物語は、ここから始まる。
お読みいただきありがとうございます。
よろしければ、下の☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると大変励みになります。




