プロローグ
王宮の朝は、ペットたちの鳴き声で始まる。
「ピヨッ!」
「ワンッ!」
「ニャア〜ン!」
インコの甲高いさえずり、犬の元気な吠え声、猫の気まぐれな鳴き声が入り混じり、静寂とは無縁の一日の幕開けだ。
けれど、私には、動物たちの鳴き声が、ただの鳴き声では終わらない。
「ピヨピヨ!」──インコは「王妃の声マネ楽しい♪」
「ワンッ!」──犬は「お腹すいた!」
「ニャーオ」──猫は「このクッションは私のもの」
そんなふうに、彼らの声には“意味”がある。
「ピヨ〜ピヨ〜!」は「ミナ〜!ミナ〜!」と呼ぶ声。
「ワンワンワン!」は「王子、まだ起きてないよ! 昨日遅くまで起きてたから」
「ニャニャッ」は「このドレス、センスが悪いわ!私の爪磨きにちょうどいいわね」
そんな騒がしさの中、今度は使用人たちの声が飛び交い始める。
「ミナ〜! インコがまた王妃の名前を連呼して困ってます〜!止めて〜」
「ミナさん、王子殿下の犬が朝食座る椅子にに座わったまま動かなくて……! もうすぐ殿下が起きてしまいます……」
「ミナちゃん! すぐ来て! 王女殿下の猫がまた王女のドレスを引き裂いたわ! 今日のお茶会で着るはずのものなの……!」
王宮の使用人たちに呼ばれるたびに、私は宮殿内を走る。
東の回廊から西の庭園へ、王宮中を駆け回るのが、かなりの体力を使うが、これが私の日課だ。
私の名前はミナ・クローバー。
王宮で唯一の“動物使い”として、王族に飼われているペットたちの世話としつけを任されている。
……と、みんなはそう思っている。
けれど本当は、私は“動物語”を理解できる特異体質の持ち主。
犬の「ワン」、猫の「ニャー」、インコの「ピヨ」──それぞれの鳴き声が、私には彼らの“言葉”として聞こえる。
そしてそれに忠実に従っているだけ。時には、彼ら動物たちと話をして断ることもあるけれど……。
でも、これは誰にも言えない秘密。
「動物と話せる」なんて知られたら、気味悪がられるか、頭がおかしいと思われるか、あるいは、悪用されるかもしれないから。
だから私は、あくまで“勘”と“経験”で動物たちの気持ちを読み取っているふりをしている。
そのおかげで、動物たちにぴったりの名前をつけたり、気持ちを汲んだ対応ができるから、周囲からは「動物の扱いが天才的」と思われている。
だから、この仕事は私には適職であり、王宮内の誰もがそう思っていた。
「ミナちゃんって、動物の気持ちがわかるのね〜」
「いやぁ、ただの観察眼ですよ〜」
そう笑ってごまかし、今日もまた、ペットたちの声に耳を澄ませながら、私は、王宮を駆け抜ける。
でも、そんな日々がずっと続くと思っていた―― あの“白猫様”が、余計なことを言い出すまでは。
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