マッチと石炭
ある町に、火を灯す仕事をしているふたりの職人がいた。
ひとりはマッチ職人。彼の火は、すぐにつく。誰かが寒さに震えていれば、すぐにポケットからマッチを取り出し、ぱちんと火をつける。明るく、あたたかく、そしてすぐに消える。彼の火は、通りすがりの人の心を一瞬だけ照らす。
もうひとりは石炭職人。彼の火は、なかなかつかない。湿気を嫌い、風を選び、時間をかけてようやく燃えはじめる。けれど一度燃えれば、長く、静かに、深くあたためる。彼の火は、家の奥で、誰かの孤独をじんわりと溶かす。
ある冬の日、町に停電が起きた。人々は暗闇の中で震えながら、ふたりの職人を探した。
マッチ職人は、すぐに駆けつけた。ぱちん、ぱちんと火をつけ、子どもたちの手をあたためた。けれど、火はすぐに消えた。
石炭職人は、遅れてやってきた。黙って炉に石炭をくべ、火を育てた。時間はかかったが、やがて町の家々に、静かなぬくもりが戻った。
その夜、ふたりは並んで座り、火を見つめた。
「君の火は、すぐに人を助けるね」と石炭職人が言った。
「でも君の火は、ずっと人を支える」とマッチ職人が答えた。
火は、ぱちんと跳ねて、静かに燃え続けた。
連載版もあります。
詩小説ショートショート集
わたしとAI君とのコラボレーションです。
このショートショートのもとになった詩は、連載版「われは詩人 でなければ死人 ーAIと詩を語るー」で読めます。
ショートショートタイトル「マッチと石炭」の原詩は同タイトル「マッチと石炭」です。




