第9話 産めよ増やせよ
ふー。やっと湖を一周出来た。
「なかなか大仕事だったな」
疲れはしたが、無事終えて大満足。ただ、気軽に一周は出来ん距離ではあった。自転車なら半日で一周できるかな?
「帰って来たか」
すっかり我が家隣が作業場となっており、イーダたちがいろんなものを作っていた。
「ああ。糸は洞窟でやっているのか?」
「竈をあちらに作ってしまったからな」
近いうちにこちらにも出来そうだ。まあ、構わんけどさ。
物作りに目覚めたのならイエティたちの知能も少しは上昇するだろう。がんばってください。
「さて。畑でも耕すか」
オレには有り余る時間がある。この時間を有効に使うためにも作物を育てるのに使おう──ってわけじゃないが、イエティたちの食糧自給率を高めてやるために協力してやろう。
明るい家庭菜園って本を見ながらトウモロコシを植えようと思う。
異世界の植物を植えたりしていいのか問題。そんなもん知らねーよ、だ。あの女が規制しないのならなにをやっても許されるということだ。
それに異界人がいろいろやってんだろうから構うものかだ。将来の植物学者が頭を抱えようとオレの知ったこっちゃない。オレはやりたいようにならせてもらうまでだ。
ビニールハウスを作り、その中でポットに種を蒔いて育てた。
その間に畑を耕し、芽が出て畑に植え返した。
虫がつくか病気になるか。はたまた土に合わないか。どうなるやらと育てる。
この世界にあるもので土作りも行い、足りないものはタブレットで買う。土のペーパーも考えて育てた。
トウモロコシは枯れることなく育ち夏に収穫──しようとしたらなんか猪みたいなのが現れた。
「ブーダだ。ルングリーが増えてからいなくなっていた獣だ」
湖一周は定期的にやっているので、現れたルングリーは狩っている。懲りずに襲って来るから数も減ったのだろう。あまり狩りすぎると糸が取れなくなるから全滅はさせていないけどな。
「ブーダね。豚と名づけたのかな?」
オレやイーダたちがいるので近づいては来ない。夜になったら盗みに来るのだろうよ。でも残念。お前らは家畜となる運命なんだよ。
夜中に現れたブーダを一網打尽。脚を縛って放置。朝になったらイーダたちに柵と家畜小屋を作ってもらった。
トウモロコシはブーダのエサにして肥えさせる。イーダたちにトウモロコシが合うかわからんからブーダで試させてもらおう。
ブーダは一年中発情するのか、朝起きたら十六匹も産んでいた。メス、何匹いたんだ?
すべては飼えないので交尾しないオスを二匹シメることにする。肉はイーダたちに食ってもらう。
「てか、増えすぎ」
仕方がないので洞窟のほうにも柵と小屋を作ってもらい、半分を移すことにした。
食料が満たされたからか、イーダたちにも子が出来た。
「三人も産まれるとはな」
同時期にやってればな、とは言わないでおく。イエティの営みなんて興味もねーわ。
「いい兆しだ」
「産めよ増やせよ地に満ちよ、だな」
イエティが世界を支配することはないだろうが、ここを守れるくらいには満ちてもいいかもな。
産まれた子供はオレくらいあり、まだ瞼を開けてはいなかった。
「ご苦労様」
産んだ母親にヒーリングを施した。
オレのヒーリングは傷を癒したりするものではないが、治癒力を高めたり精神を穏やかにする効果はあったりする。
これまで施す相手がいなかったから出番はなかったが、そこまで難しいことはない。よくなれ~って感じでやるだけだ。
母親も産後の疲れもなく眠りつき、赤ん坊(?)もスヤスヤ眠りについている。元気に育てよ。
秋がどんどん近づいている。
今年は食べるものが多く、外敵もいない。洞窟には暖炉も設置したので暖かく過ごせるだろう。
小屋の周りも発展しており、寝泊まりできる小屋が五軒も建っている。そのうちここが村になるのも遠い未来ではないだろうよ。
「ブーダが凍えないように壁を作ってやるか」
こいつらも食料の心配もなく、外敵の心配もないから増えやがる。年中発情してんな、お前らは。
「マリーダ。木の実を採りに行く。ついて来るか?」
「ああ、行くよ」
なにが食えるか知っておきたいからな。
「山に行くのか?」
そこら辺で採るのかと思い気や、山をぐんぐん登って行く。山になにがあるんだ?
「ベリーだ」
ベリーって、あのベリーか?
山の中腹くらいに赤い木の実がたくさん生っていた。群生地か?
「空を見張っていてくれ。マーベッグが襲って来るかもしれないから」
マーベッグ?
と思っていたら空に鳥が飛んでいるのが見えた。あれか。
「あれは狩ってもいいものなのか?」
「いや、数が少ないから狩るなとは伝わっている。希少生物? とか言っていた」
「絶滅危惧種、ってことか。なら、脅しておくだけにしておくか」
なんかでっかそうだし、オレなんかエサと思われそうだ。どっちが強いか体に教えてやるとしよう。
テレポで空に飛び、マーベッグを見定めて背中に飛んだ。
慌てるマーベッグをからかい、オレの姿を覚えさせる。敵対するならお前を狩ると、意識を込めてだ。
逃げ出すまでからかい続け、もう嫌だとばかりに山の彼方へと消えて行った。
「また遊ぼうな」
見えなくなったマーベッグに声をかけ、地上にテレポした。