第50話 旅立ち
結婚式は盛大に開始された。
それまでの過程は? とかは知りません。オレ、関わってないし。町に行ったりコンブーク傭兵団のヤツらの小間使いをしていたんだよ。
「サーグ、おめでとう。奥さんと仲良くね」
なんか不憫属性があるサーグ。能力的には優れているので幸せになって欲しいものだ。
「ありがとうございます。まさかこんなに幸せになるとは思いませんでした。辺境で死ぬんだと思ってましたから」
「運がいいんだよ。実力があったって死ぬときは死ぬんだから」
オレがいい証拠だ。そこそこ強くてもそれ以上のヤツが現れたらあっさり殺される。世の中、運のいいヤツが強いってことだ。
「サーグは長生きするよ。家庭を作って子や孫を増やすといい」
オレは産む気にはなれないし、産ませることも出来ない。あのクソ女は碌なことしねーんだからよ。
「どこかに行くので?」
「うん。コンブーク傭兵団がなんのために辺境に行くのか気になるしね」
イーダたちに害をなすようなら殺さないといけないからな。
「帰って来ますか?」
「当たり前じゃん。エリーダもいるしね。これでさようならとはならないよ」
あっさり死ぬならまだしもこの体は長生きしそうだ。自分の居場所を築くためにもサーグたちにも長生きしてもらってスピリッツを大きくしてもらいたい。オレが快適に生きられるためにな。
「安心しました。出会いはアレでしたが、マリーダ様にはいろいろ助けられて、こうして幸せをいただきましたから。恩返しがしたいです」
「気にしなくていいよ。アタシはアタシが思うままにやっているだけなんだからさ。その分は、奥さんに与えてあげなよ」
コミュ症のオレが人の中で生きられているのはサーグたちががんばってくれているからだ。恩を返すのはオレのほうだ。
「あはは。そうします」
それでいい。オレが欲しいのは快適な生活と、六億円の節約だからな。
新婚をいつまでも一人占め出来ないので、スピリッツのところに移り、酒を注いで回った。
「皆さんも飲んでいますか?」
コンブーク傭兵団にもお酒を注ぎに来た。
「ああ。いい時に来たものだ」
「こんな美味い酒や料理がタダで食えるんだからありがたい限りだ」
「サーグさんはアタシの恩人なので祝ってあげてください」
実は開拓村の出身で、獣に襲われているところをサーグたちスピリッツに助けられたとウソを教えた。
「サーグさんも落ち着いたし、村に行ってみたいものです。お墓はないけど、皆を弔いたいです……」
少し悲しそうに空を見上げた。
「村までの道は知っているのか?」
「……はい。今でも忘れません……」
一本道なので迷うもない。いや、道が途切れているところもあるから迷うか?
「それならオレらと来ないか? 道を知っているならオレたちもありがたいし」
「いいんですか? アタシ、戦うとか出来ないですよ。御者や馬の世話なら出来ますけど。料理はちょっとだけですね」
「馬の世話をしてくれるだけでもありがい限りだ。是非、頼むよ」
「なら、サーグさんに相談してみます!」
よしっ! 思惑とおり!
結婚式が終わればサーグに協力してもらって、コンブーク傭兵団と繋いでもらった。
「わしも行こう」
と、先生が現れた。どこから!?
「いいの? 闘技場とか造っているところでしょう?」
そんな報告は受けている。サーグの結婚式で町に行けてないからよく知らんけど。
「完成は来年になるそうだ。それならマリーダに付き合うのもよいだろう。さらなる奥の地に行ってみたかったしな」
「大したものないよ? しゃべる獣くらいしかいないし」
「うん。十二分に行く理由だな」
そうなの? 先生は物好きだよ。
「わかった。サーグに話を付けてもらうよ」
交渉上手なサーグのお陰で先生の動向も許され、ここに来たときの幌馬車を用意してくれた。いろいろ必要な道具も。
用意が整えば出発だ。
そんな決別を秘めた旅立ちでもなし。見送りはサーグだけにしてもらった。
「気をつけてな」
「はい。いってきます」
そんな簡単な挨拶を済ませ、オレたちは出発をする。
前はオレたちが操る幌馬車。後ろにコンブーク傭兵団の馬車が続く。
「リュムは置いて行くのか?」
「たぶん、付いて来るんじゃない? リュムの気配を感じるから」
エリーダに懐くと思ったらオレのほうに懐いてしまった。残って村の守護獣になって欲しかったんだがな。
「後ろのが害になったらどうする?」
「殺す」
そのために付いて行くんだからな。
「それを聞いて安心した。そのときはわしが動こう。死ぬにしても人に殺されたほうがよいじゃろうからな」
そんなもんかね?
「じゃあ、お願いするよ」
オレは誰が殺そうと拘りはない。人を殺すことに快楽は覚えないからだ。
「こうして旅もいいものじゃ」
「そうだね。いろいろ行ってみたいものだ」
寿命だけはいっぱいあるみたいだからな。




