第48話 結婚
「はぁ? 結婚する?」
サーグに女を宛がう話は三日前だ。なにをどう直球を投げたらこうなるんだ? 村長、説明!
「あーいや、わたしもなにがなにやらでして……」
サーグ、説明しろや!
「気に入りました」
一晩で? いや、一晩かは知らんけど、二日は過ぎてないよね? 朝から晩までハッスルしてたのか? 言っちゃ悪いが、垢抜けた女ではなく、体も豊満でも妖艶でもない。通りすぎたら記憶にも残らない女だよ?
って言葉は心の中だけにしておく。その女がサーグの横にいる。五歳くらいの男の子を連れているからだ。
「ま、まあ、サーグが望むなら好きにしたらいいよ。村長。村全体で祝うから知らせてよ。お酒や肉はスピリッツが用意するからさ」
サーグの立場を知らしめるためにも村を巻き込ませてもらう。
「わ、わかりました。日程はこちらで決めていいでしょうか?」
「いいよ。こちらもお酒や肉を用意しなくちゃならないしね」
鹿肉はもう飽きているだろうから猪でも狩って来るか。何日か美味いものでも食わせたら肉も美味くなんだろうよ。よー知らんけど。
リュムの背に乗り、猪を捕まえに出た。
一日で二匹は捕らえられ、穴を掘ってそこに放り込んだ。あと、二匹は行けるか?
リュムの分も考えて四匹捕まえ、うり坊も一ダースは捕らえた。こいつは飼い慣らしてみるか。ダメなら食えばいいんだしな。
たまに結婚式の進行状況を聞きながら、町にも戻ってみる。
スピリッツの拠点となる家は改築が終わっており、新たにスピリッツの一員となったヤツらが出入りしていた。
「お嬢、お疲れ様です!」
え? オレ、お嬢とか呼ばれてんの? ちょっと恥ずかしいんだけど!
「ブロイ。アタシ、お嬢とか呼ばれてんだけど」
この恥ずかしさをブロイにぶつけた。
「いや~。おれもどうかなとは思ったんですが、エリーダ様は受け入れたのでなにも言えなくなりまして……」
エリーダは受け入れてんのかい! お嬢なんて喜べるのは若いうちだけ。五十過ぎてもお嬢とか呼ばれたら羞恥で死ねるぞ。
「はぁ~。まあ、いいや。エリーダだけ呼ばれるのも目立つしね」
特別扱いされるのが一人より二人のほうが分散されていいだろうよ。狙われる確率も半分になるんだからな。
「サーグが結婚することになったよ」
「もうですか? 一昨日村からやって来たのに聞いたばかりですが」
「そうなんだよ。アタシもびっくりだよ。サーグって、そんなタイプだったっけ?」
「うーん。真面目なヤツでしたからな~。初めてだったら入れ込んでも仕方がないかもしれません。気に入らない女なので?」
「子持ちの女なんだよね。二十八かそこらで六歳の子供がいた。旦那は三年前に死んだとか言ってた」
「あー」
ブロイもなんと言っていいのかわからんって顔だ。
「まだなんとも言えないけど、スピリッツはブロイに任せるかもしれない。結婚するときは頼むよ。愛人は何人持ってもいいからさ」
「おれがですか? なんか荷が重いんですけど」
「そこは野望を持ちなよ。望むなら貴族にもしてあげるよ」
「よしてくださいよ。おれはそこまでの格はありませんって。町の親分が精々ですから」
「じゃあ、貴族の娘でも嫁にする?」
「勘弁してくださいって。おれは今の地位で充分ですから」
ハァー。野心の低い男だよ。
「まあ、サーグを影のボスにするしかないか」
スピリッツを強くするには纏め役となるボスは必要だ。サーグには宿屋をやりながらスピリッツを影から支配してもらうとしよう。
「ブロイはいい人いないの? いたら盛大に祝ってあげるよ。町でも回ろうか?」
「お、おれは地味が好きなので、身内だけでお願いします」
「ブロイは謙虚だな~」
見た目は裏社会のボスって感じなのに。見掛け倒れめ。
「身のほどを知っているだけですよ」
まったく、賢いヤツらだよ。
「まあ、結婚式に合わせてお酒と食材を集めておいてよ。もうそろそろだと思うからさ」
「わかりました。集めたら村に送りますよ。あ、そうだ。闇闘技場ですが、もう使いものにならい状態でした。別のところに新しく造ったほうがいいですね」
あー闇闘技場ね。すっかり忘れてたよ。
「それなら新しく造ろうか。まずは簡単な武闘会でもやって宣伝しようか? やっぱ賞金がいいかな? 賭けをやればそんなに損はしないだろうしね」
「ボディービル大会もしていいですか?」
「いいよ。やりなよ」
どこに需要があるかはやってみないとわからない。失敗しても損はしないし、誰も死なないんだからどんどんやれだ。
「夜のお店をやるときは清潔に。女性を使い捨てにしないこと。バカな客は殺しても構わないから。役人や兵士と穏便に解決できないならアタシがなんとかするよ」
役人や兵士っていたのね。見たことなかったからいないかと思っていたよ。
「わかりました。こちらで進めておきます」
「よろしく~」
すべてを任せてもいられないので、ブーケと花束はオレが用意するとしよう。あとはなにが必要だ? 餅か? いや、それは建前か。飴でもばら撒くとするか。
なんてことを考えながら村に戻った。




