第43話 白虎
悪霊を想像してたら白虎だった。はぁ?
「……マリーダ様、これは……」
うん。説明を求められたって困るよ。オレだってどういうことか戸惑ってんだからさ。
「生きてる、よな?」
埃の積もり具合からかなりの年月が過ぎているはずだが、目の前の白虎は質感っていうか肉感っていうか、霊的存在ではない。そこにいる存在だ。
「えーと、アタシの言葉、わかる?」
声をかけるも白虎はこちらを見るばかり。殺気とか恨みとかは目に宿ってはいない。無ではないにしても、なんの感情も籠っていなかった。
「ノーリアクションかい」
まあ、白虎に言葉が通じるわけないか。ならと、微弱なテレパシーで呼び掛けてみる。
「お、反応ありか」
それならもっと強いテレパシーだといいわけだ。
「エリーダを呼んで来てくれる? これはアタシには無理だ」
さすがに謎生命体を力で排除は出来ない。なにを秘めているかわからんか、な。
白虎の目の前から消えるのは危険そうなので、床に座って待つとする。
「ブロイたちは上にいて。窓を開けて空気の入れ替えと掃除をお願い。ここはアタシが見張るから」
「わ、わかりました」
理解あるブロイたちはすぐに出て行った。
「この世界も一筋縄では行かなそうだ」
魔物がいないから平和かと思ったが、魔物以上の謎生命体がいるとか夢にも思わなかったよ。いや、イエティとかいたわ。しゃべってたわ。
「幻獣か?」
──ソウダ。
え? 頭の中に声が響いたぞ!?
「……お、お前か、今の……?」
けど、返答なし。なんなの?
仕方がないのでエリーダが来るのを待つことに。でも、ただ待つのもなんなのでルームに入ってアイスコーヒーを持って来た。
三十分くらいして上から物音がして、ブロイがエリーダを連れて来てくれた。サンキュー。
「……マリーダ……」
「ごめんね、突然。こいつとテレパシー交信して欲しいんだ。どうもテレパシーは届くみたいだからさ」
エリーダを横に立たせ、テレパシー交信を試みてもらった。
テレパシーは横から聞こえる、ってこともあるが、オレのアンテナではなんか交信してるな~ってくらい。感情の揺れが激しいならそれもわかります。
お互い、テレパシー交信は出来ているようだ。やはりエリーダは超感覚波長のセンスがいいようだ。
「マリーダ。この子、魔力の鎖に絡まれて動けないみたい。助けて欲しいって」
「魔力の鎖?」
オレには見えないが、魔法を使う駆除員もいるとか。その魔法を持って転生したのなら白虎を縛ることもかのうだ。
「魔力って消えるんじゃなかったっけ?」
魔法は永遠のものではない。時間とか距離で霧散してしまうものだったはず。長いこと発動しているのなら道具やらなんやらを使っているはずだ。
「こいつ、噛みついたりしない?」
「しないって」
エリーダを信じて白虎に近付き、周りを探ってみる。
埃をテレキで退かすと、魔法陣みたいなのが現れた。
「魔石か?」
この世界にも魔石なんてあるのか? 魔物からしか取れないはずなのに。それともクソ女のボーナスか?
埃をすべて退かし、魔法陣を触れてみた。
人間に害のあるものじゃなく、結界のような働きもない。白虎を閉じ込めておくためのものらしい。
「こいつは、ここから出れないのか?」
「そうみたい。これがあるから出れないし、死ぬことも出来ないってさ」
まったく。後片付けしてから消えて欲しいものだ。そりゃ、安いわけだよ。ブロイもオレならと思って借りたんだろうよ。
「ブロイ。そこ、退けて。そこに飛ぶから」
魔法陣のことなんてまったくわからんが、自爆機能があったら面倒だ。視界さえ確保出来ているなら連続で逃げられるはずだ。
「ブロイ。なんかあったらエリーダを抱えて逃げてね。バリアーは張るからさ」
「わ、わかりました。任せてください」
「どうなるかわからんけど、死んだらごめんな」
白虎の背に乗り、テレキで魔石を取り出した──瞬間に白虎を抱えてテレポした。
視界が暗転して魔法陣から出れた。
「ふー。自爆はなしか」
作ったヤツはそこまで悪辣じゃなかったようだ。久しぶりにビビったわ。
白虎から下りてテレキで魔法陣を破壊する──と、下からまた魔法陣が出てきた。上のはダミーか?
下の魔法陣には赤い魔石が十六個も埋められている。発動する前に魔石を取り外しておこう。
魔石は上着に包んでルームに運んだ。次元が違うなら魔力は遮断されるはずだからだ。
「ブロイ。ここは埋めちゃって。二度と使えないようにしようか」
また変なのが隠してあったら嫌だ。臭いものに蓋で埋めてしまいましょうだ。
「わかりました。すぐに人を集めます」
ブロイが出て行ったら下にあった魔法陣も破壊する。
「エリーダ。そいつを連れて上に行って。ただ、家から出さないように。町の者がびっくりしちゃうからね」
大型犬サイズだが、白虎なんて見たこともないはず。驚かれて騒がれたら面倒でしかない。まずは秘密にしておう、だ。
ブロイが戻って来るまでまたその場に座り込んだ。
「……やれやれ。平穏とはなかなか行かないものだ……」




