第41話 オカマは最強
とりあえず、用心棒に相応しい服を買った。
用心棒に相応しいってどんなだよ? とか思ったが、まあ、悪くはないんじゃなかろうか? 前の世界からしたら防御力はなさそうだがな。
「この町にあった闇闘技場ってどこにあるの?」
「もう使ってないぞ」
「使ってなくても消えたわけじゃないんでしょう? 使ってないのならスピリッツがいただくよ」
闘技場と言っているのだ、そんな柔な造りにはなってないはずだ。十年くらいなら補修すれば使えんでしょうよ。
「それはマルティーカの者に聞いてくれ。こちらにも通す義理や決まりがあるんでな」
「そうだね。無理言ってごめんね。先生、村で鹿を駆除しててくんない? 闇闘技場はこちらでやっておくからさ」
すっかり忘れてたけど、鹿駆除の途中だったんだよね。まだまだいるんだからここで止めることは出来んでしょうよ。
「ああ、わかった。わしは体を動かしているほうが性に合っておるからな」
「なにかあったらスピリッツの者に声をかけてね」
先生とはそこで別れ、リナイヤの店に向かった。
日に日に客入りがよくなっているようで、店は八割くらい埋まっていた。
「リナイヤ。ブロイ、どこにいるかわかる?」
「家探しに出ているよ」
「家探し?」
「見てのとおり、客が増えたからね。本拠地となる家が必要になったんだよ」
確かに。いつまでもここでたむろしてらんないか。スピリッツとして拠点なる場所は必要だわな。
「ミックも一緒?」
「いや、ミックは上にいるよ。呼んで来ようか?」
お願いした。あ、お楽しみ中だったらごめんなさいね。
「どうかしました?」
すぐ下りて来たってことはお楽しみ中ではなかったようだ。
「ちょっと相談したいことがあって」
先生を用心棒にしたことや闇闘技場のことをミックに説明した。
「闇闘技場、か~。帝国にもありましたね。闇賭博が問題になったこともありましたよ」
「闇にするから問題になるんだよ。正々堂々、表でやればいいのさ。町の産業としてね」
「産業、ですか?」
「このサンベルクは王国の端にあり、中央から口出しされることもない。領主──って誰だっけ?」
「アーグス・プルス辺境伯です」
「そうそう、辺境伯だ。その辺境伯もこちらに引き入れようか。スピリッツには異界人がいるってことを知らせてね」
この世界で異界人は特別だ。ピンキリではあるが、数年生きたヤツはそれなりに力を持っていることも知られている。そう簡単に手出しは出来ないだろうよ。
「ミック、辺境伯と交渉してみる? 必要ならアタシも付いて行くし、正体を晒しても構わないよ」
辺境伯を味方に出来るのならスピリッツ(ここではグレン一家ね)としてもありがたいからな。
「よろしいので?」
「排除してくるなら殺すまでだよ」
敵対するなら殺す。それか潰す。味方になるなら仲良くする。それだけだ。
「わかりました。マリーダ様がそう決めているならおれたちは従うまでです。もう一蓮托生ですからね」
「ふふ。そうだね。一蓮托生な分、いい思いはさせてあげるよ。お金でも名誉でも女でも、欲しいものをつかむといいさ。アタシが協力するよ」
長生きするだろうオレのためでもある。協力者にはたくさんの利を与えてやらんとな。
「ありがとうございます。おれもいい暮らしはしたいですから」
「ちなみに、ミックはなにが欲しいの? あまり派手なことしないけどさ」
皆の中では大人しいほうだ。一家を築きたいって言ったとき、ちょっと驚いたものだ。
「実はおれ、同性が好きなんです」
「あ、やっぱり。女を抱かないからそうなのかと思ってたよ」
「……嫌悪しないんですね……」
「しないよ。個人の性癖だからね。アタシのいた世界じゃ、あ、待ってて。ミックが好きそうなもの買って来るから」
人生初。いや、前世でも買ったことないが、ミックのためにBなLの漫画を何十冊か買って来てやった。
「異界語で悪いけど、絵だけでも楽しいと思うよ」
オレはなにが楽しいのかわからんけどな。
「…………」
「気に入ったようだね。もっと欲しいなら買ってあげるよ」
「……お、お願いします。あと、異界語を教えてください。読んでみたいです」
オレにBなLの漫画を朗読しろってか? それはちょっと嫌なんですけど。
「別に好きな言葉を入れなよ。アタシの国の言葉は難しいからね。覚えるのに十年くらいはかかるからさ」
「それもそうですね。楽しそうだ」
ほっ。よかった。
「もう男娼館とか経営したら? ちょっと大きい町や王都なら需要もあるんじゃない? 嫌悪して来るヤツがいたらアタシが消してあげるから」
「男娼館、ですか」
「女の格好をしたいのならすればいいさ。言葉も女みたくしてもいいしね。男は度胸、女は愛嬌、オカマは最強、ってね」
オカマって言葉があるかはわかんないけどね。
「……女になっていいのでしょうか……?」
「素直に生きたらいいよ。少なくともアタシは応援するからさ」
男の心を持った女の子になっちゃってるしね。共感……出来るかはわからんが、ミックがそうしたいならオレは止めたりはしないよ。
「……ありがとうございます……」
「どう致しまして」
頭を下げるミックに、笑って返した。




