第3話 村
食って寝て運動をする。
それを十日も続けたら肉がついてきて、テレキも最初のときよりは使えるようになっている気がする。もうちょいかな?
さすがに十五日もルームに籠っているのが飽きてきた。体重も三十キロから三十八キロと増えた。回復力タケーな、この体。なんかボーナスでも与えられたか? そんなことは伝えられてないが。
「結構可愛い子だな」
ガリガリで可愛いもなかったが、こうして綺麗にして肉がつくと可愛い子だったのがよくわかる。
「こんなアラサーに乗っ取られるとか哀れでしかないよ」
とは言え、オレの魂が入らなければあのモンスターに食われていた。どちらにしろ不運な女の子だったってことだ。
「大切に使わせてもらうよ」
もうオレの体になってしまったのだから粗末に扱うわけにはいかない。体を大切に、長生きするからな、名前も知らない女の子よ。
「外に出てみるか」
あれから十五日も経っているのだからブリザードも収まってんだろう。でも、安全のために厚着はしていこう。あと、武器を買わないとな。
重い武器は使いこなせないので、この手に合うナイフを二本と槍を買った。
装備の慣らしをしたら玄関に立ち、覗き窓から外を見た。
ドアはないのだが、玄関の壁に覗き窓がついてある。
ルームは異空間にあるので外の様子を確かめないと怖くて出れたものじゃない。覗き窓から入った場所の様子を確かめられるように取りつけたのだ。
「まだブリザードなのかい」
まあ、テレキを使えばブリザードでも問題はない。いざ、久しぶりの外へ。
「おー! 吹雪いてる吹雪いてる」
テレキバリアーを張った。
「あれ? あのときのモンスターがいなくなってる」
燃やしてやったとは言え、そこまでの火力があるものではない。人間なら炭化させてやれるが、グリズリーとかになるとよく燃やさないと無理だろうよ。
「ブリザードでどっちに向かっていいかわからんな」
こうも視界が悪いとテレポも危険だ。テレポ先になにかあると弾かれるんだよな。下手すると死んでしまうから視界がよくない日は止めたほうがいい。
「とりあえず、適当に歩いてみるか」
年がら年中ブリザードってわけじゃあるまい。ブリザードが止むときもあるはずだ。そのときを狙ってテレポするなり上空から周囲を見回してもいいだろう。
「木は生えてんだな」
大平原ってわけじゃなく、所々に木が生えており、オレの胴体より育っているのだから晴れている日もあるってことだろう。
一時間くらい歩くと、ブリザードが少し落ち着き、視界がちょっとよくなった。
「このくらいならゴーグルをしたらいけそうだな」
テレキバリアーを続けるのも疲れる。このくらいなら張らなくてもいいだろう。
一旦ルームに入り、ゴーグルを買ってきた。
さらに一時間歩いたら人らしきものが倒れていた。
「原住民かな?」
凍ってしまっているので確かめることもできない。できたとしてもやりたくはないがな。
「ご愁傷様。次はもっとマシな先に転生できるといいな」
もう神に祈る言葉も忘れた。その分、罵る言葉だけが増えていったがな。
倒れた先に向かうと、村? が現れた。
「なにかに襲われたみたいだな」
あのときのモンスターか? キズからかなり大きい生き物みたいだが。
村は柵に覆われており、規模的に百人もいない村っぽい。足跡もないところを見ると、全滅したっぽいな。
まだ形を残した家に入ってみる。
「あまり文明は進んでないみたいだな」
電気やガスはなく、薪での暮らしっぽい。元の世界とそう変わらない感じか?
「少し休んでいくか」
ルームに慣れすぎると外に出たくなくなる。外の環境に適した体にならんと長生きできなくなる。ブリザードが収まるまでここを拠点とするか。
暖炉を掃除して家の中にある薪をくべてパイロで火を点けた。
「なんか燃えるところ見ると落ち着くよな」
暖炉の前でぼんやりしていたらいつの間にか眠ってしまい、気がついたら夜になっていた。
「いかんいかん。油断しすぎだろう。なにやってんだオレ」
ゴブリンはいなくてもモンスターがいる世界。油断してまた死んだら洒落にならん。六億円がもったいないわ。
「暮らしやすくするか」
ブリザードは防げるくらいの頑丈さはあるんだから修繕したら三年くらいは余裕で住めんだろう。
とりあえずテレキで埃を集めて外にポイ。ルームからライトとポータル電源を持ってきて家を灯した。
「明かりがあると生活感が出るな」
寝るのはルームにするとして、使わないのを外に運び出すか。ワンルームはあまり物が置けないからな。
雑誌なんかをまず外に出し、男だったときの服なんかを運び出した。
「続きは明日にするか」
別に急ぐ必要もなし。風呂を沸かして疲れを取り、鍋焼きうどんを作って食べた。
「明日は家の修繕するとして、道具が必要か? DIYか?」
そうなると発電機が必要だな。いくらするんだろう? 電動工具もいるな。どんなのがあるか調べないと。
あれこれ考えていたら眠くなってきた。
「まだ幼いせいかすぐ眠くなるな」
片付けは明日にして布団に潜り込んだ。おやすみ~。