第27話 カルペラスト王国
結婚式は賑やかに始まり、夜遅くに終わった。
パックワインも三百個は消費してしまったが、この村に残る二人の生活は守られるだろう。
サーグたちもたくさん飲んだので、二日くらい休んでから出発することにした。
山小屋はそのままに、また来るときのために薪をぎっしり用意して、小川の流れを変えて山小屋の前まで流した。
「また使うの?」
「ああ。ここからならテレポで一日くらいでイエティたちの村に帰れるだろうからな」
ちゃんと帰るときのことを考えているんだよ。
テレキボードで戻ると、出発準備は出来ており、次の日の朝に出発した。
大きい町まで馬車で五日。途中、村はあったが、そこまで大きくはないとのこと。寄らない計画で馬を歩かせた。
「平和なものだ」
前の世界なら山賊の一団が二、三回は現れているところだ。
「エリーダ。精神が揺れているぞ」
旅は平和なので、エリーダを荷台の屋根に上がらせて禅を組ませている。
超能力は制御出来る力だ。精神を鍛えれば他人の思念──超感覚波長も遮断出来るのだ。
精神集中。それには禅が一番だ。オレも超能力を制御しようと、一年くらい禅を組んだものだ。
まあ、一朝一夕とは行かないが、日々修行である。そして、オレは体力強化。馬車をテレキで包みながら五キロのダンベルえっちらほ。目指すはシックスパックだ。
「マリーダ様。サンベルクの町が見えて来ました」
この国、カルペラスト王国の端にある辺境の町。サンベルクらしい。
辺境伯が治めているそうで、なかなかの大都市なんだとか。そこで宿屋をやるかはまだ決めてはいない。まずは一年くらい暮らしてみて、だ。その間に金を稼いだり、人を集めたりする予定だ。
「そう言えば、あの村、なんて名前だっけ?」
「プルリコ村ですよ」
御者に尋ねたら呆れ気味に答えてくれた。
「町に入るのにお金掛かるの?」
「出入り自由とのことです」
へー。良心的、なのか? 魔物がいないと壁を造る必要もないってことか? どうなんだ?
近づくに連れ、人が増えていき、集落がいくつも見えて来た。
往来があるからか、オレたちのことなどまったく気にしてない。世界が違うとこうも違うんだな……。
城壁がないからどこから町かもわかない。いつの間にかに町の中に入っていたよ。
目的地(目標地か?)は決めているようで、馬車が停まることはなく、たくさんの馬車が停まっている広場にやって来た。
「結構馬車が停まっているな」
貿易都市、ってわけじゃなかろうが、辺境にしては人で溢れている。なんか産業があるのか? 畑も牧場も結構あったが。
「マリーダ様。ロントン広場です。ここを拠点にしてサンベルクを調べて行きます」
「了解。護衛とか雇うんでしょう?」
オレが守ってきたが、さすがにオレ一人では大変だ。ここに住むにしてもまた旅立つとしても護衛はいたほうがいいと、雇う話はしていたのだ。
「はい。傭兵団があるそうなので」
魔物はいない代わりに戦争や領土争いはよくあるそうで、隊商も身を守るために傭兵団を雇うそうだ。
「人選には気をつけてね。ダメならアタシが片付けるから」
コネも伝手もない状態。望むような人材を手に入れることなんて無理だろう。その選別はオレがやるとしよう。バカならオレに手を出して来るだろうからな。
「わかりました。マリーダ様たちは宿を取りますか?」
「うーん。どこか空き家を探すよ。サーグたちとは別の手法でサンベルクを探るとしよう」
オレも異世界を満喫したいし、集団行動はまだ慣れない。もうしばらくは単独……ではなく、エリーダと二人で見て回るとしようじゃないか。
「わかりました。連絡はどうします?」
「空き家が見つかるまではここに帰って来るよ。夜に情報交換といこうか」
「はい。食事も用意しておきますね」
「ありがと。エリーダ、行こう」
夜まではまだまだ時間がある。今日は適当に歩き回ってみよう。
エリーダの手を握り、とりあえず来た道を戻ってみる。広場らしきところがあったはずだ。
「大丈夫?」
一応、テレキバリアーを張って思念波を遮断はしているが、それでも感じ取ってしまうのがテレパス系能力者だ。意識して遮断開放志向を持たせるには数年の修行は必要だろうよ。
「うん。マリーダの心に触れているから」
オレの心に触れるのは嫌じゃないらしい。別に聖人ってわけじゃないのにな。どちらかと言えば荒んでいるんじゃなかろうか? ゴブリン駆除は心がすり減る仕事だったからな~。
「他人の悪意にも慣れておくといい。人間なんてそんなもんだと理解すれば期待もしないし、衝撃は受けないからね」
人間に夢も希望も持ってないが、だからと言って絶望もしていない。クズ・オブ・ザ・クズなんて早々いないし、悪意を振り撒いている者もなかなかいない。人間、どいつもこいつもクズだと思っていたら落胆もしないものさ。
「まずは食べ物の調査だな」
「ふふ。マリーダは食いしん坊だね」
「それしか楽しみがないからね」
人の集まるところに美味しいものあり。オレはグルメハンターになる、かどうかはわからんが、不味いものより美味いものが食いたい。知っていて損はないことだ。




