第19話 補給基地
補給基地が見えて来た。
森の中にあり、柵で囲まれている。そこそこの規模である。
「結構厳重だな」
よくよく見たら柵が二重になっていた。
「あの森には狼がたくさん住んでいた」
「じゃあ、死体を片付けてくれるな」
狼が人間を食らうかは知らんがな。食ってくれるなら万々歳だ。
「お前たちの仲間はいたのか?」
「いや、いない。わたしたちは希少種だからな」
絶滅危惧種ってわけか。ん? あれ? 前に団体で見たような気がするんだが。気のせいか?
「レナたちがやるか? 逃げても狼が片付けてくれそうだしな」
「やろう」
どんだけ人間を恨んでんだか。人間たちの自業自得とはいえ、哀れになってくるよ。そんな生き方しか出来ない人間の業にな。
「気が向いたら何人か残しておいてくれ。片付けをお願いしたいからさ」
「無理だったらすまない」
「そんときはそんとき。無理にとは言わないよ」
レナたちの怒りを抑えたいわけでもない。気が済むまでやってくれても構わないさ。
レナの背からテレポする。魔法攻撃に巻き込まれたら嫌だからな。
補給基地が見下ろせる木の枝に座り、レナたちが暴れるのを観戦する。
この世界のペガサスって戦闘種族だよな。よく騎乗しようと思ったもんだ。どんな魔法を使ったんだか。やはり創造魔法系なんだろうか?
風の魔法を伸ばしていっただけに風での攻撃がメインになっている。
風の刃的なもので人間たちを真っ二つにしたり、風で吹き飛ばしている。なかなかの阿鼻叫喚である。
「やっぱり、人間が殺されてもなんも感じんな」
前の世界で人間を避けて生きてきたのが原因だろうか? すくない接触も敵対しちゃったしな。いい思い出なんて片手で数えられるくらいだったよ。
まあ、超能力なんて力を持っていたりするしな。人とは違うことを何百回と見せつけられてきたものだ。同種の生き物とは見れなかったんだよな。
ましてや今生は人間かも怪しい。長命種とかだったら益々人の心を失いそうだよ。
阿鼻叫喚は一時間くらい続き、徐々に静かになっていった。
「もういいかな?」
テレポで補給基地に飛んだ。
「酷い臭いだ」
血の臭いに満ちており、下手に空気を吸うと気持ち悪くなりそうだ。マスクをするか。
ルームに入ってマスクを買ってきた。
「暴れに暴れたものだ」
もうちょっと周りを気にして殺してもらいたかったよ。使えそうなのあるかな?
「マリーダ。生き残りはそこだ」
白い毛を真っ赤に染めてレナがやって来た。
「水場で洗ってこい。乾くと大変なことになるぞ。てか、風を纏って返り血を浴びないようにしろ」
「風で纏うか。うん。やってみよう」
知能は高くなったが、想像力はまだまだ低いようだ。
ペガサスたちが水場に飛んで行き、オレは生かされた者たちを見た。
「生きてればいいってもんじゃないんだがな」
かろうじて生きているのが五、六人。生きてんだか死んでんだかわからんのが十数人。無傷は……四人か。まあ、四人もいたら充分か。見張るのも面倒だしな。
「アタシはマリーダ。素直に従うなら生かす。逆らうなら殺す。好きなほうを選んで」
「し、従います! 殺さないでください!」
真っ先に三十歳くらいの男が声を挙げた。
「よかった。素直で。じゃあ、死体を集めて柵の外に放り投げて。埋めてあげたいってんなら穴を掘っても構わないよ」
「いえ、外に放り投げます」
「いい判断だ。名前は?」
「サーグです」
「よし。サーグが代表となって残りを指揮して。いい働きをしてくれたらここにあるお金をすべてあげる。望むなら帝国ではない国に連れてってあげるよ」
なかなか状況判断と決断力、そして、度胸がある。まあ、信用ならないタイプではあるが、そもそも信じてはいないのだから気にすることはない。使えるから使うまでだ。
「はい! お願いします!」
「他の者はサーグに従うこと。逆らったり逃げたりしたら殺すから。あ、そのときはサーグの罪にはしないから安心して」
「ありがとうございます」
「休み休みやっていいし、お腹が空けば自由に食べていいから。死体が腐る前には柵の外に放り投げてね」
あとは任せて使えるものがないかを探すことにする。
村で必要なものは揃えられたが、これだけ大きいなら大量に作れる鍋なんかあるはず。イエティサイズの鍋が欲しいんだよな。
「お、あった」
ラーメンのスープを作れそうな鍋が五つもあった。ラッキー。
「てか、さすがにルームには入らんか」
そこまで広くない。入れられても一つがやっとだな。
「ペガサスで運ぶのは無理だし、馬で運ばせるしかないか」
馬車があったのでそれで運ぶか。村から逃げたヤツも二、三日で辿り着けれるんだ、馬車ならそう時間はかからんだろうよ。
「イーダたちも呼ぶか」
欲しいものがあったら好きに選ばせたほうがいいだろう。
レナたちが帰って来たら湖の小屋に飛んでもらい、イーダたちを連れて来てもらうことにする。
ペガサスに食料を運んでもらえばイーダたちも苦ではあるまい。ゆっくり待つとしよう。
「サーグ。料理出来るヤツはいるか?」
「はい。ミランダが出来ます」
四十くらいの女がミランダで、料理番なんだとか。そりゃいい。こちらの料理を作ってもらうとしよう。




